2018年の火星大接近-その様子-
(2017.12.10 月惑例会)
三品利郎
1.接近時のデータ
最近の接近日と視直径、及びLs(Longitude of Sun,太陽黄経)という火星軌道上での
太陽との位置関係を表す経度を表にしました。接近のたびにLsが変わってゆきます。
今年、2018年は大接近になり、その時のLsは222°になります。2018年7月,2020年10月
の接近は、32年前、1986年7月と1988年9月の接近と視直径もLsも似ています。
接近日 |
視直径(秒) |
Ls |
2014年4月14日 |
15.2 |
116° |
2016年5月30日 |
18.6 |
161° |
2018年7月31日 |
24.3 |
222° |
2020年10月6日 |
22.6 |
291° |
2003年8月27日 |
25.1 |
249° |
1986年7月16日 |
23.2 |
206° |
1988年9月22日 |
23.8 |
277° |
Ls:0 北半球の春分 Ls:90 北半球の夏至
Ls:180 北半球の秋分 Ls:270 北半球の冬至
Ls:70.9 遠日点
LS:250.9 近日点
2.火星の動き
2018年7月31日に、やぎ座で大接近になります。西矩のころ、3月27日から11月20日まで、一週間ごとの火星の位置を
Cartes du Cielで作成しました。座標の罫線は赤経赤緯です。3月27日にはいて座にあり、やぎ座へ移動して6月28日に
留となり逆行しながら南へ動きます。赤緯が南にるほど南中時の高度が低くなります。大接近する7月31日の前後には、
赤緯が-25°よりも南になります。8月28日に留になると北に動き南中高度も高くなってゆきます。11月20日にはみずがめ座
に移動しています。
西矩、衝、東矩、合の定義と計算結果は赤道座標系を基準にする天文年鑑と黄道座標系を基準にする理科年表、天文手帳などとでは異なっています。留は同じです。
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西矩 |
太陽と外惑星の赤経の差が6時(西側90°)となる時刻 |
3月27日
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太陽と外惑星との地心視黄経の差が270°となる瞬間。 |
3月25日
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衝 |
太陽と外惑星の赤経の差が12時となる時刻 |
7月28日
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太陽と外惑星との地心視黄経の差が180°となる瞬間 |
7月27日
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東矩 |
太陽と外惑星の赤経の差が6時(東側90°)となる時刻 |
12月10日
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太陽と外惑星との地心視黄経の差が90°となる瞬間 |
12月3日
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合 |
太陽と惑星の赤経の差が0時となる時刻 |
---------------
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太陽と惑星との地心視黄経が等しくなる瞬間 |
---------------
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留 |
惑星の地心赤経の変化率が0となる時刻 |
6月28日、8月28日
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惑星の地心視赤経の時間変化が0となる瞬間 |
6月28日、8月28日
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◆国立天文台の暦計算部屋>暦象年表>天象のページで、各惑星の西矩、東矩、留、衝などの日時を計算できます。
◆国立天文台の暦Wikiに、「合・衝と座標系 †」の解説があります。赤道座標系を基準にする天文年鑑の定義と計算は、天文航法に由来するものです。
◆理科年表は、暦の惑星現象のページに各惑星の衝、留、合などが掲載されています。但し、西矩と東矩は掲載されていません。
3.火星の傾き(Winjuposで作成)
2014年から2020年にかけて、接近時の傾きが変わります。
上左 2014年4月14日:火星の北極が見えています。 上右 2016年5月30日:火星の北極側が見えています。
下左 2018年7月31日:火星の南極側が見えています。 上右 2020年10月6日:火星の南極が見えています。
4.火星の視直径
西矩のころ3月25日には、視直径はまだ8秒です。徐々に大きくなり5月31日には15.1秒になります。
さらに大きくなって大接近する7月31日には24.1秒まで大きくなります。
5.火星の位置と南中の様子
4次元デジタル宇宙ビュワーMitakaで火星や地球の公転を再現した動画が国立天文台の「NAOchannel」で公開されています.
