天文ガイド 惑星の近況 2004年3月号 (No.48)
伊賀祐一
2003年12月の惑星観測をご紹介します。やや暖かい気候だったとは言うものの、冬場のジェット気流の影響を大きく受ける季節になりました。火星の大黄雲発生のニュースもあり、火星観測は国内観測者が23人から28日間で345観測、海外から15人で153観測、合計で498観測と先月を上回りました。1月1日に衝をむかえた土星は36人から30日間で292観測(そのうち海外は16人で116観測)、3月4日に衝をむかえる木星は25人から30日間で337観測(そのうち海外は13人で90観測)を受け取りました。

火星:第3波の大黄雲発生
先月号の速報でお伝えしましたが、12月13日UTにDon Parker氏(米国)がクリセ〜オーロラ湾にかけて黄雲の発生をとらえました(画像1)。どうやら9日UTのParker氏の画像が、クリセに発生した黄雲の最初のようです。発生した黄雲は一度南に拡がり、14日UTにはアルギレ〜ソリスへと南西方向に拡がりました。15日UTになると、黄雲はノアキス〜デューカリオンへと北東方向にも拡がり、南半球の中緯度を帯状に2/5程度までおおってしまいました。次第に黄雲の帯は南に移動していきますが、18日UTにはヘラスも黄雲におおわれ、全周の1/2にまで達しました(画像2)。

画像1 2003年12月の火星面

撮影/熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、Don Parker(米国、40cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)

画像2 2003年12月の大黄雲

MGS/TESによる火星大気中のダスト分布。上が南。
画像提供/NASA

23日UTには再度オーロラ湾に黄雲が発生しました。その直後には黄雲は南に拡がり、南半球を帯状におおう黄雲と合流するかに思われました。これによって黄雲が再び活性化され、火星全周をおおうまで発達するかもしれないと期待しました。ところが、実際には予想するほど大きくならずに、次第に黄雲は衰えてしまいました。

今回の大黄雲の発生は、火星の季節を示す火星黄経Lsは315°で、1973年のソリス黄雲のLs=300°よりも遅い季節に発生しました。BAA(大英天文協会)のR.McKim氏の情報では、1924年12月にLs=311°で発生した記録があるそうですが、今回はそれをも更新したことになります。

MGS(マーズ・グローバル・サーベイヤ)の観測を調べると、同じクリセに発生した黄雲 の画像(画像3)が見つかりました。2002年1月25日の画像で、Ls=315°とちょうど1火星年前にあたります。画像を見ると、クリセに発生した黄雲が南に拡張していますが、まさに今回の黄雲の発生を見ているようです。


画像3 MGSによるクリセの大黄雲
2002年1月25日(Ls=315°)に発生した黄雲。この画像は上が北。
画像提供/NASA(拡大)

木星:STB小暗斑が大赤斑に接近
mid-SEB outbreak(南赤道縞の白斑突発現象)は、勢力を弱めているものの、その活動はまだ続いています。発生源はII=170°付近にあり、SEBへの白斑の供給が続いています。ただ、目立った明るい白斑ではなく、次第にSEB北縁に向けて幅が狭くなっています。相変わらず大赤斑後方の定常的な攪乱領域は消失したままです。過去の観測では、mid-SEB outbreakの末期には発生源からの白斑の供給が止まると、後方から数十度の長さを単位で一気に消失します。実際に今回はすでに11月に後方の25°の長さが消失しています。もう少しでmid-SEB outbreakの活動も終了するのかもしれません。
画像4 2003年12月の木星面

撮影/@C永長英夫(兵庫県、25cm反射)、AB福井英人(京都市、25cmミューロン)

SSTB(南南温帯縞)には5個の小白斑がGRS(大赤斑)の経度付近に見られます。昨シーズンの終わりには、5個の小白斑は経度長90°の範囲に狭まってきて、もしかすると白斑どうしのマージが起こりそうでした。しかし、現在は経度長100°まで拡がっています。元々、SSTBの小白斑どうしは、近寄ったり、遠ざかったりと、思っているよりもふらついています。今回は、最前方の小白斑が加速して離れていったように思われます。

STB(南温帯縞)の白斑'BA'は月末にはII=180°付近にあり、輝度はあまりないものの、周りが暗く縁取られているので分かりやすくなっています。この後方には長さ50°ほどの複雑な青味の強い領域があり、その後端部には赤茶色の暗斑があります。この暗斑の後方II=240°から長さ60°ほどSTBの濃化部が見えています。'BA'後方の青味の強い領域は、低気圧性の逆周りの循環気流だろうと思われます。

2002年12月に形成されたSTBの丸い暗斑が、GRSに後方から接近しています。1月末にはGRSの真南に達しますが、GRSの渦に巻き込まれるなどしないでこのまま通過するでしょう。逆にGRSから離れていく際に変化が起こるのではないかと思われます。

NEB(北赤道縞)はずいぶんと幅が狭くなり、昨シーズンにNEB北縁に見えていたバージは全くなくなりました。また、そのためにNTrZに露出したノッチもII=190°のform'Z'以外は見えなくなりました。淡化したNTB(北温帯縞)やNNTB(北北温帯縞)もそのままで、全体的に北半球は寂しい感じがします。


画像5 2003年12月21-23日の木星展開図
v撮影/福井英人、Eric Ng(香港、32cm反射)(拡大)

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