月惑星研究会例会通信 No.156

■ 日 時 : 2014年9月7日(日曜)13時−17時

■ 場 所 : 船橋市視聴覚センター5階 視聴覚ホール

■ 出席者 : 29名(敬称略) 

田部一志、神崎智大、縄田景太、高田恵介、寺村崇之、望月麻理恵、伊澤彩貴、保田知香、
吉田駿平、三谷祥二、鎌田太陽、龍華良典、守屋宏紀、諸岡 等、小澤徳仁郎、石橋 力、
近内令一、米山誠一、三品利郎、堀川邦昭、米井大貴、小道雄斗、白木悠大、西川俊吾、
増田健汰郎、大島拳斗、秋山航太郎、戸塚 一、鈴木達彦
例会の様子
例会の様子


■ 内 容

1.木星の近況(堀川)

  1)今シーズンの木星は全体的に昨シーズンと比較し大きな変化は少ない。

  2)昨シーズンとの違いとしては、GRSに変化見られ、昨シーズンは赤く明瞭だった
   GRSの周りに黒い模様が目立っている。2000年のGRSに似ている。
   その2000年の時と同様にSTBの暗斑群がGRSに接近した影響が考えられる。
   GRSの周りに黒い模様が出来るとGRSは不鮮明になる可能性がある。
2000年以降の大赤斑の様子

大赤斑の見え方による違い

  3)BAぼ赤味が薄れている。現在のBAはGRSの後方に達しており、今後GRSを追い越すが、
   今回はGRSへの影響は少ないと予想される。BA後方のSTBの短縮が進んでおり、
   新たなSTBの元になる暗い模様(STBゴースト)が発生している。
典型的なSTBsegmentの活動サイクル

  4)GRSの前方のSEBにある謎の明部は、昨シーズンより長くなっている。
   またSEBsの活動が激しくなっており、暗斑群が連なっている。
   GRSの後方のSEBも活動的で乱れた白斑が連続している。

  5)SSTBにある白斑群は、昨シーズンに発生した10個目がまだ確認できていない。

  6)EZはフェストーンは昨シーズンと同じ状態。

  7)NEBは昨シーズン同様に細いけど、極端に細くはなっていない。
   NEB内に長いリフトが発生している。昨シーズン淡化したWSZが明瞭な状態に
   戻っている。   NTBは南組織が見えなくなっており、北組織のみとなっており、
   その北にあるNNTBとの間が狭くなっている。

  8)今シーズンはGRSとその周辺に注意が必要とのことでした。またSEBの変化も要注意。
   現在のGRSの経度は216度です。

2.土星面近況(堀川)

 1)北極に見られる六角形模様(Polar Hexagon)は2013年は判り易かったが、

  2014は判り難くなっている。六角形模様の外側が暗くなったことが原因と思われる。

六角形パターンの変化

 2)北半球の高緯度に存在する同心円状の模様は発色と濃さが変化している。

土星の北極の六角形パターン

 3)2010年末に発生した大規模なストームの影響は2013年までは残っていたが、

  2014年になりほとんど消えて、本来のSTBの模様が見れるようになった。

2010年に起こった白雲活動の影響

3.土星北極部の六角形模様に関する考察(田部)

    この六角形模様は波数6の正弦波による模様と思われる。
波数6の定常的ロスビー波1

波数6の定常的ロスビー波2

波数6のサインカーブを極座標で描いたら

4.WinJuposでの大赤斑の経度合せ方法の説明(三品)

    Optionのタブを開き“Longitude of left margin”で”2”を選び、
    経度の値を調節して、大赤斑がCMを通過する時の経度を合わせておく。
WinJuposでの大赤斑の経度合せ方法1

WinJuposでの大赤斑の経度合せ方法2

5.火星の経度体系・緯度の解説(三品)

