第22回 木星会議の報告
The 22nd Jupiter Conference '97 in Kyoto
1997年8月23日[土]〜24日(日)

主催 月惑星研究会
会場 興正会館(京都)

伊賀 祐一

※画像をクリックすると、大きい画像を見ることができます。


8月23/24日に京都・興正会館で、第22回木星会議が開催されました。48名の参加者が熱心な討論を繰り広げた2日間でした。

今回はIAU総会が京都で開催されており、惑星大気の権威であるAndrew P. Ingersoll教授(カルフォルニア工科大学惑星学)をお迎えして特別講演が行われました。ガリレオ探査機の最新情報を交えて惑星大気の研究成果をご紹介していただきました。

初日は5つの研究発表とIngersoll教授の特別講演が行われました。その後、Ingersoll教授を囲んでの交流会、ポスター発表が行われました。また懇親会の後で、4つの分科会が開かれ、全員が夜遅くまで熱心に討論を行ないました。当夜は快晴で、C8シュミカセでの木星の観測も開かれ、ちょうど大赤斑も見られることもあり、予定時間を大きく超えるまでスケッチやビデオ観測が行なわれました。

2日目は、今年の木星面のディスカッションが行われました。6つのテーマに従ってスケッチやCCD画像を検討しながら、今年の木星の特徴がまとめられましたが、ちょうど観測シーズンの真ん中ということもあり、予定時間に納まりきらないほどの議論が続きました。その後、3つの研究発表が行われ、来年の開催地を東京で行なうことを決定して、暑い京都での木星会議を終了しました。

参加者
月惑星研究会:五十嵐・石橋・岩瀬・唐沢夫妻・河北夫妻・斉藤・佐藤(パタ)・鈴木・鈴木(カパ)・鈴木(ブッチャー)・竹内・田部・長谷川・堀川・繭山・山田
月惑星研究会関西支部:浅田・安達・伊賀・奥田・忍穂井・浜野・林・吉田
東北惑星研究会:松田
大学天文連盟:天野・荒井・井出・浦田・白木・仙台・竹内・手島・永井・藤井・松下・翠川・村田・山路・吉成
東亜天文学会:大沢・佐藤(健)・松本
紫香楽天体観測同好会:岡本・外村

阿部(名古屋大学)・小山田(?)・中島(九州大学)・

開会の挨拶
安達 誠(月惑星研究会関西支部長)

IAU総会に出席されるIngersoll先生をお迎えして特別講演を予定しています。今晩は天気も良さそうで、C8での観測会も予定しています。


研究発表

STrZの白斑の運動について
堀川 邦昭(月惑星研究会)

今年の5月下旬に大赤斑と衝突したSTrZの白斑は、1995年 7月29日頃から目立って観測された。この白斑はいつから観測されたかを調査したところ、1994年のSL9彗星の衝突痕G核の下に存在していることがHSTの画像からわかった。

RogersはSTrZの白斑の特徴を、(1)かなり長命(1983-85,1987-93)、(2)比較的大きなovalで、SEBsにBayを形成、(3)体系IIに対して停止、(4)おそらく高気圧的渦、(5)SEB淡化時に小赤班が発達、とまとめている。

月惑星研究会でのCMT観測をまとめると、この白斑は1994年に出現し停止していたが、1995年からゆっくりと後退を始めた。一方、1987年に見られた白斑も1987-89年は停止していたが、1989年にゆっくりと後退を始めた。1993年にはさらに後退して小赤班がすぐそばに生じた。1993年にはSEB Disturbanceが発生し、5月にはこの白斑は見えなくなった。この白斑と1994年からの白斑は別なものであると考えている。

この白斑が1995年から後退を始めたのは、1995年2-3月にSEBsに暗斑群が発生し、その速いjetstreamの影響だと思われる。同様に1987-93年の白斑が1991年に後退速度を速めたのも、1990年のSEB Disturbanceの影響だと思われる。


北温帯流−Cの活動
伊賀 祐一(月惑星研究会)

