月惑星研究会関西支部例会・支部通信 No.61

2009年07月26日

 今月は、南西諸島を中心とした皆既日食の直後となり、遠征した人が多く、例会はほとんど参加者のない、前例のないさびしい例会となった。これだけ人が少ないと、張り合いがなかった。ただ、今回も、滋賀県立米原高等学校の生徒さん3名が来てくれたため、人数は6名となった。全員初対面ではないので、毎回行っている近況報告は割愛し、高校生諸君に分かるような話を中心に進めていくことにした。
 例会の初めから、木星に何かが衝突し、おかしな模様が出来たことは、高校生諸君も知っており、それについての解説から行うことにした。

参加者
坂本・里田・高倉・木村・林・安達 以上、6名
例会集合写真

林さんは、日食から帰国されてすぐでしたが、例会情報を見ると、安達だけになるのじゃないかと心配されて、無理に来ていただきました。思いやりに深謝です。



シューメーカー・レビー第9彗星についての解説

 安達が昨年神戸で依頼された講演のプレゼン「SL9はもう過去か」というものを用いて、SL9とはどんな事件だったかを、彗星の発見から衝突、そしてその後の変化、さらに田部さんがフランスで見つけたカッシーニの暗斑まで解説を行いました。今回の事件はそれと同じような模様が出来たことで、世界中の天文家が熱い思いをしていることを解説した。

今回起こった衝突事件

  いろんな情報が飛び交っているが、一番信頼できる情報として、John H Rogersのレポートを元に、今回の事件を振り返った。
   Anthony Wesley氏が報告してきた最初の画像 ・・・ 7月19日15h56mUT
   再調査の結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7月19日14h02mUTが最初と判明した。

   同じ日の観測として、日本国内でも記録があり、三品・米山さんも同じ日のほとんど同じ時刻に観測記録したものがとられていた。あとからわかったことだが、小澤さんと小山田さんも撮影に成功されていた。
     三品氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15h35m
     米山氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16h36m
     小澤氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14h56m
     小山田氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 15h49m

 今回の現象は、日食遠征組みが日本から離れたときに起こった大事件であった。また、メタンバンドや赤外での画像を発生直後に撮影できると良かったが、長引く梅雨のため、撮影できなかったのが残念だ。
 しかし、三品氏はいちはやく、BAAに報告を送られたため、Rogersの最初の速報に同時発表ということになったことは、すばらしいことだった。上の4人はもちろん独立発見ということになる。

三品氏撮影
米山氏撮影
小澤氏撮影
小山田氏撮影

 衝突痕が見つけられた直後、これが本当に衝突痕であるかどうかは、赤外画像で明るく写る かの確認が必要だったが、ハワイのIRTFやパーカー氏の画像で明るく写っていることが確認され、衝突痕であることが確認された。
 衝突痕は東西に長くなりつつあり、今後の経過観測が楽しみである。

NTrZの大型暗斑について

  前回の例会後に起こった大変化である。これも John H Rogers氏からのレポートがあるので、 それを元に、現象の解説を行った。5月31日に永長氏の画像でNEBnから北に向かって延びてい るプロジェクションが見られた。その後、この位置から暗斑がNTrZに出現し、非常に暗く目立 った暗斑として注目を集めた。
 その後、2つの暗斑がほぼ同じ経度で発生し、アウトブレークの様相を呈した。今回の暗斑の振 振る舞いは非常に面白いものだった。最初に出来た暗斑をDS―1とすると、DS―1はNTrZに出 現すると前進を始めたが、緯度が不安定でNTrZのジェット気流にぶつかると後退を始め、後続 のDS-2と南北に並んだ様子が確認された。その後、DS-1はDS-2に経度上は追い抜かされ、位置 は判然としなくなった。直後、DS-3が発生し、現在に至っている。
 これらの振る舞いは、過去の例から見ると、NEBの北への拡幅現象につながっており、今回の 現象もこの前兆現象である可能性が高い。どのような経過で進行するか、興味がもたれている。ま た、すぐ後方には同緯度のWS-Zがあり、将来的に遭遇が予想され、これも興味深い現象となるだ ろう。
 安達は、NTrZは暗斑と白斑が交互に並び、ウェイブのようになっているところがDS-1が多く、 ジェット気流だけではなく、その影響も受けて緯度が変化したと考えている。




BAの不思議

HPを見ていて気がついたことだが、同じ日の同じ観測者の画像に面白いものが見つかった。それはFabio Carvalho :氏(Assis,Brazil)の画像である。

これら4枚の画像は、昔のようなものではなく、たくさんの画像をスタックしたものであるから、 平均化されているはずだが、右下の画像に至ってはなんとも不思議な姿を呈している。前日(7月 7日のJohn Kazanas氏の画像ではいつものように一つのリングとして写っている。解像度の高い 画像だが、注意深く見る必要があると同時に複数枚の報告も必要だと思われる。


小白斑が面白い

 偶然だろうが、小白斑がたくさん見られて面白い。左の画像はパーカー氏のものだが、南半球のSSTB付近にたくさんの白斑が出来ている。肉眼ではこんなに見ることは出来ないが、非常におもしろい。
 衝突痕のあるHSTの画像の中に、北半球での小白斑の画像があった。(下図)きれいな白斑の姿ではなく、渦になっている様子が面白い。これは、白斑の出来かけなのか、それとも白斑にはならないものか 判断できないが、同じよな間隔で出来ており、NEB北縁の白斑を思い起こさせる。




