月惑星研究会例会通信 No.165■ 日 時 : 2016年12月18日(日曜)13時−17時半 ■ 場 所 : 明治大学生田キャンパス理学部5号館5203教室 ■ 出席者 : 31名(敬称略、自己紹介順) 鈴木 達彦、田部 一志、齊藤 美和、米井 大貴、吉田 順平、北条 雄大、永井 和男、 斉藤 啓子、佐藤 伶、松岡 義一、佐竹 郁哉、龍華 良典、津田 洸貴、森谷 諒、 大和田 篤、大熊 研太郎、成田 広、長瀬 雅明、鈴木 正治、小澤 徳二郎、岩政 隆一、 米山 誠一、山崎 明宏、堀川 邦昭、石橋 力、水元 伸二、高橋 徹、高橋 和平、 三谷 祥二、平林 勇、鈴木 光枝 |
■ 内 容 0.自己紹介自己紹介は、個人情報保護の観点により削除しました。 1.木星の近況(堀川)12月9日と10日のMarco Vedovato氏が作成した木星展開図に各部の模様の名称を追記した画像をを使って 各部の様子を説明された。 1)今の木星面で一番目立つのは大赤斑で赤い状態です。前回の例会で紹介した7月の画像と比較すると、 大きな変化が2点ある。一つは、NTBs jetstream outbreakの発生、もう一つはSSTB AWO同士の合体です。 前回の7月にはNEBの北側には目立った模様が見えていなかったが、合の間にベルトが発生した。 このエリアには、木星面で最も高速のジェットストリームが流れているが、通常は目立った模様がなく、 ジェットストリームの流れは目立たない。その部分に時々突発的な活動が発生し、ベルトが形成される。 その現象がNTBs jetstream outbreakです。 合の時期の変化の2件目は、SSTBに並んでいた9個(A0,A1,A2〜A8)の白斑の2個(A0とA8)が合体した事です。 現在は、白斑はA1〜A8の8個になっている。 2)NTBs jetstream outbreakによりNTBが復活: この現象、古くはNT Current-C(北温帯流-C)と呼ばれていた。NT Current-Cとは、このエリアを流れる 高速のジェットストリームのことです。木星の経度系は赤道付近の体系Tとそれ以外の体系Uがあり、 体系Tは体系Uより5分/日ほど早いが、NTBs jetstreamはその体系Tより早いスピードで流れている。 以前はそこを流れる斑点の活動をNT Current-Cが出現と呼んでいた。BAAのJ. Rogers氏が呼び方を変えて、 高速のジェットストリームをNT Current-Cとし、このエリアに出現する更に高速で移動する非常に明るい 白斑をNT Current-Dとしたので呼び方が混乱した。その結果として、NTBs jetstream outbreakと呼ばれる 様になった。 2016年の合(9/26)の後、今シーズン最初の画像である宮崎氏の10/16の画像に暗斑が写っていたが、 解像度が悪いので誰も気が付かなかった。10/19にNASAのG.Orton氏が、木星探査機JunoのperiJove-2 (2回目の木星接近)の地上支援としてハワイのIRTF望遠鏡で観測時に撮影した赤外画像に、非常に明るい Leading spotとホットスポット(暗斑群)が写っていた。JunoのperiJove-2の観測自体は失敗だったが、 木星接近時に遠方から撮影した10/14の画像に暗斑群が写っていた。 Juno計画に協力していたJ. Rogers氏は、数多くのデータを入手でき、そのデータから10/14の木星面の 展開図を作成された。その展開図には4個の白斑と多数の暗斑が描かれているが、確かな白斑は2個と思われる。 白斑と暗斑の移動速度差から、NTBs jetstream outbreakは9/15頃に発生したと推測される。 また10/6から10/8頃に二次的な活動が起きた様です。Leading spotの速度はT系に対して-5.3°/dayで、 風速にして170m/s、自転周期換算すると9h46m56sで、暗斑群の移動速度は、自転周期換算すると9h50m程度と 白斑より遅い。 今回のNTBs jetstream outbreakは正に合の時期に発生したので、Junoの観測が無ければ、詳細は不明だった。 白斑は11月始め頃に暗斑群に追い付いた時点で消えて見えなくなった。