月惑星研究会例会通信 No.159

■ 日 時 : 2015年6月21日(日曜)13時−17時

■ 場 所 : 明治大学生田キャンパス第2校舎2号館2004教室

■ 出席者 : 31名(敬称略、自公紹介順)

  鈴木達彦、堀川邦昭、田部一志、大島拳斗、高橋 徹、高橋和平、三宅 歩、石川和樹、近江友邦、小澤徳仁郎、鈴木光枝、
  米山誠一、山崎明宏、小山田博之、三品利郎、龍華良典、吉田駿平、吉村光史、縄田景太、上田真結、米井大貴、吉田順平、
  小道雄斗、西川俊吾、羽場拓実、米持大樹、細谷美和、三谷祥二、斉藤 昭、鈴木重則、戸塚 一
  集合写真


■ 内 容

1.自己紹介

  自己紹介は、個人情報保護の観点により削除しました。

  例会の様子

2.木星の近況(堀川)

  明治大学での開催は32年ぶり、木星は西の空低く金星とすれ違う状態でシーズンオフ。

  1)初めての学生が多いので、最初に木星観測に意味を説明。
   大きく模様がはっきりしており、2年間隔の火星と違い毎年見れる木星が観測し易い対象。
   木星は水素とヘリュウムのガス(99%)惑星。木星の模様は雲、自転速度が9時間56分と早い。
   地球はコリオリ力で雲が南北方向移動で曲がって進むが、自転速度が速い木星ではコリオリ力が非常に強いため、
   赤道方向に平行にしか動けない。木星は内部の熱源が太陽光の2倍もあるので、大気変動が激しい。
   土星は内部熱源が少なく太陽からも遠いので、大気変動が少ない。それでも時々激しい嵐が起きることもある。
   木星面の模様の呼び方は、南S・北Nと赤道E・熱帯Tr・温帯Tと縞ベルトB(暗い部分)・帯ゾーンZの組み合わせで表現している。
   木星の画像は、アマチュアは望遠鏡で眺めた倒立像イメージに合わせて南を上が多いが、学者は北を上にしている。

  前回の4月例会後の木星面は、大きな変化は無いので、今シーズンを総評する。

  2)昨年の秋から冬の頃は、大赤斑後方に循環気流が発生し、そこから前方に黒い筋が流れていた。
   今年の2月頃に大赤斑後方の活動が終了し、大赤斑周辺の流れがスムーズにになった。
   大赤斑の大きさは、2008年頃までは18度程度で一定、その後2013年まで急速に縮小したが、2014年から少し回復した。
   GRSの長径の変化

   大赤斑は、体系IIで見ると後退し続けている。2009年以降は後退速度がより大きくなっている。
   グラフは体系IIに対して0.032°/dayで後退する特殊経度で表した大赤斑の動きを表している。
   なお、SEBの淡化後に発生するSEB撹乱が発生した時などに、大赤斑の移動速度に乱れが発生している。
   GRSの経度変化

   また90日周期で移動速度に波がある。大赤斑の北を流れているジェットストリームは4度/日で流れているので、
   一周する周期が90日なので、それとの関連がありそう。2007年と2010年のSEB攪乱の時に動きが乱れているが、
   90日振動はまったく影響を受けていないのが不思議。
   GRSの90日周期の経度変化

  3)永続白斑BA後方の暗部(STB)が縮小し消えそう。次の5世代目のSTBになりそうなSTBゴーストがBAの裏側にある。
   6世代目のSTBになりそうな暗部が既にある。STBゴーストが小暗斑からSTBに成長してBAに向かって前進し、BAに衝突する。
   BAに衝突するとBA前方の南北組織に沿って暗斑を放出しながらSTBは崩壊・縮小する。STBが縮小・消失すると次世代のSTBが
   発生しBAに向かう事が繰り返される。
   BAとSTBの関係

   BAのサイズは2000年代は11度程度あったが、2010年台に入り縮小している。
   BAの長径の変化

  4)SSTBの白斑(AWO)は、2000年には7個だったが、合体によって2003年には5個に減少。その後、少しずつ増えて現在は11個になった。
   SSTBの白斑の変化

  5)NEBの北側の乱れた様な凹凸部は、経度増加傾向に動く部分と経度変化が少ない部分の2種類がある。
   WSZは経度現象方向に前進している。NEBの幅に大きな違いがある。
   NEBnの凹凸部の位置変化

   大赤斑の北側のNTBnにあったバージは4月中旬に突然消えた。入れ替わるようにNTB北組織に小さな暗斑が出現。
   北温帯流-B(NT Current-B)に乗って前進。北温帯流-Bの出現は12年ぶり。
   NTBnのバージの変化

  6)SEBの謎の白斑は5月頃に東西方向に拡散して判らなくなっている。またSEB内の模様が60度を越えられない現象が見られる。
   SEBの模様の位置変化

3.土星の近況(堀川)