1997年4月頃から、NTBsを高速に前進する暗斑が見られた。暗斑はPic du Midi天文台のI-bandの画像に多く見られるが、浅田・奥田のCCD画像や、眼視でもprojectionとして捉えられている。解析を行なって7個の暗斑に分類することができ、北温帯流-Cの属していることがわかった。平均の自転周期は9h49m8.2sであった。

1965年以降では、1964-65、1970年、1975年、1980年、1990年と5年周期で発生しているが、今回の活動は1992年に見られたような小規模な活動だと思われる。


STrZ白斑の大赤斑との相互作用 田部 一志(月惑星研究会)

STrZを後退して1997年5月22日に大赤斑と衝突した白斑は、その後大赤斑の周りの渦に取り込まれながら北側を回った。5月29日まではすなおに白斑を追うことができ、この時には大赤斑の後方にも白斑らしいものが認められた。6月2日に大赤斑をすり抜けて大赤斑後方に現われたが、それ以降は不明になった。

公開されている画像を解析したところ、STrZの白斑は図のような動きをし、大赤斑の周りの気流に取り込まれたと考えられる。白斑は大赤斑の内部に入り、大赤斑に飲み込まれたと結論づけられる。しかしながら6月9日以降の白斑は不明になってしまった。


Galileo Probeから推測される赤道帯festoon/plume循環
竹内 覚・長谷川 均(月惑星研究会)

木星の雲の中のことはよく分かっていないが、1995年12月にガリレオ探査機によるprobeのデータから木星大気について推測することができる。木星の大気はアンモニア・硫化アンモニア・水の3層構造をしていて、大気が深くなるにつれて風速が強くなっていることが解析された。しかしながら予想されたほど水の量が多くないことが分かった。

そこで長谷川のfestoonモデル(1980年)を考え、plumeがアンモニア雲が吹き出している箇所、festoonが雲が沈み込んでいる箇所としての対流モデルによる説明を試みた。鉛直方向に東西方向のシアーを考えた熱対流モデルでは、内部ほど風速が大きくなること、水の欠乏が説明できた。


イオ・フラックスチューブを用いた木星磁場モデル
佐藤 毅彦(東京理科大学 計算科学フロンティア研究センター)

これまでの木星磁場の測定は、探査機の直接のスイング・バイによるもので時間も短すぎるものであった。そこでイオによるフラックス・チューブの位置をハワイ大学の3mIRTF赤外望遠鏡で測定し、木星磁場モデルの構築をしている。

改良されたIRTFのデータを用いて作成した南半球でのモデルと測定値との違いがあり、球面調和関数の次数を3次から4次に改良することで、実測値をよく説明できるようになった。


特別講演

Outer Planet Atmospheres

Andrew P. Ingersoll
Professor of Planetary Science

Division of Geological and Planetary Sciences
California Institute of Technology

田部一志氏からIngersoll先生のご紹介があり、特別講演が行なわれました。

最初にガリレオ探査機の最新の画像を中心に、木星の大気現象を説明されました。次に木星大気の理論的な解析の研究の一端を、modonのコンピュータ・シミュレーションにより渦がマージされる様子をご紹介されました。最後に外惑星の大気の雲の成分や風速などのモデルのご紹介があり、最新のご研究をアマチュアのためにやさしく解説していただきました。

なお、先生の講演は佐藤毅彦氏によって同時通訳が行われました。

講演終了後、先生のご好意に感謝してプレゼントをお渡しいたしました。

※田部一志氏のご好意でIngersoll先生の特別講演の日本語全訳をいただきました。

交流会ならびにポスター発表

特別講演を終えられたIngersoll先生を囲んで交流会が行われました。プロの研究者と生でお話する機会を持つことができました。また、並行してポスター発表も行なわれ、以下のような発表がありました。

