天文ガイド 惑星の近況 2002年2月号 (No.23)
伊賀祐一
11月の惑星観測は、火星が9名から50観測(19日間)、木星が16名から151観測(17日間)、土星が11名から37観測(13日間)の報告がありました。
火星:晴れてきたダストストーム (安達 誠)
6月に発生して全面をおおっていたダストストーム(大黄雲)は11月にはますます淡くなり、写真1のように火星の本来の表面模様が見えてきています。De=-20°と南半球の様子が見やすくなってきて、南極冠は小さくなったものの眼視でもはっきりと分かります。ようやく火星らしい姿になってきましたが、視直径は7"台と小口径では観測はむずかしくなっています。
写真1 2001年11月の火星

撮影/池村俊彦氏(名古屋市、30cmニュートン、NECピコナ)
下段は池村氏作成のシミュレーション画像。

11月上旬の観測では、子午線の湾ははっきりと認められますが、サバ人の湾は見えにくい状況です。ヘラスは通常通りの明るい状態ですが、11月18日UTにヘラス東部に小規模なダストの発生が観測されました。また、11月23日UTの画像ではエレクトリス付近にもダストが見られ、依然としてダストストームの活動は続いているようです。2002年1月頃までは注意が必要です。

暗色模様では、サバ人の湾からデューカリオン地方が暗くなっています。また、ダストストーム後にダエダリア地方に新たにできた模様も月末には確認できました。さらに、今回の大規模なダストストームが長期に渡って停滞していたキンメリア北部には、11月18日UTに濃い暗部が見られ、ダストストームの活発だった地域とその後の暗色模様との間には関連がありそうです。

木星:大赤斑前方にdark streak発生
11月に入って写真2に示すようにGRS(大赤斑)前方に大きな変化が観測されました。11月7日UTに池村氏、伊藤氏、永長氏の画像で、GRSからSTrZ(南熱帯)前方に12°ほど伸びるdark streak(前端II=54°)の発生をとらえました。先月号で紹介したように、10月10日UT頃からGRSの南側を取り巻く暗いアーチ構造が見られ、さらにGRS直後の暗部が濃くなってきたことから、STrZのstreakの発生が予想されていました。streakは14日UTまではほぼ長さは変わりませんでしたが、その後急速に前進し、24日UTには前端がII=35°、長さは30°に達しています。ドリフトは-40°/月を示しており、このままstreakはさらに前方に伸びるのではないかと思われます。近年の観測では、STrZのstreakは1998年8月と2000年7月に発生しており、どちらも3ヶ月間で100°の長さに発達し、前端部はSTB(南温帯縞)に合流しました。
写真2 STrZのdark streakの発達

大赤斑からdark streakが前方に伸びている。BAは2002年1月下旬に大赤斑を通過する。
撮影(写真3も)/池村俊彦氏(名古屋市)、伊藤紀幸氏(新潟県)、永長英夫氏(兵庫県)、風本 明氏(京都府)

さて、このSTrZには2個の暗斑がII=25°と41°(11月14日UT)にあります。これは2000年10月頃に発生してカッシーニ探査機でもとらえられた渦と同じもので、高解像度では中心は白く見えます。前方のものは10月上旬に、もう一つは10月下旬に形成されたようで、ドリフトは+3°/月でゆっくりと後退しています。昨シーズンの暗斑は2001年3月にGRSと会合していますが、今回はdark streakの活動領域と重なってしまい、このまま継続するものか興味深いところです。また、昨シーズンはstreakの消失後に暗斑が形成されたのですが、今回は先に暗斑が形成されている点で、どのような違いが見られるでしょうか。

●NEBのbargeの合体現象

NEB(北赤道縞)は赤味が強く幅が広くなっていて拡幅期にあります。NEB中央部には本来のNEBn(北組織)の緯度に7個の赤茶色の暗斑bargeが見られます。bargeの位置は11月中旬でII=43°,68°,100°,167°,237°,268°,333°、またその間のNTrZ(北熱帯)には5個の白斑notchがII=58°,118°,200°,247°,317°に交互に見られます。

写真3と図4に示すように、このNEBのbarge同士の合体という珍しい現象が見られました。9月からII=150°のbargeの前進が加速され、その前方のII=115°のbargeに急速に接近していましたが、11月15日UT頃に一つのbargeに合体してしまいました。合体後は後方のbargeの前進速度を保っていて、やや大きくなっているようです。

また、NEBのII=145°付近ではほぼ20日間隔で白斑の発生が継続しています。この現象は8月13日から観測されており、10月26日の後は、11月10日、30日に小さな白斑が発生し、それが東西に拡大して長大なriftに発達しています。NEBは中央部のbargeをつなぐようにNEBc(中央組織)が目立つようになっており、今後は拡幅期からNEB北部側が次第に淡化して元のNEBの状態に戻っていくだろうと思われます。

写真3 NEBの2つのbargeの合体

2個のbargeが合体して1つになった。太い矢印はII=145°のNEBの白斑発生を示す。
図4 NEBのbargeとnotchのドリフト

●がbarge、〇がnotchを示す。合体したbargeの後方のnotchも同様に加速している。

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