   土星のNNTBに大きな暗斑が見られる。かなりのスピードで前進している。この暗斑は、赤外画像では明瞭だが、可視光では
   非常に薄くて分からない。土星は雲の上層にモヤがあるので模様のコントラストが低くなっている。
   土星のNNTBに大きな暗斑が見られる。1日当たり-11.3°とかなりのスピードで前進している。
   土星のNNTBの暗斑

   土星のNNTBの前進

4.火星の名所紹介の第6回目−北極冠(三品)

  1)今後の火星の接近では、2018年と2020年が視直径が20度を越えるので観測のチャンス。この頃は火星全体が暖かい季節である。
   今後の火星接近時データ

   火星のLSと表面温度の関係

  2)前回解説したミッチェル山のスケッチが掲載された本ではキャプションが逆になっていた。

  3)北極冠生成に関するクライド・トンボー説(Clyde Tombaugh's theory)の解説
   ●ドン・パーカーさんが、1992年10月25日に撮影した画像は、フードを透かして火星のアルベド模様が写りました。
    Dparker.jpg
    N49.5°が北極フードの南の縁、N69.7°は北極のアルベド模様

   ●Parcker さんが学会で報告したとき、C.トンボーさんが、壇上に上がってきたので驚いたそうです。
   ●C.トンボーさんはは、NPCがフードの下に存在しておらず、それどころかフードが消散するときに形成されることを
    理論づけていました。(もちろん、小さいNPCの断片はいつも存在しています)これれがまさにその画像だということでした。
   ●USの火星観測者メーリングリストで2007年9月22日に、D.Parkerさんが、2005年3月と4月のMGSの画像を見比べると、
    C.トンボー説が確かめられると指摘していました。3月15日(Ls176°)には、フードの下の南極冠は透明です。
    4月19日(Ls193°)には、フードが消え、白く輝く極冠が姿を見せています。

    2005.03.15.072499Ls176.3
    2005年3月15日 Ls176°(出典: http://www.msss.com/mars_images/moc/2005/03/15/)

    2005.04.19.082499Ls193.3.gif
    2005年3月15日 Ls193°(出典: http://www.msss.com/mars_images/moc/2005/04/19/)

   この、透明な極冠について、フランスの惑星科学者、F.フォルゲさんには、次のように説明しています。
   火星は、地球とは違い、CO2の大気そのものが直接に凍りつくため、気泡が入り込まず、透明な極冠になる。
   “Martian snow and ice, unlike their Earth equivalents, probably contain very few trapped 'air'(CO2) bubbles on condensation, 
   since it is the ‘air’ itself which is condensing. It is also likely that carbon dioxide ice forms very dense, 
   homogeneous and almost transparent layers in some place.
   (Francois Forget, Francois Constard,Philippe Lognonnee,PLANET MARS,Springer,2008,P162)

   ●MGSが撮影した、北極の画像を順に見てゆくと、北極フードと北極冠の変化を追うことができます。

    ◆2002年2月13-19日、Ls326〜329°
     ベールのような、北極フードが、40°N以北に広がっています。フードを透して火星面の模様が見えています。
    ◆2002年3月6-12日、Ls337〜340°
     ベールのような、北極フードが、40°N以北に広がっています。フードを透して火星面の模様が見えています。
    ◆2002年4月16-22日、Ls359〜2°
     ベールのような、北極フードが、60°N以北に広がっています。フードを透して火星面の模様と永久北極冠が見えています。
    ◆2002年6月11-17日、Ls26〜20°
     白い北極冠が、70°N以北を覆っています。

   ●永久北極冠
    画像は、MGS,VIKINGによる画像から作成したものです。コリオリの力により、北極から吹き出す風が渦巻き模様を形成しています。
    permanentNPC-.jpg
    出典 MOLA: Seasonal Snow Variations on Mars, Zoom to Martian North Pole: True Color


   クライド・トンボーの業績

   ●C.W.トンボーは、1930年2月18日に冥王星を発見しました。火星を始め、木星、金星など惑星だけでなく、
    星団や銀河の観測を行い、ローウエェル天文台に在籍した14年間で、百もの変光星、百ものの新小惑星、
    二つの新彗星を発見し、29,000もの銀河の位置を計測ています。
    (出典 Academy of Achivement:)
   ●1963年には、木星の大赤斑についての研究を発表しています。
    Observations of the Red SPOT on Jupiter,Smith, Bradford A.; Tombaugh, Clyde W.
    Publications of the Astronomical Society of the Pacific, Vol. 75, No. 446, p.436 ,10/1963

5.Coronado P.S.T.の改造(山崎)

