天文ガイド 惑星の近況 2001年12月号 (No.21)
伊賀祐一
今年の9月は残暑が早めに終わり、そのためかシーイングが良い日が意外に少ないようでした。9月の惑星観測は、夕方の火星が11名から75観測(18日間)、明け方の木星が18名から182観測(20日間)、土星が8名から21観測(12日間)の報告を受け取りました。
火星:おさまりつつある大黄雲の活動 (安達 誠)
6月に発生した大黄雲は、次第に沈静化に向かっているようで、ダストの下に地表の暗色模様が薄く見られるようになってきました。写真1の下段は池村俊彦氏の作成したシミュレーション画像ですが、上段の観測画像は淡いながらも地表の模様と一致してきています。しかしながら、視直径は9月初めの13秒から月末には10秒台まで小さくなり、火星面の詳細な様子はつかみにくくなってきましたが、まだまだ熱心な観測が継続しています。

写真1 9月の火星面
ダストが淡くなり、地表の暗色模様が見え始めています
撮影/池村俊彦氏(名古屋市、30cmニュートン、NECピコナ)(拡大)

縮小に向かっている南極冠が、ちらちらと姿を見せるようになってきています。特に月末には南極冠がはっきりととらえられています。一方、全体としては沈静化しつつあるダストの活動ですが、まだ大規模に火星面を覆うダストの活動も時折見られ、あちらこちらに明るく成長した様子が観測されました。特に目立ったものは2つあり、9月中旬のシレーン北方のアマゾニス地方の明るい雲と、9月20日以降のソリスの東に発生した明るい雲(写真1、9月24日)と、それとアルギレ地方にもダストが発生しています。

例年の火星の季節では、今ごろからが大黄雲の発生する時期に相当します。今回の6月の大黄雲は南半球の春に発生していて、ひょっとするとこれから大規模な黄雲の発生する可能性もあり、目が離せない状況です。火星の表面が見えてくると、以下のことに注意してください。まず、新たな黄雲が発生していないかを確認します。それから大黄雲発生後に新たにできている暗色模様がないかを確認します。過去には、1975年にダエダリアに大きな暗斑ができて注目されました。10月には、さらにダストが淡くなってくることも予想され、どのような火星面が見られるか楽しみです。

木星
今シーズンの木星でもっとも目立っているのはNEB(北赤道縞)です。NEBは赤味が強いベルトとして見られ、さらに北のNTrZ(北熱帯)までベルトの幅が広がっています。ベルトの赤味は昨シーズンよりも強くなっています。NEBの南縁に見られる青暗いfestoon(フェストーン)は活発ではなく、そのためにNEB内を斜めに横切る3本のrift(リフト)がむき出しの状態で見られることもあります。ベルト自体は一様で、本来のNEBn(北組織)の緯度に赤茶色のbarge(バージ)が7個ほど見られます(II=50,75,105,180,240,275,340°)。bargeは昨シーズンから継続して見られているものですが、NTrZの白いnotch(ノッチ)は、II=140,260,325°にしか見られません。このうちのII=140°のものは昨シーズンも見られたものです。その他の北半球では、NTB(北温帯縞)は全周に渡って見られますが、その南縁に出現する高速ジェット気流に乗った模様は観測されませんでした。また、NNTB(北北温帯縞)のII=30-60°とII=135-165°、II=225°には、赤いbar(バー)が見られます。

写真2 9月22/23/24日の木星展開図
撮影/永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン、NECピコナ)、池村俊彦氏(30cmニュートン、NECピコナ)
筆者(28シュミカセ、NECピコナ)(拡大)

SEB(南赤道縞)は、ベルトの中央部が明るくなり、SEBZ(南赤道帯)を形成しています。NEBとは逆に、SEBの赤味は無くなってしまい、どちらかというと色が感じられません。SEBは、次のステップとしてSEBs(南組織)の淡化が予想されますが、まだII=170〜330°付近までのSEBsには多くの暗斑が連なっています。

GRS(大赤斑)は先月と同様にII=76°に停滞していますが、赤味が弱くなって見えにくくなっていることと、GRS直後のSEBsに暗斑があって位置がつかみにくい状態です。9月中旬からGRS前方のSTrZ(南熱帯)に向けて、短いstreak(ストリーク)が発生しました。STB(南温帯)の白斑'BA'は、9月23日にII=143.9°にあり、すぐ後方のII=154.7°には楕円形の暗斑があります。昨シーズンには40°ほどのベルトだったものが急速に縮小して、いよいよ楕円形の暗斑に変わってしまいました。'BA'はこのままのドリフトを続けると、2002年1月末にはGRSに接近するでしょう。


写真3 9月の木星面
撮影/(左)池村俊彦氏:やや淡くなったGRS、黒点はガニメデ衛星の影の経過。
   (中央)永長英夫氏:STBの中央左に'BA'と暗斑が見られる。
   (右)池村俊彦氏:NEB内のriftの活動が活発。(拡大)

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