2008/07/17

Jupiter in 2008: A rare Little Red Spot squeezes 'through the eye of a needle'.
(John H. Rogers)

2008年の木星:珍しい小赤斑が「針の目」を通り抜ける

John H. Rogers, British Astronomical Association

日本語訳:伊賀祐一


このレポートの長いバージョンは、全ての図と幅広い背景と議論を含んでいて、私たちのWebサイトに置いてある。

http://www.britastro.org/jupiter/2008reports.htm

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専門的でない要約

今月、天文学者は大赤斑とその小さなコピーである小赤斑との非常に珍しい衝突を観測している。それは、Oval BAと呼ばれる3番目の赤斑も大赤斑と並んで通過していたときに起こった。これらの斑点は、赤みがかった雲の色が特に活発で、根深い物である事を表している巨大な高気圧である。これは、それらが衝突したときに木星大気がどのように振る舞うかを知るためのユニークな機会であった。このレポートでは、世界中のアマチュア天文学者がどのようにして現象の徹底した記録を作り出したかを紹介する。


小赤斑が西から大赤斑に接近したとき、大赤斑の周りを循環する強力な風によって突然押し流され、大赤斑と白斑BAを分離している非常に狭いジェット気流に入り込んだときに、小赤斑は数日のうちに細かく切断されていた。そのいくつかの断片が小さな白斑やオレンジ色の斑点の形で出現した。これらのいくつかは大赤斑の外周の周りの最速の風に明らかに巻きこまれ、消失する前にほとんど大赤斑を一周した。ゆっくりと移動する残存物は大赤斑の東に出現し、数日間再び、オリジナルの小赤斑と区別される赤みがかった高層の雲レイヤーを追跡することができた。この斑点の白い残存物はで、1週間後も持続している。


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背景

非常に速い風の領域、あるいは激しい気象活動の後、あるいは例外的な高気圧の雲に赤い色が現れる。大赤斑はこの高気圧の最も大きな物で、ただ一つの永続している赤い斑点である。小さな物(小赤斑)は他の緯度に時々出現する。


現在の小赤斑は、大赤斑と同じ緯度で、とてもまれである南熱帯に出現した。ただ一つの過去の例は1986年と1990-93年で、当時は色は指摘されなかったけれども、現在の物ととても似ている1889-1890年(原文のまま)におそらく同様な例がある(詳細はRef.1を参照)。


現在の小赤斑は南熱帯での異常な渦巻の傾向の最近の結果であり、2006年夏以来注目されてきた。昨年、この渦巻は2ヶ所(南熱帯攪乱:STrD)に集中し、ジェット気流を移動する暗い渦がUターンを引き起こした時に、そのうちの1つが劇的なスペクタクルを作り出した。太陽との合の間に、南熱帯攪乱はちょうど2個の斑点を残して消失したが、それはこの渦巻全ての結果であるように思われる。これらはシーズン初めの2008年2月に観測された。これらの1つが小赤斑で、2008年3月1-2日にTomio Akutsu(Philippines)とAnthony Wesley(Australia)によって撮影された画像から初めて同定したとき、赤く、メタンバンド画像で明るい物であった。


小赤斑は全ての高気圧の中で最も根深いか、あるいは力強い物かもしれないが、少なくとも1890年以来、大赤斑との衝突を観測する機会はなかった。1世紀後に、我々は近代の画像によって相互作用の詳細を明らかにしたいと願っていた。大赤斑は循環周期4.5日を持つ膨大な高気圧である(ref.4参照)。小赤斑が大赤斑の南縁の周りで急に加速するかどうか、もしそうであれば、小赤斑が大赤斑とマージするか、通り過ぎるか、分裂させられるか、を注目していた。そして偶然にも、白斑BA(大赤斑に対して、2年ごとに大赤斑を通過する)が相互作用の間にちょうど大赤斑と並んでいた。


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観測

全ての観測はCCDやwebcamを使用したアマチュア天文学者の世界的ネットワークからのものであり、多くはこの現象を記録するのに多大な努力を払った。もっとも南に遠くにある木星では、熱帯か南半球の観測者だけが本当に良いシーイングを得ていた。ちょうど1年前の循環気流の観測のように、オーストラリア人は冬の天候で不運だったが、沖縄のIsao Miyazakiはほとんど毎晩良像を得ることに成功した。フィリピンのChris Goもまた、観測と解釈の両方に特に熱心であった。


常に小赤斑の特徴である高い高度の雲キャップを明らかにするために、0.89ミクロンのメタンバンドでの画像を切望していた。悲劇的にも、定期的にメタン画像を撮影している唯一の観測者であるTomio Akutsuは、衝突のまさに1週間前に、フィリピンでの破滅的な台風のために彼の望遠鏡を失ってしまった。しかし、Chris Goは、Imke de Pater博士から間に合ってメタンフィルターを入手したので、ギャップを埋めることができた。他の観測者がメタン画像に進み出てくれたことも大きな喜びであった。その観測者にはAntonio Cidadao(Portugal)やBernd Gaehrken(Germany)が含まれ、さらにDamian Peachは16度しかないイングランドから良く解像されたメタン画像を撮影するのに成功した。観測者が異なったバンド幅を持つさまざまなメタンフィルターを用い、さらにGoを除いた全員が明快さのために画像処理しているので、これらの画像を解釈するのに注意すべきであろう。それにもかかわらず、ここで述べる全ての特徴が生画像に存在している。


