月惑星研究会関西支部通信 No.23

1999年10月24日



参加者(11名)
 伊賀 祐一 / 中西 英和 / 林 敏夫 / 田中 実 / 薄出 敏彦
 松田 昭市  / 新川 勝仁 / 奥田 耕司 / 河原 義則
 池村 俊彦 / 安達  誠

 本年最後の例会を行ないました。今回は久々に10名を超す参加者があり,盛況でした。特に東海方面からの参加者が4名もありましたし,新しく入会いただいた方も加わり,大変有意義な会となりました。いつもは木星中心になるのですが,今回は土星や火星も話題にあがり,本来の月惑星研究会になった感じがします。もっとも,月面課は休止状態ですが。

 10月17日に行なわれた月惑星研究会40周年記念パーティーには,支部からは支部長の安達と伊賀さんが参加しました。東京本部の参加者との交流を図ることができました。とりわけ伊賀さんが本部の方に声をかけられたことから,本部の方が支部のメーリングリストに参加されることになりました。したがって,今回の支部通信もその方たちに届いています。支部のメンバーと本部のメンバーとの交流は今まで余りありませんでしたが,これを機会にさらに発展していくことを願っています。

 この40周年のパーティーのときに会長の平林さんから,本部のほうはできてから今年で40周年になるけれども支部のほうも,休眠期間はあるけれども出来てからは今年が25周年にあたりますよ,と,知らせていただきました。今までこういったことにはとんと無頓着だったので,実のところ驚きました。支部のほうは30周年くらいになったら,お祝いをしましょうか。もっとも,例会のあと,わずかなメンバーではありますが,いつもお祝いをしているようなものではありますが。


◎自己紹介と近況報告

安達

10月17日の記念パーティーに行ってきた。支部のほうのメンバーに東京方面の方が,最近になって入会を希望される方が多く,ちょっと,本部にたいして失礼なことで申し訳無く思っているが,本部と支部との活動の中心が現在ははっきり異なっているために,混乱はしていない。支部のほうは画像が中心となっているが,これからは本部の方たちとも連絡を取り合い,研究の方面にお互いが協力して行ける環境作りに邁進したい。

伊賀

ウェーブを運営している。ここしばらくは仕事の方が忙しく送られてきた情報をアップするのが遅れている。なるべく早い機会に追い付きたい。現在HPには1日40回くらいのアクセスがあり,1/3は海外からのアクセスになっている。英文化が必要になってきている。観測報告も英語をいれて送っていただけるとありがたい。ウェーブのためには観測報告をたくさん送っていただくことがすべてなので,会員の皆さんはがんばってください。

中西

もともと惑星はやっていなかった。中学生のころから天文をやりはじめていたが,ヘール・ボップ彗星が地球に接近したとき以来復帰することになった。住んでいる町が明るいため,CCDからはいった。銀河星雲をやっていたが池村さんに会い,惑星にはまってきた。撮影は最初に比べて良くなってきている。

今年は自分にとってCCD元年である。7月から使いはじめた。中西さんや奥田さんに教えてもらってやっている。自分でやれるといいが,当面伊賀さんに処理をお願いしているが,ミノルタのDimageを使っている。

田中

病気にかかってから今年の3月に退院した。前回の例会から支部に入会して,活動をはじめた。池村さんや薄出さんから刺激を受けており,昨夜も望遠鏡を運んで観測していた。なかなか光軸がうまく合わず,苦しんでいる。近いうちにMT200の架台が手にはいるのでそれを使ってがんばっていきたい。

薄出

仕事が忙しく観測はなかなか進んでいない。ピコナやST7などを使っている。ドームの方も完成間近になっている。今後は鏡筒の軽量化に取り組んでいきたい。

松田

1年ほど前から本腰をいれてやりはじめている。みなさんに迷惑をかけないようにやっていきたいと思っている。カメラは3種類(BJ30C、PICONA、Dimage)持っており,それらを試しながら観測していきたいと思っている。  

新川

天文のスタートは小学生のころからやっていたが,就職して忘れていた。会社で画像処理の仕事に当たってから天文の世界に戻ってきた。赤外カットフィルターを取り付けたものやはずしたものを使い分けて撮像している。1973年の火星や木星のスケッチを持って来た。(パステルのスケッチを含む)スケッチは基本だと思う。何よりも眼が大切だ。(安達が目を細めていました。‥もしかして,機嫌取りだったのでは)

奥田

住んでいる信楽では夜の気温は4℃にも下がっており,家ではストーブを炊いている。中学生からはじめ1990年から入会。ビットランCCDで2年半モノクロの1枚画像を撮影した。フィルターボックスを作ってから主力は3色のカラー合成になっていった。現在眼視はストップしている。