STrZの白斑の運動について              堀川 邦昭(月惑星研究会)
STrZ白斑の大赤斑との相互作用            田部 一志(月惑星研究会)
木星観測の整理のためのWWWの利用           伊賀 祐一(月惑星研究会)
23年間の木星観測スケッチ              安達  誠(月惑星研究会)
20年間の木星写真                  石橋  力(月惑星研究会)
今年の木星のCCD画像                 宮崎  勲(東亜天文学会)
今年の木星のCCD画像                阿久津富夫(東亜天文学会)
2.5cmによるSL9衝突痕のスケッチ           佐藤  健(東亜天文学会)


懇親会

Ingersoll先生を交えて、興正会館1階食堂にて懇親会が開かれました。木星に関係する数字から何人かの方にスピーチをいただきました。20時からの分科会や観測会を控えていることから抑え目の懇親会でした。料理が少なくてすみませんでした。


分科会

懇親会を終了した20時から4つの分科会が行われました。

  • インターネット体験(伊賀)
    パソコン2台を用いてINS64回線によるインターネット体験を行っていただきました。主に関西支部のリンク集からたどっていただきましたが、どちらかというと日本語のページが好まれるようです。

  • 冷却CCDカメラ(浅田)
    冷却CCDカメラで実績をあげておられる浅田氏から、撮影のテクニックを学びました。実際の撮影の難しさから、後の画像処理までの労力の多さを強調されていましたが、既にCCDで挑戦されている方やビデオから乗り換えようとされる方、これから挑戦したいという方で熱心な討論がされていました。
  • 基礎講座と観測会(堀川・安達)
    堀川氏はプリントを配布され、木星の模様の名称から様々な木星の現象について解説をされました。安達氏はスケッチの書き方についてご自身の経験を熱く語っておられました。

    会館の外では、C8シュミカセを5台使用して、木星観測会が行われました。ちょうど20時に大赤斑が見えるとあって、一度は全員が外に出てしまいました。基礎講座を聴いて実際にスケッチに取り組んだ熱心な観測者が予想以上におられました。石橋氏は持参されたビデオカメラによる木星の撮影を行われ、翌朝ビデオ上映をされましたが、眼視で見るよりもコントラストがあがり、色調も豊富な木星に感心させられました。


  • 初心者講座(吉田・浜野)
    木星を始めたばかりの人やこれから始めようという人が集まり、自分のスケッチを見せ合いながら、木星スケッチの楽しさを語り合いました。


番外編

分科会が終了したのは23時頃でした。この頃から持ち込んだビールを飲みながら、日頃は接することのない観測仲間との語らいが始まりました。懇親会の料理が少なかったことや観測会でお腹をすかしてか、おにぎりを手にする方が多かったですね。

写真はIngersoll先生が初めて挑戦されたカラオケの様子を捉えたビデオを前に談笑しているものです。一部のものは深夜まで話し込んでしまい、睡眠不足の方が多かったことでしょう。反省しましょう、T氏。

翌朝は7時15分という早い起床で、朝食を1名を除いた全員でいただきました。この会館は宗教施設でもあり、山口管長からの訓話がありました。


ディスカッション:今年の木星面(座長 堀川邦昭)

堀川氏が座長を務められ、今シーズンの木星面の特徴をまとめられました。画像やスケッチを紹介するためにビデオ・プロジェクターが大活躍でした。

  • STrZの白斑と大赤斑との衝突
    5月29日以降のSTrZの白斑の行方をまとめました。5月29日から6月2日までの観測はありませんでした。
    6月3日D.Parker大赤斑の直後のSTrZに白斑が見える。
    6月5日S.Murrell大赤斑の中の右上に白斑がある。
    6月6日I.Miyazaki大赤斑の真下、右下、右の3ヶ所に白斑が見える。
    6月9日Pic du Midi大赤斑の右上と左下が明るい。大赤斑の南のSTBが濃い。
    6月11日Pic du Midi大赤斑の上が明るい。
    6月12日Pic du Midi大赤斑の左上が明るい。
    6月3日の大赤斑の後方の白斑は明らかにSTrZの白斑だと思われます。その後の白斑の行方は、大赤斑に飲み込まれてしまって分からなくなってしまいました。ただし、大赤斑の南側のSTBの暗斑は白斑の影響の可能性も捨てられないでしょう。
  • STB〜SSTB
    今シーズンのSTB〜SSTBにかけてのベルトは「床屋の看板」ともいえる階段状になっていて、ベルトの名称がつけにくい状況です。7月18〜20日の堀川氏の展開図を元に、このベルトの状況が以下のようにまとめられました。