火星の経度体系・緯度の解説の目次
  1)IAUが採用している経度体系は二種類ある。
    West Longitudes(西回り経度)と呼ぶ、北極から見て時計周りに0°〜360°の
   経度体系(地球の西経の方向)のもの。英語のテクニカルタームは、
   planetographic latitude(惑星図経度)である。
    これは、伝統的に地上観測で使われている。地球から見える中央の経度が
   時間とともに増加し、扱いいやすいためである。
    天文年鑑やWinjuposが使う火星の中央経度はWest Longitudesである。
   East Longitudes(東回り経度)と呼ぶ、北極から見て反時計周りに0°〜360°の
   経度体系(地球の東経の方向)、英語のテクニカルタームは、
   planetocentric latitude(惑星中心経度)である。
    論文に書くときは、例えば、330°WのようにW/Eの文字をつけて区別する。
   探査機の軌道計算にはこの経度が用いられる。その理由は、経度の増加方向が、
   極座標系と同じだからである。
    ヘラスの中央付近とオリンポス山の付近の経度線を読むと経度体系を見分けられる。
    West Longitude  ヘラス:300°,オリンポス: 135°
    East Longitude   ヘラス: 60°,オリンポス: 225°
    もう一つの経度系 ヘラス: 60°,オリンポス:-135°

  2)火星の経度の起点はかつて、子午線湾(アンリの爪)となっていいた。
    現在は、メリディアニ平原(子午線平原)の南にあるエアリー(Airy)クレータ
   (直径43.05 KM)の中にある直径500mのエアリー0(Airy-0)というクレータの上を
   通る位置に経度の起点が定められている。
      (http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA03207を参照)

  3)オポテュニティは、2004年1月25日午前5時5分 (UTC) メリディアニ平原の
   直径20mのクレータ(イーグルクレータ)に着陸した。
      (http://mars.jpl.nasa.gov/mer/newsroom/pressreleases/20040125b.htmlを参照)
   スティーブン・スクワイヤーズ著 「ローバー、火星を駆ける」(P364,P394)に、
   イーグルクレータのエピソードが紹介されている。
   アポロ11号の月着陸船にちなんでイーグル・クレータと命名したが、もう一つの意味がある。
   着陸がゴルフのホールインワンのようにドンピシャリで成功したことから、
   ゴルフのパースリーのホールでホールインワンを意味するイーグルとしたとのことだ。

6.火星面近況(三品)

火星面近況の解説の目次

  1)今シーズンの火星面の温度や風の状況変化
火星の軌道、Lsと火星の表面温度

Lsと火星の気温分布

Lsと火星の風
   
   2014年2月15日にLs(Solar longitude)=90°となり、8月17日にLs=180°となった。
   2014年4月から7月の間には、Lsは110°から160°まで進む。
   その間、冷え切った火星が徐々に温められてゆく。

  2)3日間での雲の変化
    4月25日はシーングが回復していた。連続3日、オリンポス付近を撮影し、
   3日間で雲が変化するか調べようとした。25日26日はほぼ同じような雲の様子だった。
3日間での雲の変化

  3)オリンポス山の風下に発生した地形性の雲
オリンポス山の風下に発生した地形性の雲
    このような雲を、英語の本は、“orographic cloud”と書かれている。
   日本語に訳すと“地形性の雲”である。地形性の雲については、
   「てんコロ.の気象予報士講座」というWEBに詳しい説明がある。
   そこを読むと山岳波により風下に出来る雲であることが理解できる。 
   2014年4月25日(Ls=121°)のオリンポス山の山頂付近(高度2万m)を、
   The Mars Climate Database ProjectsというフランスのWEBで計算すると、
   東から西へ風が吹いていることがわかる。その図は以下に示す。
火星の風の状態図
   (出典: http://www-mars.lmd.jussieu.fr/mcd_python/)
   左上は風速のグラフ、左下は東西の風向きのグラフ(赤:西から東,青:東から西)
   右上は、上昇下降流のグラフ(赤:下降流、青:上昇流) 
   右下は、南北の風向きのグラフ(赤:南から北、青:北から南)
   左下のグラフから、オリンポス付近(20°,-135°)は東から西へ風が吹いていることがわかる。
   従って、探査機が撮影したオリンポスの雲は、山頂から風下の西にのびていることがわかる。

