火星の名所案内-大シルチス-

                        2015.11.8 月惑例会

                             三品利郎


1. かつては低湿地帯だと考えられていた大シルチス


 1960年代後半に地上からの電波(レーダ)観測で、火星の地形(起伏)を観測したり、
マリナー4号(1965年7月15日に火星に接近)を皮切りに6号,9号が写真撮影して、
詳細な地形を明らかするまで、暗い模様は窪地で明るい場所は高原だと考えられていました。
大シルチスは、夜明けや夕暮れに霧が発生することから、低湿地帯だと考えられていました。
植物が繁茂していると考えられていたこともありました。



● 実は、楯状火山

 1960年代後半には、地上からレーダで地形の起伏が観測・調査され、大シルチスは窪地ではなく、
高原地帯であることが判りました。
 そして、21世紀になり、MGS(Mars Global Surveyor)の観測データを解析して、
楯状火山であることが判りました。


出典: 2004,H. Hiesinger and J. W. Head III ,January 2004,
"The Syrtis Major volcanic province, Mars: Synthesis from Mars Global Surveyor data",
Journal of Geophysical Research 109 (E1)



2. 大シルチス、名前の由来

 リビアにあるシドラ湾の古代ローマ時代の名前Syrtis maiorという新約聖書にも出てくる地名です。
これは、スキアパレリが神話に出てくる地名や神々から採ったことによります。


●Syrtisの読み方

  良く知られた地名や単語のカタカナ表記を見ると”Sy"は”シ”となっています。
”ti"は、”チ”または”ティ”となっています。
従って、”Syrtis"は”シルチス”または”シルティス”とカタカナ表記すれば良さそうなことがわかります。
  Syria --- シリア
  Symphony Hall --- シンフォニー ホール
  ticket --- チケット
  titanium --- チタニウム
  tissue --- ティッシュ



3. ホイヘンスのスケッチ

1659年11月28日のスケッチに大シルチスが記録されています。

Lowell_-_Mars_(1894)_-_Huyghens'_drawing_of_the_Syrtis_Major,_Nov._28,_1659.jpg

(出典: Wikimedia Commons Lowell - Mars (1894) - Huyghens' drawing of the Syrtis Major, Nov. 28, 1659.jpg )


4. ハーシェルのスケッチ

1777年4月17日のスケッチに、大シルチスが記録されています。

ハーシェルのスケッチFIG17.jpg1777-04-17-1950.0-Mars-SR.png

(出典:"THE SCIENTIFIC PAPERS OF SIR WILLIAM HERSCHEL"
1912,THE ROYAL SOCIETY AND THE ROYAL ASTRONOMICAL SOCIETY AND SOLD BY DULAU & CO., LTD.
P22の挿絵
元論文:"Astronomical Observations on the Rotation of the Planets Round Their Axes,
Made with a View to Determine Whether the Earth's Diurnal Motion is Perfectly
Equable. In a Letter from Mr. William Herschel of Bath to William Watson, M. D. F. R. S.",
Philosophical Transactions of the Royal Society of London, Volume 71, pp. 115-138

http://www.jstor.org/stable/106518?origin=ads&seq=27#page_scan_tab_contents )


●ハーシェルが測定した火星の自転周期

ハーシェルは同じ模様が見える時刻の差から火星の自転周期を測定しました。
1779.5.9  11h0m45s
1779.5.11 12h16m48s から、24h38m1.5sを求めています。


Winjuposで調べると、5月9日11h0m45sには、CM296.0°です。 同じCMになるのは、5.11日12h12m48s、つまり3回転で4分の違いに収まっています。

Winjuposで再現した火星の様子です。

1779-05-09-2300.8-Mars-SR.png 1779-05-12-0016.8-Mars-SR.png
      5.9 11h0m45s CM296.0                      5.11 12h16m48s(5.12 00h16m48s) CM296.6°

 火星の自転周期は,24h37m23S(対恒星)です。 一方、同じ経度が見える間隔は衝のころはこれより1分程度早く、
合に近いころは3分ほど長くなります。

 

5. 大シルチス波長別の反射能

 大シルチスとその西にあるアラビアの反射能をを波長別に比べると、 400nm付近では、同じですが500nmより波長が長くなると
大シルチスは相対的に暗くなります。 これから、赤外線で撮ると大シルチスが濃く写ることがわかります。


fig7.png

出典: Thomas B.McCord and James A.Westphal,
MARS:NARROW-BAND PHOTOMETRY, FROM 0.3 TO 2.5 MICRONS,OF SURFACE REGIONS DURING THE 1969 APPARITION,
THE ASTROPHYSICAL JOUNAL, 168:141-153, 1971
)


6.ブルークリアリング

 通常は、青の波長で撮影すると模様が写らず、水蒸気の雲が明るく写ります。 まれに、青の波長でも模様が写ることがあり、
ブルークリアリング現象と呼ばれています。そして、 これは、「赤道帯に発生する氷晶雲帯による地表面のコントラストの増幅効果
(クラウドエフェクト「氷晶雲効果」) によるものであるとの説を、中串孝志氏(和歌山大学)が提唱されています。
(参考:中串先生の論文:
The Blue Clearing at Syrtis Major and its Relation to Equatorial Clouds : 1997 and 1999 Observations
京大のWEB http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/ 2433/172122/1/rtn2000_0017.pdf)

●ブルークリアリングの撮影

  画像は、2005年11月12日に撮影したものです。
VX430+光映社Bフィルタの組み合わせでToUCamのカラー撮影を行い、 画像からBチャンネルを取り出しました。
撮影した時には、上手く写らなかったと思ったのですが、 米山さんから「ゲインを下げると模様が明確に浮かび上
がったので、レジスタックスでウェーブレットを少しかければ、 もっとはっきりする」とのアドバイスを受け、
処理しなおしました。


Mars1.JPG

以 上