河原

サザンクロスのメンバーをやっている。(来年の木星会議のときにお世話になる方です。)池村さんと会ってから病的に惑星をやりはじめた。日増しに惑星が主になっていった。ムトウCV04のカメラ,ピコナそれとあと1台ある。25cm自作カセグレインを使用している。自作で光学系を作れるようになった。(アイピース以外全部自作だとか。)

池村

昨夜も撮影してやってきた。(画像をしっかり持ってこられました。)プリンターが異音をだしてへこたれてきた。毎日の生活の半分以上が画像処理に追われている。


◯ 東京の報告(安達)

 本部のお祝いに出かけてきた。内容などはメーリングリストを通してすでにお知らせしていますが,たくさんの関係者の方々がおいでくださいました。様子は月刊天文に掲載されると思います。取材がありましたから。

 我々の研究会は創設者の一人の海部先生が専門家になられましたし,東京方面の本部のメンバーには長谷川さん佐藤さんをはじめとした惑星大気の専門家がおられます。また,我が支部には群馬天文台に河北さんが行かれましたし,かわべ天文台には小嶋さんがおられ,大きな望遠鏡での観測の道もついています。今後大きく発展していくと思います。本部と支部ということで集まりは異なりますが,これからはどんどん積極的に交流を深めて行ってほしいものだと思います。

 ただ,私たちの支部とちょっと性格が異なる点が本部にはありますから,それを紹介しておかねばならないでしょう。というのは,本部は会という形を厳密に取っていません。私たちの支部は会の形をきちんと取り,会費をいただき通信を発行しています。また,例会は基本的に会員のためのものであり,一般に開かれていません。といっても閉鎖しているつもりはありませんし,誰が来てもいいのですが,東京と違って集まっているのは名簿にあるメンバーがほとんどです。しかしながら本部はこの様な硬い決まりはありません。すなわち,例会のときに集まりたいものが案内を見て集まるだけなのです。会場費を集まったもので折半して年会費を集めたりしていないのです。従って名簿はありません。無理をいえば出来るのでしょうが,現在のところは無いわけです。  理由は簡単で,大学天文連盟の学生さんたちもたくさん来ます。今回の例会にも東海大学の学生さんが6人来ていました。この方たちを本部のメンバーとして登録するには無理があり,そういう人でも来やすいように,名簿をつくって管理するということをしていないのです。ただ,例会の通信をほしい人は世話人の鈴木さんに連絡を取れば送っていただけるので,この方たちが本部のメンバーだといえるかもしれません。

 こういった事情を知っておいていただきたいと思いますが,基本的に,いろいろな活動に対して名称が必要な場合は月惑星研究会として使っているのです。かなり自由だということでしょうか。私たちもいいところは見習う必要があるかと思います。


◯ 木星近況報告(座長伊賀:伊賀)

(1)BEとFA付近

 近況に先だって,伊賀さんからこのBEとFAについての説明を基礎講座的に行なっていただきました。アウトラインを示しておきます。 

 1941年に永続白斑ができた。当時は白斑ではなく,暗部が3つ出現して各々がAB/CD/EFという名称をつけられていた。ところがだんだん小さな領域だった明部が大きくなり,いつのまにか白斑として認知されるようになった。いつしか3つの白斑はBC/DE/FAとして親しまれるようになった。

1970年代  3つの白斑は非常に顕著だった。
1990年代  経度的に1ヵ所に集中してきた。
1995年   BCとDEの間に逆回転の白斑が出現した。
1998年   このBCとDEが合体(マージ)して新しい白斑BEとなった。

8月から9月にかけてこの2つの白斑(BEとFA)は大赤斑の後方に接近してきており,次第にその距離が近づいてきた。6月には2つの白斑は15°の隔たりがあったが8月には13°と接近してきた。ところがBEが大赤斑に接近すると,大赤斑付近の反時計回りの気流に引き寄せられるかのようにFAとの間が広がっていき,現在の10月には6月のときのように15°の間に広がってきた。

 現在BEは大赤斑の後端に位置しており,これからFAやその間にある小さな白斑が大赤斑の南側を通過していくことになる。この時,FAなども次第に大赤斑の周辺の反時計回りの気流に引き寄せられ,加速するものと思われる。その後,大赤斑を各々が通過し終るときに,加速されたFAがBEに後ろから追突する形で合体する可能性がある。伊賀さんはこの可能性を2000年1月ごろではないかと動きから予想されている。またしても合に近いため,観測が困難な時期にはいるが,各観測者は目を離さないでほしい。