2015年10月から2021年12月までが1分35秒の動画になっています.その動画から、3月25日、5月31日、7月31日の火星と地球
の位置関係が分かるように、スクリーンショットを切り出します。また、火星が南中した時の星空の様子をCartes du Cielで作成しました。
それぞれ、上が軌道上での火星と地球の位置関係、下が星空の様子です。
東矩の3月25日には火星は地球から17,500万km離れ、いて座に見えています。太陽と火星の間は90°なのですが太陽が北にあるため
火星が南中前する前に日の出になります。
5月31日になると9,280万kmまで近づきます。火星はやぎ座に見えており、横浜では、明け方の3時41分ごろに南中します。
7月31日には5,760万kmまで大接近します。やぎ座に見えている火星は、横浜では、23時33分ごろに南中します。
6.火星のLsと気温・季節風
THERMAL EMISSION SPECTROMETERのWEBで公開されている、"daytime temperatire move"からフレームを
切り出して火星の軌道に沿って、Ls0から順に並べました。色は気温を表しており、紫は-125℃、緑は約-50℃、赤は20℃°です。
遠日点、Ls71°から150°にかけては最も暖かい場所でも0℃程度です。近日点、Ls251°から270°のころは最も暖かい場所は
20℃ になります。火星全体として表面が熱い期間と火星全体として表面が冷たい期間とに、大まかに二分されます。火星の表面
が熱く全体として暖かな期間は、ダストストームが発生しやすく、時には全球を覆う大規模なダストストームになることもあります。最近
では、2001年6月26日と、2007年6月27日にそのような大規模なダストストームが発生しました。
今回の接近は、3月上旬にLs140°5月中旬にLs170°大接近する7月末にLs220°9月中旬にLs250°になります。火星が寒い
期間から暖かい期間までを観測することができます。
◆近日点の計算式は,NASAのTechnical Notes on Mars Solar Time as Adopted by the Mars24 Sunclockのページに掲載されています。
Ls=251.000+0°.0064891×(yr-2000) yrは西暦です。
下の図は、Mishael D.Smith著、"Spacecraft Observations of the Martian Atmosphere"に掲載されているfig2とfig5です。
fig2には火星面から上空までの気温の分布、fig5には風向と風速の分布が描かれています。それを火星の軌道の周りにLsに
対応させて並べました。上がfig2、下がfig5です。
Lsと火星の気温分布をみるとLs90°とLs270°では様子が異なります。気温の高い赤の分布と気温の低い緑の分布が緯度
方向に逆転し、Ls270°の方が全体として気温が高くなっています。
Ls0°とLs180°は火星の北半球の春分と秋分に対応しています。Ls0°とLs180°の気温分布はよく似ています。
Lsと火星の風の分布をみるとLs90°とLs270°では風速が異なります。西から東への風速が速い赤の分布と東から西への
風速が速い紫の分布が緯度方向に逆転し、Ls270°の方が西から東も東から西も風速が速くなっています。
Ls0°とLs180°は火星の北半球の春分と秋分に対応しています。Ls0°とLs180°の風の分布はよく似ています。
7.火星接近の解説サイト
火星接近についてWEBに解説が掲載されています。
◆火星大接近2018 国立天文台
◆火星の接近 国立天文台
◆火星大接近 2018年7月31日 つるちゃんのプラネタリウム
◆火星までの距離〜小接近と大接近 ぐんま天文台
◆THE 2018 PERIHELIC APPARITION OF MARS A.L.P.O
8.観測に必要な情報の入手
火星を観測する時に役立つWEBです。
(1)過去の記録
◆月惑のweb
国内外の観測者が撮影した報告画像が掲載されています。
◆米山さんの雑記帳
観測している様子が生き生きと伝わるよう書かれており、自分が観測・観望する時のイメージを描きやすいです。
(2)タイムリーな情報
以下のようなコミュニティがあります。
◆火星観測者ml(欧米の観測者が参加)
欧米と日本は、見える火星面の経度が違う。米国は日本で見る経度-320度、欧州は日本で見る経度-220度。
従って、米国で起きた現象が、1週間もすれば日本で見られるようになります。
オーストラリアや東アジアの人とは同じ経度を見ています。
◆Cloudy Night 米国のBBS
観測についての様々なテーマごと掲示板があります。
◆BAA MARS SECTION (BAA 火星セクション)
19世紀中ごろから続くイギリスのアマチュアの天文コミュニティです。
(3)探査機の画像
◆Mars Weather Reports
(MSSS Mars Captioned Image Releases)
MROが撮影した火星全球の様子を見られます。
◆ VMC The Mars Webcam
(ESA Mars EXPRESS)
ESAの探査機、Mars EXPRESSが撮影した画像が毎日、公開されます。
以上