現在は暗斑群が繋がり濃いベルト状に なっている。11月後半になるとベルトは北側に膨らんで太くなっている。ベルトの色は最初は煙色(青黒い) でしたが、今は茶色になっている。NTrZは薄暗くなり、傾いたフィラメント模様が見られる。 NEBnはボコボコしており、大きな白斑が見えている。20年近く存在している大きな白斑WSZは、小さな白斑に なっている。 NTBs jetstream outbreakは1990年から十数年間は休止していたが、1970年からほぼ5年周期で発生している。 過去46年間で8回起きているが、その内の4回が合の時期に発生している。 3)SSTBの白斑の合体 2008年頃からSSTBには9個の白斑があった。2016年の8月頃には、A8,A0,A1の3個が接近していた。2016年の 10月から11月頃に、GRSとBAが会合したが、そのタイミングで前述の3個の白斑も会合の3重会合となった。 3重会合すると白斑が合体することがある。その様なタイミングだった2003年3月にも白斑が合体した。 SSTBの白斑は高気圧的な渦で半時計回りに回転しているので、2個の白斑が合体する時は、お互いが半時計 回りに回転して合体する。今回もその様な動きで合体した。白斑は多い時でも9個が最多。現在は8個だが、 間隔が広いA5とA6の間に小さな白斑が2個見えている。この2個は、消滅する可能性もあるので、しばらくは 様子見です。 4)その他の模様は大きな変化が無い。特に南半球は変化が少ない。 各部の様子は、下記にリンクしている堀川氏の資料の6頁「その他の木星面」に示されています。 5)STBの変化 現在はベルトとしては見えていないSTBの変化に関しては、堀川氏の資料の15頁「STBの活動サイクル (最新版)」に示されています。また、STBとSTZの暗斑の動きに関しては、堀川氏の資料の8頁「STB−STZの 状況について」に示されています。 6)今シーズンの注目点 mid-SEB outbreakの発生が要注意。mid-SEB outbreakとは、SEB内部で起こる激しい白雲活動のことで、 GRS後方に見られる白雲領域(post-GRS disturbance)とは異なる現象です。SEBが濃化安定な時期に発生 する。SEBZのbargeが発生源になるケースがあるので、現在、体系IIで40度から50度に2個あるbargeに要注意。 bargeが消え、その部分にメタンブライトな白斑が発生するのが前兆現象です。 堀川氏の解説資料 → 堀川氏の解説資料(PDFファイル) 2.簡単画像処理ソフトImPPGの紹介(山崎)Filip Szczerekさんが製作したImPPGと呼ばれるアプリはフリーのツールで、下記の機能があります。 ・Deconvolution処理(Lucy-Rechardosn) ・Unsharp Masking処理 ・レベル調整、ガンマ設定 ・上記パラメータを複数の画像に適応させる、バッチ処理 基本はこれだけですが、使い勝手が良く、ROIで範囲を絞ればパラメータの変更に画像がダイレクト反応するので、 微調整がし易い点が評価できます。開発のコンセプトは太陽のHα画像を処理するためのようで、チュートリアルも Hα画像で説明しています。とにかく操作が簡単なので、最近の月・太陽・惑星の一部はこのアプリで処理 することが多いです。 ・フリーのアプリでDeconvolutionができる点がよい。 ・パラメータ用のスライダーが3つあるだけなので、使い方にさほど悩まない ・スライダーの動きにレスポンスよく画像が反応する。 ※ROIで範囲を絞っている場合 ・シーイングの悪い日の惑星については、模様の抽出がRegistaxより簡単? ・シーイングの良い日の惑星については、Registaxの方が効果がある? ただし、RegistaxのWavlet処理より性能が良いわけではありません。昨年のシーイングが良い日の木星画像を試して みましたが、Registaxで処理した画像の方が解像度はよかったです。処理して気になったのは、鮮鋭化の過程で なんらかのノイズ低減処理が行われている感触があります。Registaxと比較するとノイズにより荒れが少なく、 これが良くも悪くも結果に影響しているのかもしれません。 