天文ガイド 惑星の近況 2003年8月号 (No.41)
伊賀祐一
2003年5月の惑星観測は、木星が34人(海外12人)から149観測(24日間)、土星が2人から3観測(3日間)、火星は31人(海外13人)から260観測(29日間)の報告がありました。
シーズン終盤の木星
木星は夕方の西空に傾き、ほぼ観測シーズンを終えようとしています。先月にはSTrZ(南熱帯)の白斑がGRS(大赤斑)に衝突するという非常にまれな現象が観測されましたが、今月の観測では比較的穏やかな木星面に戻っています。

大赤斑はII=87°に位置し、今シーズン初めの2002年8月のII=83°からゆっくりと後退している傾向は変わっていません。大赤斑の南側に暗いアーチ構造が見られ、4月27日から大赤斑の前方のSTrZに短いストリークが伸びています。STrZ白斑との衝突の影響があったのかどうかは分かりませんが、長さも15°以下で大きく発達することはなさそうです。

図1 2003年5月3日の木星

撮影/永長英夫氏(兵庫県、25cm反射)

STB(南温帯縞)にある白斑'BA'は、ますます輝度が落ちていて、高解像度の画像でも形状がつかめないほどです(図2)。5月28日にはII=263.7°(小石川氏の画像)まで前進してきました。この'BA'の直後にあるSTBの暗斑が濃度を増しており、こちらの方が目立つ存在になりました。この他では、大赤斑を通過したSTB〜STBsの濃化部が一体となって、長さ70°ほどの太いベルトとして見られます。

NEB(北赤道縞)は通常の幅のベルトに戻り、北縁にある6個のバージ(barge)もあまり目立たなくなりました。NTrZ(北熱帯)にあって特異な動きをしていた白斑'Z'も、5月3日にII= 249.4°に位置していますが、前進速度が非常に遅くなったままです。

北温帯流-Bに属するNTB(北温帯縞)の2個の暗部(bar)は、後方のものが4月上旬に消失し、残った前方の暗部(図1中央)も5月中旬には消失してしまいました。これでNTBは完全に淡化したことになります。


図2 2003年5月1-5日の木星展開図
撮影/永長英夫氏、熊森照明氏(堺市)、A.Cidadao氏(ポルトガル)、E.Ng(香港)(拡大)

5月の火星 (安達 誠)
5月は、視直径がいよいよ10秒台に入り、表面の模様も非常に良く見えるようになりました。肉眼でもはっきりと模様が認められるようになり、画像でも小さな表面模様まで記録された高分解能の画像が報告されるようになりました。

2001年の大黄雲の影響が、火星の表面にどのように出ているかが、観測者には非常に大きな関心事であり、雲の消長もさることながら、表面模様の変化も重要な観測となりました。今月は、まず南極冠から報告していきましょう。

図3 2003年5月の火星面

撮影/中西英和氏(愛知県)、永長英夫氏、安達 誠氏(滋賀県)、池村俊彦氏(名古屋市)

@明るくなった南極冠

火星の季節を表わすLsが180°(南半球の春分、今年は5月6日)になる頃までは、通常、南極冠は南極雲におおわれているために明るく見えないものです。今シーズンも例年と同じように、月の初めまでは南極冠は明るく見えませんでした。一般の方に火星を望遠鏡で見ていただくと、白い雲の出ている北極地方を南極冠と間違えることすら起こるくらいでした。

南極冠は5月9日までは黄色っぽく観測されていましたが、それ以降には、ようやく南極冠が白っぽく観測されるようになりました。極冠はなんといっても火星のシンボルのような存在ですから、ようやく火星らしい顔を見せてくれるようになったわけです。また、極冠が縮小し始めると現われてくるダークフリンジと呼ばれる極冠の襟巻きのような黒いバンドも、5月中旬ごろからはっきり見えるようになりました。

A南極冠がおかしい

白く美しい南極冠も、これからは次第に小さくなっていきます。南極冠は11月頃までは観測できるでしょう。過去の観測では小さくなっていくにつれ、極冠の内部に亀裂が観測されるようになります。この亀裂は氷の割れ目のようなものではなく、氷が溶けて地表が見えているもので、山や盆地などの地形に大きく影響していると考えられています。なぜかというと、この割れ目は毎回同じ場所に出現するからです。太陽の方向を向いた斜面があれば、他の地域よりも早く溶けていくと考えられるからです。

したがって、これから亀裂がどこから見え始め、どのように拡がっていくかを追跡することは重要な観測課題となります。過去の例と比較すれば、今年の極冠の溶ける早さが速いのか遅いのかが分かります。極冠の厚み、火星大気の温度、さらに太陽活動との関連などもあり、簡単には解明できないでしょうが、重要な情報を得ることができるでしょう。

火星特集のページで紹介していますが、今シーズンの南極冠はいつもと異なったおかしな様子を示しています。本来ならばキラキラと輝いているはずの南極冠の中央が暗くなっています。しかもこの暗くなっている地域は南極冠の完全な中央ではなく、経度で0°方向(サバエウス・オーロラ方向)に偏っているようです。極冠は周囲から溶け始め、その周辺にダストが発生しやすいことが知られていますが、極冠の中央にダストが厚くかぶっているのでしょうか、それとも極冠が中央から溶け始めているのでしょうか、この原因はまったく分かっていません。今後の観測で明らかになるでしょうが、どのような変化を見せてくれるのか、目が離せない状況です。

B南極冠に光点出現

南極冠の周りにできる、暗いバンド(ダークフリンジ)が非常に顕著になってきましたが、それとともに、溶けつつある南極冠の周辺に明るい斑点が見えるようになりました。5月の終わりごろから目立ってきていますが、経度で20°辺りに見えています。

C低緯度地方の氷晶雲

ブルーの画像で、低緯度地方に幅の広い明るくなった帯のような部分が見られますが、これは低緯度地方に特有の氷晶雲です。極冠が白く輝き始めた5月中旬頃から目立つようになりました。シルチスの東側など、いつも明るくなる場所があるのですが、今後はこれらの動向にも注意が必要でしょう。

2001年の大黄雲はLs=185°(南半球の初春)とこれまでで最も早い季節に発生しました。火星にはひんぱんにダスト雲が発生していますが、それが大黄雲になるかどうかは誰も予想できないようです。しかしながら、いつでも大黄雲発生の可能性があるといえるかもしれません。日本列島はこれから本格的な梅雨になり、観測条件は極端に悪くなりますが、注意深く観測を続けて下さい。

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