    STB本体は90°の永続白斑BC付近から175°まで見えています。この後方ではSTBnだけがわずかに残って、STBはしだいに北側が剥ぎ取られ、STBsとして208°まで続きます。さらに後方はSSTBとして見えています。

  • SEBZの白斑
    大赤斑後方の白斑群も活発な活動をしていますが、この領域以外の経度でSEBZの白斑が見られることはあまりありません。今シーズンのSEBZには体系IIで305°付近とそれより後方の340°付近に白斑が出現しました。CMT観測から305°の白斑はSEBZをゆっくりと後退していて、340°付近の白斑はSEBnを分断して高速に前進していることが分かりました。これらの白斑は7月19日に同経度に重なって観測されました。
  • NEBnのbargeとnotch
    今シーズンのNEBnにはいくつかのbargeとnotchが観測されています。特に280°付近にはbarge-notch-bargeの特徴的な3連構造が見られます。CMT観測によれば、7個のbargeと6個のnotchに分類されました。これらの模様はゆるやかに前進していますが、中には停止しているものもあります。また、10°付近のnotchはそれより後方にあったnotchが前進してきてマージされた可能性があります。
  • NTC-C
    伊賀の研究発表にあったように、今シーズンのNTBsには7個の暗斑が出現し、北温帯流-Cの非常に高速な気流に乗って前進しています。中には眼視でも認められるような暗斑がありますので、注意して観測して下さい。
  • NTZのbarge
    4月上旬に体系IIで200°付近にbargeが観測されました。HSTの4月の画像にきれいな細長い赤色のovalが撮影されています。このbargeはゆっくりと後退を続けていますが、8月には淡くなったようです。

研究発表

Shoemaker-Levy第9彗星の衝突痕跡の成層圏粒子の時間変化
長谷川 均、竹内 覚、森 淳、山本 直孝、渡部 潤一

Shoemaker-Levy第9彗星の衝突痕跡の近赤外分光観測を、1995年5月と1996年7月に岡山天体物理観測所のOASISを用いて行なった。雲粒子による多重散乱を考慮した放射伝達モデルの計算を行なったところ、観測されたアルベドの減少は、痕跡粒子の落下によるものであることがわかった。


STBの経年変化
安達 誠(月惑星研究会)

1973年以降の観測からSTBの変化を追いかけてみた。

1974年STBに気泡状のriftが出現したが、これが復帰した後のFA〜BCのSTBが淡化した。FAがRSを通過
1977年STBに顕著なrift構造が見られる
1980年BC前方が淡化FAがRSを通過
1983年FAの存在が不明FAがRSを通過
1987年BC〜DE、DE〜FAの間に白斑が出現FAがRSを通過
1994年全周にあったriftが縮小FAがRSを通過
1997年体系II=200付近にSTBの淡化部FAがRSを通過予定

STBの大きな変化が発生した時には、必ず永続白斑FAが大赤斑を通過している。FAと大赤斑との関係があるように思われる。今年もFAが11月頃に大赤斑を通過するので、STBに変化が起こるかもしれない。


デジタルビデオによる97年の木星
唐沢 英行(月惑星研究会)

6月14日〜8月20日までにデジタルビデオで木星を観測した。これらのビデオの上映を行い、十分な観測として利用できることを示す。


来年の木星会議

最初に長谷川氏から、彗星・小惑星・流星の観測グループと合同で太陽系会議を開催してはどうかという提案があることが報告されました。木星会議として参加することを前提として、検討を進めることが確認されました。

次回の木星会議は、東京で1998年秋に開催されることが決定しました。


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