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結果

それぞれの日付の最良の画像を図2に示す。6月下旬に小赤斑がわずかに加速したことに気づいたが、6月28日までに大赤斑の西端(後端)に非常に接近した(小赤斑の直径ほどは離れていない)。6月30日のMiyazakiの画像によれば、明らかに南東に加速していて、大赤斑の周りの速い循環に乗った。7月1日にはなおもコンパクトな斑点であった(Peachのメタン画像)。7月2日には、わずかに赤みがかった色を残し、大赤斑の周りを移動する、非常に狭いstreakに引き伸ばされた。そして、この残った物が7月3日におそらくまだ認識することができた(Cidadaoのメタン画像では大赤斑の青白い縁取りとして、そしてMiyazakiのカラー画像にも)。その時までに、小赤斑は大赤斑と白斑BAとの間のジェット気流の通路に、とてもしっかりと入り込み、再び小赤斑の痕跡を見ることができるかどうか分からなかった。


再出現した最初の痕跡は、7月4日に撮影された、大赤斑の北側を斜めに横たわる2個あるいは3個の白斑のつながりで、7月5日と6日には北側の周りを逆行している。【Glenn Orton博士、Agustin Sanchez-Lavega博士、Sean Walkerとの有益な通信の後で画像を再検査して、数日後に我々はそれらを識別しただけであった。】


それは小赤斑が7月2日に寸断されたときにおそらく始まり、7月4日までに大赤斑の周りを半周した。大赤斑の外周の斑点に関して驚くほど速いが、それらが最も速い大赤斑の回転周期(4.5日)と最も速い風速(約180m/s)で移動したのであれば可能である。7月4日から6日まで、それらはもっと中間的な速度である約80 m/sで外周の周りを移動した(図3b)。7月7日に、白雲は見たところ大赤斑の西端(後端)で以前は暗い三角形の中で終わっていた。


一方、7月5-6日には極東の観測者が興奮して報告したように、赤みがかった物質が大赤斑の南東の通路から再び現れ始め、再びメタンで明るいパッチを構成していた。小赤斑の高く持ち上げられた赤い雲のデッキの残存物は通過から生き残ったように思われた。経度チャート(図3a)によれば、小赤斑は大赤斑の周りでスムーズに加速し、残存物は反対側で対称的に減速し、速度は約-4.8〜6.8 deg/day (64-94 m/s)であった(体系2と大赤斑に対して)。


7月7日と8日には、この小赤斑残存物は、可視光では淡くなったけれども、はっきりしたコンパクトなメタンで明るい斑点であり、大赤斑から離れるように前進した。その後端には大赤斑から引っ張られている非常に暗い灰色のstreakが目立っていたけれども、小赤斑残存物は7月7日には薄いオレンジ色のシミであり、7月8日と9日にはかろうじて気づくほどであった。


7月10日と11日には、オレンジ色のパッチは淡化し、メタンでの輝きはこの南熱帯全体に拡散したために、再出現した小赤斑残存物は消散しているかのように見えた。しかし、これは一時的であり、小赤斑残存物は7月12-14日を通して、白かったり(7月12日)、赤味がかっていたり(7月13-14日)、メタンで明るい、別の斑点として明らかに生き延びていた。小赤斑残存物は以前よりわずかに北にあり、L2 = 108度でほとんど動かない(大赤斑の前方約10度だが、おそらく現在は大赤斑に向かって戻っている)。そうして、ゆっくりと移動する、赤くない斑点のクラスに落ち着いてしまった1つの渦であるかもしれない。


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参考文献

1. Rogers JH (1995) 'The Giant Planet Jupiter' pp.197, 200, 206 (Camb. Univ. Press).
2. Rogers JH (2001), 'Jupiter in 1997', JBAA 111, 186-198,
& (1997) JBAA 107, 333-335 [interim report]
3. Sanchez-Lavega A et al.(1998) Icarus 136, 14-26.
4. Rogers JH (2008), JBAA 118, 14-20.
5. Peek BM (1958) 'The Planet Jupiter' (Faber & Faber)

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図の説明

図1
新しい小赤斑の画像で、白斑BAに近づき、大赤斑に接近している。最上段と最後の画像はメタン吸収バンドによるもので、メタンで明るい斑点として3個の赤斑を見ることができる。


図2
(A)現象の間のそれぞれの日付における最良の画像セット。モノクローム画像はメタン吸収バンドによるもの。赤矢印は小赤斑と小赤斑残存物を示す。 (B)木星の他の最良の画像セット。左:可視光、右:メタンバンド。赤矢印は小赤斑と小赤斑残存物を示す。


図3
チャートは小赤斑と小赤斑残存物の動きを示す。
(a)体系IIにおける経度
(b)7月4-6日における大赤斑の外周上の小さな白斑の位置角。位置角は近似的に円形に大赤斑の画像を引き伸ばした後で南から東まで計測した。不確実さは±10〜15度。


※注
全ての画像は南が上である。誰かが北が上や低圧縮率のバージョンが必要であれば、問い合わせてくれれば出来る限り提供する。全ての画像は観測者が、組画像はJHRが著作権を持っているが、それらを複製しようとする正当な要求に応えたいと思っている。


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