火星の近況
2018.5.27 月惑例会
1 はじめに
2018年3月から5月にかけて視直径が7秒から14秒とほぼ倍になりました。さらに、7月31日には大接近
となり、視直径は24秒になります。
火星の太陽黄経Lsは3月にLs140°、5月末にはLs180°、大接近のころにはLs220°となります。下の図1,2
のように、火星が徐々に暖かくなる時期です。Lsとは太陽黄経と呼ばれ、火星の軌道上の位置を表します。日本
で使う暦でお馴染みの、春分、秋分、立春、立秋などの二十四節気と似ています。
図-1 火星の軌道、Lsと火星の表面温度
図-2 火星の軌道とLs
2 白雲と局所的なダスト・ストーム(黄雲)の見分け方(2018年3月4月の画像から)
3月から4月には、白雲(水の雲)が見られました。その画像をWinjuposで調べてみます。
最初は3月7日にイギリスのダミアン・ピーチさんが撮影した画像です。ほぼ円形の白い雲がくっきり写っています。
Winjuposで、その雲の位置を調べると43.9°N, 106.2°W付近だとわかります。その位置をVirtual Planet Atlasで調べ
ると、アルバという山地だとわかります。
次は、同じダミアン・ピーチさんが撮影した4月5日の画像には、火星の北半球に明るく写っている場所があります。
カラー画像の右に、左から赤、緑、青の画像が並んでいます。その場所は赤と緑で明るくなっており局所的なダスト・ストーム
だとわかります。Winjuposで位置を調べると、68°N,216.2°W付近だとわかります。やはり、Virtual Planet Atlasで調べる
とエリシウムだということがわかります。
3 南極フード(SPH-South pola hood)と南極冠(SPC-South pola cap)の見分け方
5月ににはLsが170°〜180°となり南極フードがなくなり、南極冠が姿を見せ始めています。
南極フードと南極冠は、近赤外画像と青の画像で波長で見分けられます。
表-1 南極フードと南極冠
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近赤外
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青
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南極フード
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暗い
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明るい
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南極冠
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明るい
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明るい
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2003年の4月にアメリカのドン・パーカーさんが撮影した画像でその様子を見てみましょう。
2003年4月14日、Ls168.1°の画像を見ると、南極は、青450nmでは白飛びするほど明るいのですが、赤610-1100nmでは
やや灰色に写っています。画像の下に、”SPH remains bright,large"とキャプションがあります。
2003年4月24日、Ls173.6の画像には、赤610-1100nmの画像で南極フードの端に明るい点が見られます。
キャプションは"SPC breaking throu hood."となっています。
2003年5月4日,Ls179.2になると、赤610-1100nmの画像では極を取り巻く帯状に明るくなっています。
キャプションは"SPC brilliant"です。
赤610-1100nmの画像を並べると下のようになります。南極フード(Ls168.1)と南極冠(Ls179.2)の写り具合の違いが
わかると思います。
2018年の岩政さんの画像では、4月22日がLs164°でした。青では明るい南極フードがIRではやや灰色に写っています。
5月11日,Ls174°になると、岩政さんの画像も山崎さんの画像も、南極付近のIRでの写り方が明るくなっているので、
南極冠が見えているようです。
4 7月以降の様子(南極冠とミッチェル山)
さて、7月の大接近のころには、Ls220°になります。どのように見えるのか、2003年の画像を見ましょう。
2003年7月6日、Ls216.4°のドン・パーカーさんの画像です。極冠は赤610-1100nmでも白飛びするほどに明るく映り、
その内側の南極点の周りは灰色になっています。
南極点の周りに見られる薄暗い領域を"Cryptic regin"(謎の地域/暗黒の地域)と呼びます。Piqueuxらが詳しく調べました。
その論文[1]によると、Ls175°になると、cryptic regionが永久南極冠の周りを囲みます。季節が進むと急速にcryptic regionが
縮小しLs200のころに最も小さくなます。そして、Ls205〜230の間には、150°〜300°Wにかけて広がります。
探査機で観測した様子が、下の図です。
[1] Piqueux, Sylvain, Byrne, S., Richardson, M.I., 2003, Sublimation of Mars’s southern seasonal
CO2 cap and the formation of spiders, Journal of Geophysical Research, volume
108, p. 5084
この領域は、地形や地質の分布とも関係がありません。探査機が詳しく調べると、水の氷の下から、
二酸化炭素が噴出し、ダストをまき散らしていることがわかりました。[2]
[2]アストロアーツ 天文ニュース 2006年9月 「火星の南極は毎年爆発する」
大接近を過ぎると南極冠が縮小して行きます。2003年8月21日、Ls245°ごろから、ミッチェル山が南極冠
から分離され始めました。2003年9月11日、Ls258°には綺麗に分離されて観測されました。池村さんをはじめ
何名も撮影されています。
今年は、9月9日にLs246°になります。そのころから、ミッチェル山が分離して見られるようになるでしょう。
ミッチェル山は、1845年8月30日にアメリカのミッチェルが、縮小してゆく南極冠から半島状に取り残された部分
があることを発見しました。発見者に因んでミッチェル山と呼ばれます。彼は、この半島状に取り残される部分は山
の頂だと予想し、1960年代まではそのように考えられていました。1970年代になりマリナーやバイキングが撮影した
画像には、その場所に“山”は無く、クレータの多い凸凹した地形が写っていました[3]。その後、MGSのOrbiter
Laser Altimeter(MOLA)の観測で、その付近が南斜面になっていることがわかりました[4]。
ミッチェル山の成因については、南極の風の影響[5]という説や、或いは、南向きの斜面による影響[4]との説があり
ます。詳しくは、2015年4月19日の例会での解説、「ミッチェル山」をご覧ください。
[3] Paul HodgeHigher著,2001年,Than Everest: An Adventurer's Guide to the Solar System,Cambridge University Press,P47
[4] Mars Global Surveyor Mars Orbiter Camera The Mysterious Martian Mountains of Mitchel MGS MOC Release No. MOC2-178, 17 September 1999
[5] James A.Cutte,1971,"The location of the Mountains of Mitchel and evidence for their nature in Mariner 7 pictures",Icarus Vol16,Issue3,P528-534
以上