天文ガイド 惑星の近況 2004年5月号 (No.50)
伊賀祐一
2004年2月の惑星観測をご紹介します。火星観測は17人から26日間で215観測(そのうち海外は6人で39観測)とさすがにかなり減少しました。土星は24人から25日間で140観測(そのうち海外は9人で37観測)、3月4日に衝をむかえた木星は49人から29日間で582観測(そのうち海外は21人で248観測)、宵の明星として見られた金星は9人から17日間で56観測(そのうち海外は3人で34観測)を受け取りました。この中で柚木健吉氏(堺市)の観測日数は特筆されるもので、火星16日、土星18日、木星18日とそれぞれの部門でトップでした。

火星
火星は月初めの視直径6.7秒から月末には5.7秒まで小さくなりました。夕方の西空に高く見えていますが、さすがに細かな模様まではとらえられなくなってきました。表面模様には特に変化は見られず、ダスト雲の発生もなかったようです。中央緯度が17°Sと少しずつ下がり、北半球の模様が見えるようになってきました。

火星の季節を示すLsは347-357度で南半球では夏の終わり、北半球では冬の終わりを迎えています。北極は永久北極冠の周りにドライアイスの霜から成る季節的極冠が形成されているはずですが、この季節は北極上空を北極雲が覆っていますので、その姿を確認することはできません。

画像1 2004年2月の火星面

撮影/(左から)安達 誠(大津市、20cm屈折)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)

木星


画像2 2004年2月の木星
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)、C.Fattinnanzi(イタリア、25cm反射)(拡大)

◆STBs暗斑のGRSの通過

GRS(大赤斑)の南側を通過して注目されていたSTBs(南温帯縞)の小暗斑は、1月27日にGRSの真南を通過した後、無事に通過し終えました(画像3)。GRSに非常に近い緯度にあるので、何らかの影響を受けて消失するかもしれないと心配する人もいましたが、過去に観測されたと同様に、暗斑はGRSに接近するとやや緯度を南に変えて迂回するように、GRS前方に進みました。この暗斑は2002年12月に生まれたもので、きれいにまん丸の形をしています。ただし、GRSの前方に回ると不安定になる可能性が高いので注意してください。

画像3 STBsの小暗斑

STBsの小暗斑が大赤斑の南を通過。
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)

◆mid-SEB outbreak

2003年夏の合の間に発生したmid-SEB outbreak(南赤道縞中央の白斑突発現象)は、GRS後方からII=140°までの経度で活動が観測されました(画像4)。発生直後はII=190°付近に白斑の供給源がありましたが、次第に前進していて、2月にはII=140°から白斑が供給されていますが、顕著な白斑は少なくなり、穏やかになりつつあります。

画像4 mid-SEB otbreakの活動

撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)

◆SEBn/EZs disturbance

2月25日にGRS前方のSEBnに白斑が出現しました(画像5)。当初は青黒いSEBnが淡化する第II系に所属する現象と思われましたが、この白斑はEZsに流れ込むリフトと一体となった第I系の現象で、ほぼI=100°で発生しています。23日のA.Cidadao氏(ポルトガル)のメタンバンドでの画像では、SEBn/EZsに活動領域が観測され、以降もIRバンドで暗く観測されました。この現象はSED(South Equatorial Disturbance)と呼ぶSEBn/EZsの複合した攪乱現象です。同様なSEDの発生は1999-2002年にかけて観測されていますが、このときの活動の主体はEZsに出現した大白斑でした。今回の活動ではまだEZsに白斑が観測されていないのですが、今後の活動に注意が必要です。

画像5 SEBn/EZs disturbance

撮影/月惑星研究会関西支部

◆STB Oval 'BA'

STB白斑'BA'はII=160°に位置し、周囲を暗い模様で取り囲まれているので、以前よりも見えやすい対象になっています。5月にはGRSの南を通過するでしょう。BAから前方のSTBは北組織が濃化してきています。またBAの後方もII=260°付近までの間が濃いベルトとして復活しつつあります。

◆NEBの活動

NEB(北赤道縞)は内部にリフトが活発な領域があり、II=310から70°の広範囲にNEBを斜めに横切る白雲が見られます。このリフト領域は体系IIに対して-4°/日と早い前進運動を示しますので、かなり変化が早いように感じます。

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