火星の近況
2017年3月27日 月惑例会
三品利郎
3月下旬になって火星の画像報告が増え始めています。1月中旬から3月下旬の間にLsは95°から125°まで動きました
遠日点、Ls71°を過ぎて火星全体が冷え切っていたものが、徐々に暖まって行きます。この時期の火星表面は、赤道付近の低緯度が
他に比べて暖かくなっています。
最近、報告された沢山の画像の中から、オリンポス付近の雲と白いヘラスが撮影されているものを選んで、風、気温や水蒸気量などをシミュレーションした図と見比べ
て解析してみます。
The Mars Climate Database Projects(http://www-mars.lmd.jussieu.fr)のMars Climate Database v5.2: The Web Interface(http://www-mars.lmd.jussieu.fr/mcd_python/#)
でシュミレーションしたものを以下に載せます。上空2000mでの気温、東西風向、水の氷、水蒸気の量のグラフです。
Ls95°から125°の季節は、北半球が暖かく南半球が寒くなっており、タルシス三山とオリンポスの付近に水の氷が集まっています。
まず、Ls95°時点での風向きと水氷の量をシミュレーションしたものです。経度0°が22時ですからオリンポスは14時ごろになります。いずれの図の赤がプラス、
青がマイナスに対応します。左上は、西から東に吹く風が赤、右上は、南から北に吹く風が赤です。オリンポスの付近は、東から西、南から北に風が吹いています。
左下は、上昇/下降気流の図です。赤が下降気流です。オリンポス付近は上昇気流になっています。右下は、水の氷の量の分布です。オリンポス付近はその周り
よりやや多くなっています。エリシウムとヘラス付近は、午前2時ごろになるのですが、周囲よりも水の氷が多くなっています。
次は、Ls95°での気温と風向きです。オリンンポス付近は北西に向かって風が吹いています。
続いて、Ls122°での様子です。風の傾向はLs95°のころと大きくは変わっていません。水の氷の量は、エリシウム、ヘラス、オリンンポスの付近が周囲よりも多くなっています。
色はスケールに合わせて相対的になっているので、異なるLsで比較するときは、目盛りを読んで比較しないと間違います。
タルシス三山とオリンポスの周りでは、南東から北西に向かって風が吹いています。この風向きを覚えておいてください。
下の画像は、3月13日にフランスのMarc Delcroixさんが撮影したものです。WinJuopsで調べると、オリンポスの周りに雲が出ていることがわかります。
上のシミュレーションと見比べると、山の風下側に雲が広がっているこことがわかります。このような雲のことを”Orographin cloud”と呼んでいます。
和訳すると”地形性の雲”ですが、山の付近で気流が上下に振動する現象が起きることで、上昇気流と下降気流が引き起こされ、地形と風の相互作用によって
風下側に雲ができることを指さす言葉です。英語での説明はこのサイトがわかり易いです。http://www.brockmann-consult.de/CloudStructures/orographic-clouds-description.htm
Peter Grego著, "Mars and How to Observe It",P70には以下のような説明があります。
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1. Lee waves,or orgraphic clouds, which form in the lee(the side opposite wind direction)
of large obstracles like as ridges, craters, mountains and volcanoes, where waveslikes oscillations are produced
in the Martian atmosphere and producing clouds when moisture-laden air is forced upwards over these high point.
Striking bright orographic clouds, brilliant and large enough to be seem through amateur telescopes, frequently form
on the leeward side of Olympus Mons and the other Tharsis volcanos.
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(Lee wave : https://en.wikipedia.org/wiki/Lee_waveを参照)
MROが撮影した3月13日の火星です。この画像と、上のシミュレーションを見比べると、風下の北西に雲が拡がっていることがわかります。
(NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems)
Ls122°の一日の変化をアニメーションにしました。上は風、下は気温です。
3月23日のアンソニー・ウェズリーさんの画像は、白いヘラスが詳らかに写っています。23日のMROの画像はまだ公開されていないので、
20日の画像を比較用に並べました。南北が逆なので注意してください。
(NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems)
Mars Climate Database v5.2: The Web Interfaceを使い2mでの、Ls126°時点での水氷の量の分布と気温をシミュレーションしたものです。経度0°が10時ですから
ヘラスは14Hごろです。ヘラスは水の氷の量が北極並みに多くなっています。気温は190K前後です。
下にLs95°左とLs126°右を並べ比較します。上が水の氷、下が水蒸気です。これは、ヘラスが14時ごろのものです。水の氷の量はLs95°の時が8.3e-03,
Ls126°が7.9e-03と大きくは減っていません。水蒸気は、Ls95°が8.0e-03、Ls126°が9.4e-03なので少し増えています。分布としては、Ls95°もLs126°もヘラスは
周囲と水蒸気の量は変わらないのですが、水の氷の量が多くなっています。これは水の氷の分布にはヘラスの地形が影響していると容易に推測できるでしょう。
次は、オリンポスが14時ごろのものです。水の氷は、Ls95°の時が,1.0e-02,Ls126°が7.1e-03です。水蒸気は,Ls95°が4.1e-03,Ls126が3.4e-03です。分布をみると、
Ls95°もLs126°もオリンポス付近はその周りより水の氷の量が多いのですが、水蒸気の量は大きく変わりません。これも水の氷の分布には地形が影響していると推測されます。
以上