  1)海外ではPSTのエタロンを利用して、口径をアップさせた望遠鏡が製作されています。
   ひょんなことから入手したPSTを利用して、その改造の予備段階的な改造を行いました。

  *** 注意 *********************************************************************************************************
  以下の内容は、私の興味本位で行った改造内容について記載しています。太陽望遠鏡の改造は、物理的な損傷以外に、身体にも
  大きな損傷を及ぼす恐れがあります。また、メーカーの保証も受けられなくなります。当然ですが、このような改造を行った
  結果で生じる損害については、責任は負えませのでご理解してくださる方のみ、お読みくださるようお願い致します。
  ******************************************************************************************************************

  2)材料
   @ PST太陽望遠鏡
   A ウイリアムオプティクス製 フォーカサー
   B M52 UV/IRカットフィルター ※ 今回はLPS-P2を使用
   C ブロックフィルター ※ 今回はCoronadoのBF-10を使用
   D 延長筒 ※ バックフォーカスの調整用

   完成見本
   完成見本

  3)まず、PSTの鏡筒をフォーカスブロックから外します。ネジを緩めるだけなのですが、機種によっては接着剤等で固定されている
   ものがあるらしいです。私の個体は、ちょっと力を入れたら簡単に緩みました。筒の根元にある黒いハウジング内に、
   エタロンが収納されています。
   鏡筒とフォーカスブロックの分離

  4)外れたら、それをファーカサーにねじ込みます。ネジのサイズは不明ですが、フォーカサー側は2"のシュミカセネジで、
   これにきちんと勘合しました。
   ファーカサーと勘合

  5)筒の先端に、UV/IRカットフィルターをセットします。M52サイズが装着できます。このフィルターは必ず透過特性を確認してください。
   UVやIR側に漏れがあると、目にダメージを与える可能性があります。今回の改造で、もっとも注意しなければならない点です。
   なお、今回はテストが目的なので手元にあったLPS-P2の光害カットフィルターを使用しました。当然Hαは透過域なので機能的に
   問題ありません。また、構造上で注意するのは、フィルターを傾けることです。安全上は、きっかりネジを締める必要があるのですが、
   それだと視野内にゴーストが発生して太陽イメージと重なります。ここは工作者の工夫が必要な所なのですが、
   私は単純にゆるゆるに取りつけただけでした。結果、ゴーストは太陽から離れた位置に見えました。 
   ※ 安全上は問題あります。まねしないように。
   UV/IRカットフィルターをセット

  6)接眼部には、CORONADOのBF-10を装着しました。接眼部で注意する点は、エタロンとBF-10の胴元までの距離です。
   先のエタロンのブロックには、コリメータレンズと再結像レンズが組みこれています。これは、エタロンへの光束をできるだけ平行光に
   するためです。その後に挿入されている再結像レンズはf=200mmで設計されているようなので、この距離を確保する必要があります。
   なお、BF-10の光路長を除くと、エタロン後方からBF-10までの距離は、下記のようになりました。
   ・ 接眼レンズ使用時:約145mm
   ・ 直焦点撮影時:約135mm
   この距離と差を確保・調整できる構造が必要です。
   CORONADOのBF-10を装着

  これで完成です。
  最大の問題点は、BF-10を使っていることでしょうか?PSTを買って、さらにこれを買うぐらいなら、最初からHαフィルター+BF-10で
  セット購入すればよいだけのことなので。今回の改造は、あくまでもこの先に進めるためのデータを取るのが目的なので、ご勘弁を。
  なお、工作が得意な方はBF-10ではなく、外したフィルターボックスに装着されているBF-5を利用するのが良いと思います。
  そうすれば、正真正銘のPST改造望遠鏡に仕上がります。

6.今年の木星会議(龍華、田部)

  1)開催場所:明治大学駿河台キャンパスリバティタワー。会議参加費は無料。懇親会会場探しが難航中。紫紺館が候補。
  2)開催日は8月29日&30日。29日は3階1031教室、30日は11階1115教室
  3)会議の内容
   ・海外からのゲスト招待は中止。
   ・29日のテーマ:
    @開会の挨拶(龍華、平林)  13時〜13時15分
    A自己紹介(各自1分)     13時10分〜14時10分
    B木星観測の主旨説明(田部) 14時10分〜14時40分
    Cスケッチ実演        14時40分〜15時40分
    Dスケッチ観測のまとめ(堀川)16時〜17時
    E記念撮影(米山)
   ・30日のテーマ:
    @木星の近況(堀川)
    A各自の研究発表
     −候補:鈴木重則(GRSの緯度変化)、堀川(WSZ)、田部(閃光+α)、三品(RAW現像フリーソフト)、龍華or学生、関西

7.その他

    次回例会は11月8日(日)の予定。会場は明治大学生田キャンパスの予定。

2次会:小田急向丘公園駅前「ちゃすけ」(15名)

   二次会の様子

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