 BEは現在もSTBの北側が広がったような多角形の形をしており。内部にはアルファベットのTの字のような模様があって,それによりes,3つの区分になっているように画像には捉えられている。ただ,メタンバンドを使っての画像ではBEの広がりのうち南側だけが明るく写り,FAと同じ緯度の部分だけが永続白斑として認められるとのことである。

(2)SEB領域

 大赤斑の後方で淡くなる傾向が,顕著になってきた。以前は明るい白斑があったが,現在では,白斑はあるものの目立つ程ではない。また, SEBの中央組織に当たる赤い色をしたバンドは,大赤斑の後方の領域では目立たなくなっており,ずいぶん淡くなった。

 大赤斑後方のSEB以外ではSEBの北側に明るいベルト状の部分が見られる。この部分は気流がよいとたくさんの小さな白斑の連続となって見えるのだがこの部分が全面をほぼ取り囲んでいる。伊賀さんは(安達も)この明るい部分は昨年のmid-SEB outbreakが大赤斑の北側を通りすぎたときにできたものではないかと考えている。大赤斑の北側を通り抜けた白斑の雲がこの様な明るい帯を作り出したのではないかという考えである。

 SEBnが淡くなってきている。このままいくと,かなり広いEZが出来上がるが,現在のEZは南側が北側に比べて狭くなっており,このベルトが無くなれば広いEZの中央にEBが見えるという,南北対称の姿になるかもしれない。

 また,大赤斑の前方にはstreakの様なものがあり,画像ではSEBが南側に幅を広げたように写っているのがわかる。この部分はSEBsが大赤斑の方に向かって後退してきた流れが反転して前進に写るポイントになっており,今後の変化に注目する必要がある。

 STrZ には北寄りのSTBnの位置に小さなbargeがいくつか見られている。最近のBAAからの木星のニュースにもあったが画像で良く捉えられていることが報告されている。このbargeは非常に早く前進しており,4°/1日の移動量をもっていた。今後の動きにも十分注意する必要があるだろう。

(3)大赤斑

 南側のエッジが比較的濃くなっているが,北側は不明瞭になっている。中心部分はオレンジ色に薄く彩られていることが多いが肉眼的にはかなり厳しい見え方になっている。エッジと中央との間には明部が見られ,時々,大赤斑の内部に小さく輝きの低い白斑が見えている。画像でも認められるが,気流がよいときに安達が眼視でも認めている。  大赤斑の後端にstreakが出来ており,SEBのBAYにつながっている姿が捉えられている。

 中心の経度はおよそ,68°に位置している。

(4)NEB

 たくさんの明るいリフトが見られる。大きなものは全面で3ヵ所見られるが,小さなものが頻繁に出ており,消長が著しい。前端と後端の自転周期を求めると面白い観測ができるものと思われる。

◯ 土星(座長:池村)

 最近は支部だけではなく,BAAにも積極的に画像を報告されておられ,参加の前日にもダミアン=ピーチやデイビット=グラハムさんに画像を送られたとのことであった。中にはひどく言う人もいるが,おおむね良好に受け止められているようだ。

安達から:
 私も含めて,もっと海外の方へレポートを送ったら良いと思います。海外の方は多いに歓迎されています。池村さんがされておられるように是非これが広がることを期待しています。

 池村さんの画像でもそうですが,デイビット=グラハムさんも日本の阿久津さんも同じように南極の周囲に取り巻くように赤いリングが確認されていました。ただ,最近になってこの赤いリングはやや淡くなった様に見えています。眼視では安達が31cmで赤っぽく見ていますし,60cmの反射でも赤っぽく見ています。安達は肉眼的には赤色の検出はどちらかというと苦手ですが,それでも感じますから,結構赤くなっていたのだろうと思います。

 南極地方は今シーズンに入ってたびたび白い雲のような明るい部分がでているとのこと。池村さんが特に慎重に処理されていますが,単なる画像処理によってできた人工の模様ではなく,たしかに存在すると池村さんは考えておられます。この部分については非常に微妙でデリケートな部分のことですから,すべての人を納得させる様な情報にするのは困難かも知れません。ひょっとするとHSTがいいものを提供してくれるかもしれませんね。

◯ 白斑?