  4)アマチュアが北極冠の縮小を詳細に捕らえた画像
アマチュアが北極冠の縮小を詳細に捕らえた画像
   (撮影Kardasis Glyfada氏  Athens,Greece)
   3月23日から4月8日の画像を組み合わせて北極展開図を作成したものが
   送られてきた。比較のため右に1997年のHSTが撮影した火星の画像が添えられている。
   (画像クリックで月惑星研究会の画像報告ホームページに掲載した画像が表示されます)

   また、イギリスのダミアン・ピーチさんからも北極展開図が届いた。
   探査機が撮影した北極冠と同じ画像が得られた。

  5)不思議な前線の変動(火星の風の向きと逆方向に時速130〜140kmで移動する模様)
不思議な前線の変動
   五月の下旬に、フランスのクリストファ・ペリエさんから「不思議な前線の変化」を
   GIFアニメにした画像が届いた。
   (画像クリックで月惑星研究会の画像報告ホームページに掲載した画像が表示されます)
   「Quick WinJupos measurements say that the front has shifted around 10°during
   the session, this would represent 350 km in distance at a speed of 130 to 140 km/h.
   I will study more on this. Here is the full set (6 RGB series)」とのキャプションが
   付されている。“front”とは気象用語で「前線」のことである。
   画像には”雲“のようなものが写っているが、それを”前線(front)”と表現していることに
   注意しないといけない。
    さて、19世紀末から20世紀の始めに、雲の移動速度を、約30kmとローウェルやスライファーが
   定している。前線の変化は、それに比べると、約4倍の速さになっている。
   さらに、先ほどのThe Mars Climate Database ProjectsというフランスのWEBで、
   5月14日の風の向きを調べると、北緯60°の1万m上空は、偏東風が吹いている。
   前線は西から東に移動するように変化したので、風向きとは逆方向に変化している。
   様々な疑問を残すデータであるが、撮影者のペリエさんがいろいろと解析しているだろうから、
   半年くらいするとレポートが公開されると予想できる。
火星の風の状態図

  6)ローカルなダストストームの発生
ローカルなダストストームの発生
   7月になると直ぐ、イタリアのオリベッティさんから、イシディス付近のローカルな
   ダストストームを検出した。Lsは155°になっている。Winjuposその位置を調べると、
   (-5°,270°)あたりに広がっている。
火星の風の状態図
   NASA AMES MARS GENERAL CIRCULATION MODEL CLIMATE CATALOGにある、
   Ls150°での気温分布のグラフがこれである。ダストストームが発生しているのは、
   この図の経度系では、90°となる。(-5°,90°)は最も高温な領域の南端になっている

7.石垣島天文台訪問報告(龍華)

  1)明治大学天文部惑星班5名が今年の夏に石垣島天文台を訪問した。
報告の表題

  2)口径105cmのムシカブリ望遠鏡で海王星を観測し一眼レフカメラで撮影した。
ムシカブリ望遠鏡の説明

海王星の観測

海王星の画像
  3)木星の閃光観測関する考察。
   色滲が気になる。ナスミス焦点はF値が大きいので、木星画像が画角に納まらない。

8.次回木星閃光観測(田部

  今年は木星の閃光観測は行わず、来年3月に北海道の名寄天文台、石垣島天文台で
  行う予定であり、観測に行ける人を募集する。川崎と三鷹でも行う予定。

9.その他

  1)昔の木星面スケッチを国立天文台のミュージアム検討室で保管していただくことになった。

  2)来年の木星会議は関東になる可能性が高く、今日利用した船橋市視聴覚センターが
   開催場所の候補です。次回例会では木星会議の打ち合わせを行う。

  3)次回例会は11月に開催予定。

例会終了後、視聴覚センター前で記念集合写真を撮影

集合写真
集合写真

2次会:大漁日本海庄や東船橋駅南口店(20名)

二次会の様子1

二次会の様子2


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