なお、どのタイミングでこのアプリを使用するかですが、私はスタック後の画像をこのアプリで処理しています。 その場合、Registaxは使用しません。また処理後に、ステライメージで画像復元処理を追加する時もあります。 ※ 月・太陽の場合は、そのままPS行きです ImPPGのサイト ImPPGのTutorial 3.初期の月面惑星研究会の様子(水元)月惑星研究会に入会したのは1967年。会の創設者の一人である城谷氏に誘われたのが切欠で、その時に渡された のが、ガリ版刷りの観測年報No1で、月のスケッチが主体でした。当時は月面惑星研究会という名称でした。 月のスケッチは結構難しく、木星より難しかった。当時の望遠鏡は口径10cm程度で口径15cmは珍しかったので 観測の中心は月だった。活動内容は、まず観測目標を定め、分担してスケッチと考察を作成し、会報としていた。 私と同時期に入会したのが近内氏、坪野氏、斉藤英明氏、安達氏、石橋氏などでした。スケッチが主流だったけど 石橋氏や近内氏は写真を撮影されていた。渡辺正明氏の銀塩3色コンポジットはセンセーショナルだった。 例会は平林氏の自宅で開催され10名程度が参加し、各自のスケッチを評価するなどの活動だった。スケッチから 展開図を作って観測に役立てていた。スケッチ派は少なくなったが、写真とは違う面白みがある。 スケッチでも画像でも求める所は、惑星の大気の変化であり、その変化の原因や規則性、過去の現象との比較など の研究でした。1923年頃に木星のカレントなる考え方が整理され、火星は運河論争がされていた。観測した日時が 記載されていると価値がある。昔の観測記録は大切である。30年ぶりに観測を再開するにあたって、過去のものを 含め文献やインターネットの情報を見直した。 昔は電卓がなかったので、各種データは筆算で求めた。メールどころか電話も自由に使えなかったので、連絡は 手紙や速達だった。当時からスケッチの取り方、記録の残し方、現象の解析が重要である。 4.変光星観測者からの感想(永井)まず驚いたのは、自己紹介に1時間もかけることと、当日に発表内容を決めることでした。変光星の会は、 一人20分の発表で学界的な運営です。天文学の目的は、それぞれの起源を求めることです。 宇宙の起源はかなり分かって来ている。太陽系の起源は、京都大学の林教授が京都モデルを作成した。 アルマ電波望遠鏡群により太陽に近いTタウリ型星の観測が行われている。Tタウリ型星は核融合まえの重力で 光っている星で、その回りには原始惑星系円盤が形成されている。原始惑星系円盤の中に既に惑星が形成され始めて いる。京都モデルでは、太陽が生まれ、その周辺に惑星が生まれる様に書かれているが、そうでは無いと分かって来た。 太陽系から最も近いプロキシマ・ケンタウリには複数の惑星があり、その中の1つはハビタブル・ゾーンにあるので その惑星は楽園との意見があった。しかし、低温度星のプロキシマはスーパーフレアーを多発しており、その惑星は 地球の公転軌道よりプロキシマに近いので、惑星の大気は剥ぎ取られ死の世界と思われが、磁場があれば守られる。 木星もそうだが磁場があればオーロラが発生する。その様な意味で木星探査機JUNOに興味があり、その関係で月惑星 研究会に興味を抱き参加した。この例会に参加し、天体写真が凄いと感じた。変光星を毎月4万枚撮影している。 12月20日のイプシロン2の発射を見たいと思っている。前回のアストロHも関東の海沿いから飛行中のロケットの 航跡を見れた。関東の南岸でも高度20度程度を飛行するの見れます。 5.月惑研究会の今後、次回木星会議、その他(田部)月惑星研究会のメインの活動は、国内外から送られて来る報告のHPへの掲載です。池村さんが対応出来なくなり 対応者の補強と、現在旭川に置いてあるサーバーをどうするかが課題である。会のHPは世界的に評価されており、 続けられる限り続ける方針とし、HP掲載担当者を募集したい。 サーバーはレンタルサーバー利用となるので、費用が必要なので、例会参加費の300円を継続したいと思っています。 会の発展に功績を残された方を表彰する件について検討したが課題もあり、次回木星会議時に実現を目途に詰めて いくことになった。