 新川さんの観測によれば10月20日1=190°付近のEZの白斑らしきものが写っていました。25分で移動しているようにも思われます。とのこと,確認できる情報があれば送ってください。

◯ エンケの空隙についての共通見解

 新潟の吉田達雄さん(新潟天文研究会)という方からエンケの空隙について教えてほしいという質問がありました。池村さんのところに着信したメールにあったとのことで,我々としてどのように考えていくかについて,例会で話し合いました。
  • まず,エンケの空隙とは何か
  •  この空隙については土星のA環の中にある空隙のことと考えられています。そして一般的にはA環の中央付近にあるように,昔から考えられてきたものです。
     安達が,佐伯先生がご存命のころに尋ねたところによると,A環の中央付近の暗いバンドの中央付近に1本暗い筋があってそれのことを指すのだということでした。今から25年くらい前の話です。15cmや20cmくらいの望遠鏡で見ると,たしかにA環の中央付近が他の部分よりも暗く見え,あたかもベルトが存在するかのように見えます。口径が小さいとその傾向が強く出るらしいことが今回の例会で話題にのぼりました。このA環の暗いバンドの中央のことをエンケと呼んでいたことで参加者の見解は一致しました。
  • 最近の一般的な見解
  •  ボイジャーが土星の近接写真を撮ってきて以来,見方が大きく変わりました。A環の外側から1/5の位置に明瞭な空隙が捉えられていたからです。ほとんどの方々はこの空隙を見て『これがエンケの空隙だ』と,考えたようです。事実安達もその様に考えましたし,その様に人に話したことさえあります。おそらく,この空隙が一般的にエンケの空隙として受け入れられていることと思われます。
     わたしたちはこのボイジャーが撮影した空隙の名前を知りません。ひょっとするとしっかり名前があり,私たちが知らないだけかもしれませんが,すくなくとも我々ではこれがエンケの空隙なのかどうかについては判りませんでした。
  • A環の外側から1/5の位置にある空隙が見えるのかどうかという事も話題になりました。
  • 実はこの空隙は非常に細いもので,非常によい気流と鋭眼をもって,しかも環の開きが最も大きなころに見ないと見えない難物なのです。池村さんは見えた事が一度もないとおっしゃっておられました。多分それがほとんどの方だと思います。一般的には見えないといったほうが正解だと思います。例会のときに見た経験をもつ人は安達と奥田さんだけでした。口径が30cm位ないと厳しいですが,奥田さんは自宅の25cmでご覧になっています。後で判った事ですが,この時同じ信楽町に住んでおられる天文家で宇多さんという方が同じときに,同じ望遠鏡で確認観測をされておられました。
     先日あった40周年のパーティーのときに横倉さんがこられており,この1/5の位置にある空隙をきれいに描いておられました。土星のHPに伊賀さんがアップされますが,実に見事に描かれていました。よほどの条件がそろわないと見えませんが,たしかに口径が大きくなると見えることは確かな様です。
  • 結論
  •  ボイジャーが撮影した空隙はエンケではない。
     エンケの空隙は実在しない。
     この事が今度の例会で共通理解された事柄です。

◯ 金星

 新川さんが積極的に青色で撮影されています。10月10日の画像では北極地方が南極地方よりも明るく写っているということで,ほかに確認された方がないか尋ねておられました。残念ながら該当者が無く確認できませんでしたが,画像を処理することで新しい発見の可能性が出てきたように思います。

 青の画像は,なかなかコントラストをつけて撮影できないものなのですが,CCDが普及した現在はそういった不便さは無くなってきたように思います。金星の写真といえば薄明中に撮影するのが一般的ですかから,気流がよいときに撮影できることはなかなか大変ですが,最近の処理方法を活用すれば,観測できる条件が満たされるのではないかと思います。

 今回は新川さんの興味深い画像が見られました。支部のHPにアップされたら是非ご覧ください。最近になって池村さんを中心として大活躍をしているピコナでは今まで余り目立った模様が出ないと思われていた土星に相次いで模様が見つかっていますから,金星も狙えば土星並みにいろんな観測ができるかもしれません。撮影器材をお持ちの方は是非とも狙って見て下さい。


◯ 事務局より

  • 会費
  • 今回,河原さんから会費をいただきました。来年の1月に例会を実施しますが,来年度の分の会費を次回にはお持ちください。全員です。河原さんは気の毒ですから結構です。会費は,印刷費や,一部インスタントコーヒなどに使いました。瓶で買いますからたいして出費とはなりませんが,これから例会などで配られた資料で,手元にあったほうがよいものを選び,遠方の会員の方に送付するなどの費用に使わせていただきます。
  • 名簿
  • 近日中に二人くらいの新入会員がありそうですが,決まりましたら新しい名簿をみなさんのところに送らせていただきます。

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    郵便番号520ー0242 大津市本堅田4ー8ー11
    東亜天文学会理事 企画部長
    月惑星研究会関西支部支部長 安達 誠


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