火星の報告

 観測の最初は4月26日、セブ島の阿久津氏のものだった。視直径が4秒なのに模様がよく写っ ており驚かされた。このときのLsは255°で、南半球の夏至(270°)の直前だった。火星の大規 模ダストストームの発生時期は240°〜310°くらいだから、要注意期間に入っていた。しかし、 地球からの大きさは小さく、詳細をつかむことは困難だった。
 国内での観測の最初は、永長氏で4月28日で阿久津氏から2日後だった。国内は気流が良くな かったが、いよいよ火星の観測時期となった。
 最初に見つかった現象は4月29日の永長氏の画像で、南半球明け方の朝霧が非常に顕著に出て いることが記録されていた。これほどまでに視直径の小さなときの記録はなかったように思う。そ の後も、この傾向は続いていた。次に待望のダストストームだが、5月22日になって、同じく永長 氏がアウソニア(Ausonia;258W,-35)が明るくなっている様子を報告してきた。一瞬あわてたが、 その後に送られてきたほかの観測者の画像を調べてみると、ダストストームではなさそうだと考え た。また、同じような現象が6月26日の林氏の画像に南半球全体が黄色くなっているものがあっ た。しかし、これも前後の観測からダストストームであるとは認められなかった。
 今日現在、火星の視直径は5秒を越えた。何とか模様を観測できる大きさになったといえるだろ う。また、火星の南半球の季節も夏至を過ぎて秋分に向かって進み始めている。


火星のトピック

 <鳴子クレーター>
2008年1月18日、国際天文学連合(IAU)は直径4kmの火星クレーターを「Naruko」と命名することを承認した。後にこれが温泉地として知られる宮城県の旧町名「鳴子」(現在大崎市)に由来することがわかり、話題になった。  ちなみに、日本関係の名前がついた月面の地形だが、甲賀市の西谷氏からの情報によれば、かなりあるようで、表側にクレーターが2つある。また、裏側にはたくさんあり、次のようになっているとのことだ。

 JAXAの「月についてのFAQ」の中に渡辺先生監修で「月面の地名で日本に関係したもの」というのがあり、リストの中で月の表側に有る実在の人物では麻田剛立 安島直円だけ。

Asada 麻田剛立(江戸時代の医者、天文学者)7.3N 49.9E クレーター (12km)
Hatanaka 畑中武夫 (天文学者)29.7N 121.5W クレーター (26km)
Hirayama 平山清次・平山信 (天文学者)6.1S 93.5E クレーター (132km)
Kimura 木村栄(位置天文学者)57.1S 118.4E クレーター (28km)
Murakami 村上春太郎(天文学者)23.3S 140.5W クレーター (45km)
Nagaoka 長岡半太郎(物理学者)19.4N 154.0E クレーター (46km)
Naonobu 安島直円(数学者)4.6S 57.8E クレーター (34km)
Nishina 仁科芳雄(物理学者)44.6S 170.4W クレーター (65km)
Onizuka エリソン・オニヅカ (宇宙飛行士)36.2S 148.9W クレーター (29km)
Reiko れいこ(日本の女性名)18.6N 27.7E 谷 (2km)
Taizo たいぞう(日本の男性名)16.6N 19.2E  クレーター (6km)
Yamamoto山本一清(天文学者)58.1N 160.9E クレーター (76km)
Yoshi よし(日本の男性名)24.6N 11.0E クレーター (1km)

URLは http://moon.jaxa.jp/ja/qanda/faq/faq7/name_japan.html
  こんなにあるとは思わなかったので、実に意外でした。


土星のリングが暗い

 もうすでに話題になっているが、土星のリングが非常に暗くなっている。天界に堀川氏がその理由を書かれているから、理由はそちらを参照していただきたいが、画像をならべてみると、実に面白い。

太陽の位置関係で、このようにったわけだが、あまりに暗く、写しても写らないのは当たり前。 ちなみに、1996年の浅田秀人氏の画像と比べるとこんなにもちがっていた。
これなら観測もしやすいが、ずいぶんちがうものだということを実感した。


事務連絡

(1) 創立50周年祝い金
 月惑星研究会が今年創立50周年記念になった。お祝いの半世紀になったわけで、今年は大々的にパーティーを行いたい。よって、この支部通信とは別に木星会議の案内を、ここ数日中に送ることにするが 、一つ重要な提案をしたい。
 本部が出来て創立50周年ということで、大きな節目になる。そこで、イギリスからJohn H Rogers先生をお呼びして、特別講演をお願いしている。その交通費を日本からお支払いすることがすでに決まり、 そのお金の用意は出来ている。ところが意外に手数料や経費が高く、困っている。そこで、支部としてはそれを補完できるように3万円を祝い金として拠出したいと思うのだがいかがだろう。
 会員の皆様方の賛否を伺いたい。理由はともかく1人1票で、賛成か反対かをメールで送っていただき、多いほうに決したいと思う。例会で図りたかったが出席者が少ないので、 こんな形を取らざるをえなかったことをお許しいただきたい。

(2) 天体観測の教科書「惑星観測」編
 皆さんの協力を得て、ようやく出版できた。ご協力いただいた方に、深くお礼を申し上げます。しかし、重大なミスを犯してしまった。 それは堀川氏と池村氏の名前を誤ったことで、邦昭 なのに 邦明としてしまったこと。また、池村さんの名前も俊彦 なのに 利彦となってしまい、 私も出版社もみんな気がつかず、とうとうそのまま世に出てしまったことだ。言葉にならないくらい失礼なことになり、陳謝したい。

(3) 次回の例会
 次回は10月18日(日)となっている。こんどこそたくさんの会員の参加を期待します。


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