天文ガイド 惑星の近況 2005年2月号 (No.59)
伊賀祐一
2004年11月の惑星観測の報告です。今年は11月に入っても例年ほどの冷え込みはないものの、惑星観測にとっては高空のジェット気流が吹いて条件は恵まれません。11月中旬には全国的に天候が悪く、観測ができなかった日が集中しました。1月14日に衝をむかえる土星の観測は、30人から29日間で630観測(そのうち海外は16人で73観測)と多くの報告を受け取りました。4月4日に衝となる木星は、ようやく明け方には高度も高くなり、少しずつ観測が増えていますが、19人から26日間で254観測(そのうち海外は9人で32観測)でした。その他の惑星では、3月29日の外合にむけて高度を下げている明け方の金星が、6人から16日間で48観測(そのうち海外は2人で12観測)でした。

木星:2004年11月
10月6日に初観測が行われたことを思うと、木星は11月には次第に高度を上げてきていますが、まだまだ観測はきびしい条件でした。画像1は、国内での観測から選んだものですが、しだいに細かな模様をとらえることができてきました。これらの観測画像から、画像2に示すような木星面の展開図を作成しました。


画像1 2004年11月の木星
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)(拡大)


画像2 2004年11月の木星展開図
撮影/瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、永長英夫、池村俊彦(拡大)

@ 幅広いNEB

NEB(北赤道縞)は、木星面でもっとも目立つベルトの一つですが、今シーズンはさらに目立っています。NEBの幅はかなり広くなっていて、ほぼ全周に渡って安定したベルトになっています。また例年よりもNEBの赤みが強まっていて、内部にもリフトや白斑のような目立った模様がなく、太いNEBがぐるりと1周しているように見えます。NEB南縁には、いつもならば青黒いフェストーンが目立つのですが、今シーズンは大きなフェストーンが見当たりません。

画像3の左図では、2003年と2004年の模様の緯度を分かりやすいように1/2ずつ分割してあります。他のベルトでは変化がありませんが、NEBは北に2倍ほどの幅に広がったベルトになったのが分かります。最近の観測では、NEBはほぼ周期的に様相を変化させています。幅の狭くなったNEBの状態から、次にはNEB北縁に暗斑が飛び出して凸凹の激しい状態へ、そしてNEB北縁まで幅が拡張した状態を3−4年のサイクルで繰り返しています。今シーズンのような完全に拡幅期になったのは、1997年、2001-02年であり、ほぼ同じサイクルとなっています。前回の拡幅期のあとで見られた画像3右図のような、赤茶色のバージ(barge)やNEB北縁に入り込んだ白斑ノッチ(notch)が、これから多く見られるようになると考えられます。


画像3 木星のNEBの変化
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

A SEBの動向

SEB(南赤道縞)も安定なベルトとして知られていますが、今シーズンは少し変化が見えてきたかもしれません。GRS(大赤斑)の前方と後方では、SEBの濃度が大きく変わってきました。もちろん、大赤斑の後方には定常的な撹乱領域がありますが、顕著な明るい白斑群は少ないし、全体的にSEBが淡くなっています。また、定常的撹乱領域の後端部も、10月のII=140°から20°ほど拡張しています。

SEBもいつまでも安定したベルトのままでいるわけではなく、近いうちに必ず淡化します。何回も淡化しているのに、その淡化のステップを追跡できたことはありません。

土星
11月の土星ですが、11月6日UTの観測でSEB(南赤道縞)に小さな白斑が自転で移動しているのが確認されました(画像4)。このように地上の望遠鏡からとらえられる白斑はときおり観測されており、9月以来の出現となっています。ところで、土星のリングの傾きは最大を過ぎ、少しずつ戻りつつありますが、今シーズンには土星本体の方がリングの短い方よりも大きくなっています。つまり、リングの北にわずかながら北極部分が見えてきたことになります。

画像4 2004年11月の土星

撮影/阿久津富夫(栃木県、32cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)
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