なお、表彰のタイミングに関しては木星会議と月惑星研究会は別であることに考慮が必要である。 また、木星会議後の懇親会で表彰する案もある。 次回木星会議開催地候補について東京と米子の案があり今後継続して検討していくことになった。 木星会議の開催タイミングは、木星会議の結果を生かす観測を行う為に本来は衝の後だが、合の時期になって来ている。 その様な意味で今年は9月に開催したい。学生には夏休み中の8月が良いが。今年は米国の皆既日食がある。 デジタル化したスケッチが膨大にある。スケッチは、国立天文台の博物館プロジェクトに渡したが、デジタル化した データをWEBで公開したいが、その為には本人の了解が必要だが、既に他界した人もいる。基本的には公開不可以外は Webで公開する方針。データ容量は検討が必要。ダウンロード制限の検討も必要。 観測報告をHPに掲載しているのは、掲載させてもらっているのか、掲載してあげているのかの整理が必要。 基本的には掲載してあげていると理解しており、HPにもその旨は記載されている。(米山) 6.インパクトベイズンと対極点の地形(三品)2016年3月10日に再放送された、”月のミステリー 奇妙な発光現象の正体は?”の中で、ブラウン大学 のシュルツ教授の実験が紹介されていました。それは、巨大クレーター、エイトケン盆地ができた小惑星 (直径200m)の衝突が、月の内部を伝わり、月の反対側にまで大きなひび割れを発生させたという仮説を検証 するための行った実験です。実験の結果、衝撃波が月の表面に円形のひび割れを生み出しました。 アメリカの月探査機GRAIL(2011年12月から1年間、月を周回し観測した)が、月の地下40kmより深いところ から続くひび割れを探査した結果、月の表側の円形の分布が見られ、これは、シュルツ教授の実験と符合する ということです。 月だけでなく水星のカロリス盆地はその対極点に、「たくさんの直線状の丘陵が複雑に錯綜する地域が 存在」しています。(渡部潤一/渡部好恵著、「最新 惑星入門」、P61、朝日新書574、朝日出版、2016年 これを、”Antipodal effect(対極点効果/対蹠点効果)”と呼び、Shock Dynamics_ Antipodal effects という解説のWEBもあります。 火星に関しては1978年にJ.E.Peterson他が Antipodal Effects of Major Basin-Forming Impacts on Mars [Lunar and Planetary Science IX: 885?886] の中で、ヘラス(40°S,S9S°W)の反対側,(40°N,112°W)に アルバパテラ(Alba Patera)という火山があることを指摘し、さらに、大シルチスベイズン(Syrtis Major basin), (10°S,110°W)の反対側がシリア平原(Syria Planum)の西縁になること、イシディスベイズン(Isidis basin) (15°S,91°W)の反対側にシナイ平原(Sinai Planum)があること、さらに、アギェレ(Argyre)の反対側も同様に、 大きなインパクトが、対極点の地形形成に影響している可能性があることを指摘しました。 David A. WilliamsとRonald Greelryがヘラス、イシディス、アギュレを生成した小天体の衝突が火星内部や 対極点にどのように伝わるかをコンピュータで計算して解析し、 1994年に”Assesmnt of Antipodal-Impact Terrains on Mars [ICARUS 110,196-202(1994)]を発表しました。 衝突のエネルギーが火星の内部を減衰しながら伝わり、対極点に集中するということです。 出典:Assessmnt of Antipodal-Impact Terrains on Mars,ICARUS 110,196-202(1994) 以上 7.その他次回例会は3月26日の予定。 2次会:向ヶ丘遊園駅近くで21名参加の懇親会でした |
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