天文ガイド 惑星の近況 2004年1月号 (No.46)
伊賀祐一
2003年10月は比較的天候に恵まれ、夕方にまだまだ-1等を越える明るさの火星や、1月1日に衝を迎える土星、次第に明け方の高度を上げている木星などの観測が行われました。火星観測は、さすがに最接近の頃と比べると観測数が半分まで減りましたが、国内から26人の観測者で30日間で425観測、海外から15人で282観測の報告がありました。また、土星は25人から24日間で91観測(そのうち海外からは9人で44観測)、木星は15人から22日間で135観測(そのうち海外からは5人で26観測)を受け取りました。

10月の火星:視直径20秒を切る
10月の火星は最接近から1ヶ月を過ぎたわけですが、月初めには20秒だった視直径が月末には15秒まで小さくなりました。視直径が15秒というのは最接近時の25秒の0.6倍ですが、面積としては0.36倍にもなり、本当に小さくなったと感じます。11月末には10秒台、そして12月末には8秒台まで小さくなりますが、火星の赤緯が上るので夕方の高度は逆に高くなります。冬の季節風が落ち着いた条件なら追跡がまだまだ可能です。


画像1 10月の火星面
撮影/柚木健吉(堺市、20cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)(拡大)

日本からの観測(画像1)では、10月初めはキムメリウムからシレーン海が観測されましたが、キムメリウムから北に伸びる2本の雫状の模様はまだとらえられています(10月1日)。この視直径でも検出できるのはToUcam PROによる観測技術の進歩によるものでしょう。その後はソリス(太陽湖)付近が観測され、8日は非常に好条件に恵まれました。この経度は2001年6月の大黄雲発生によって大きな影響が残っている地域で、濃化したダエダリアや形を変えたソリスはとても印象的でした。なお、右下にはオリンポス山が見えています。

中旬を過ぎるとオーロラ湾付近が観測されましたが、火星の西端(画像では右端)には青白い朝霧が広がっていました。この頃は北半球のアキダリウムをおおう雲が目立ち、毎日のようにその姿が変化する様子が観測されました。24日頃にはサバエウスから子午線湾の経度が見られ、今年の7月1日にヘラス北部で発生した黄雲の影響で大規模に濃化したデューカリオンからノアキス北部が観測されました。この地方は、大黄雲発生直後に表面の砂が巻き上げられて地肌がむき出しとなって暗く見えたものと思われますが、次第に明るさを取り戻しつつあるようです。そして、月末には大シルチスからヘラス地方が観測されました。

火星の南半球の季節はいよいよ夏至(Ls=270)を過ぎてしまいました。季節的南極冠はますます縮小していきます。特に0°Wの方向に偏芯していますので、サバエウス地方が見えるときは南極冠が見えやすくなります。11月末までは季節的極冠は観測できるのではないかと思いますが、視直径が小さくなるので永久南極冠が見え続けるものかどうか興味深いところです。

木星:mid-SEB outbreak
先月号でお伝えしたように、合の間にmid-SEB outbreak(南赤道縞内の白斑突発現象)が発生しました。発生源の最初の観測は9月17日UTの堀川邦昭氏(横浜市,16cm反射)によるもので、II=190°付近から前方のSEBが明るくなっていました。10月に入り、ようやく詳細な観測が得られ、18日UTにII=190°、30日UTにも同経度に発生源が見られます(画像2のA)。この発生源を起点として、白斑が前方のSEBnに連鎖状に並んで前進するのが特徴です。前進してきた白斑は、8日UTや15日UTの画像の@の青暗い暗柱の位置まで進んでいます。


画像2 10月の木星面
撮影/福井英人(京都市、25cmミューロン)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

今シーズンの大赤斑(GRS)はII=88°に位置していますが、形に大きな変化はないものの、近年になくオレンジ色が顕著になっています。これまで淡くて見えにくい大赤斑でしたが、今年は木星を代表する模様として復活するのでしょうか。さて、STB(南温帯縞)ですが、大赤斑の後方のII=147°に顕著な暗斑が見られます(8日)。mid-SEB outbreak発生源の南であるII=212°に、STB白斑'BA'が30日にようやく確認できました。輝度がなく、よほどの好条件でないと検出できそうにありません。

NEB(北赤道縞)は、昨シーズンと比べるとずいぶんと幅が狭くなっています。これは昨シーズンからのNEB北縁の淡化が進んだもので、これまで観測されていたバージ(barge)も見えなくなっています。II=200°のNTrZ(北熱帯)には、顕著な白斑が観測されています。この白斑はform-Zと呼ばれるもので、1997年から観測されている長命な白斑です。今シーズンはNEBの南縁からEZn(赤道帯北組織)の活動が盛んな経度が見られます。15日の画像のように、濃い青色のフェストーンや、それらを分断するような活発な白斑の動きが見られます。

10月の土星
9月にはSTBsに発生した小白斑が話題になりましたが、今月はまったく観測されませんでした。もともとが高精細な画像でないと検出できない模様だったのですが、2週間ほどの活動で消失したように思われます。

画像3 10月の土星面

撮影/(上)永長英夫(兵庫県、25cm反射)、(下)風本 明(京都市、30cmニュートン)

前号へ INDEXへ 次号へ