天文ガイド 惑星の近況 2005年4月号 (No.61)
伊賀祐一
2005年1月の惑星観測です。1月14日に衝をむかえた土星の観測は、33人から30日間で449観測(そのうち海外は20人で162観測)でした。土星はカッシーニ・ホイヘンス探査機で多くの人から注目を集めました。衝を4月4日にむかえる木星は、26人から30日間で306観測(そのうち海外は16人で110観測)でした。その他、3月29日の外合となる明け方の金星は、T.Olivetti氏(タイ)から2日間で4観測のみありました。火星は10月30日に準接近となりますが、T.Olivetti氏・C.Zannelli氏(イタリア)・永長英夫氏(兵庫県)の3人から6日間で8観測の報告がありました。まだまだ視直径は5秒を超えませんが、少しずつ模様がとらえられ始めました。

木星:2005年1月

@ 活動的なNEB

NEB(北赤道縞)は2001年以来の完全な拡幅期に入り、幅が広く、さらに赤みの強いベルトが続いています。拡幅期の特徴としては、NEBの中央に細いベルト(本来のNEBn)が出現し、そのベルト上に赤茶色の暗斑barge(バージ)が現れてきます。NEB内部には、NEB中央に白斑が出現し、それが東西流によって斜めに引き伸ばされたrift(リフト)に成長します。riftの動きはII系よりも速く、bargeなどをかなり速い速度で追い越していきます。

1月末では、bargeはII=30,170,355°の3個見られます。12月にII=220°にあったbargeは、1月5日頃にriftの通過で消失し、1月19日にII=300°で生まれたばかりのbargeも25日頃にはriftの発生で消失しました(画像3)。また、全周では4個のriftがありますが、II=80°のriftは特異的です(画像2)。白斑の発生がNEB北部に偏っているので、このriftだけはあまり移動しません。これは2001年の際にもII=150°に出現した特異riftと同じかもしれません。

1997年に出現してから継続しているform-Zと呼ばれるNTrZ(北熱帯)の白斑は、今シーズンもII=65°に健在です。他にもNEB北縁に湾入した白斑notch(ノッチ)が、II=130,190,230,350°に見られます。

画像1 2005年1月27日の木星

撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)

画像2 NEBのリフトの活動

B1B3B5がバージ、N2N4がノッチ、R1R2R3がリフト。R1リフト通過でB3バージ消失。R3リフト通過でB5バージ消失。

A SEBの動向

SEB(南赤道縞)では、大赤斑後方の定常的な擾乱領域の活動はおとなしいままです。今シーズンは、II=110°付近からII=160°までの領域で、白雲の活動が見られますが、明るい白斑が出現することはありませんでした。一度、II=160°で発生した白斑は前進し、活動範囲が次第にII=120-130°までに狭まり、約1ヶ月を周期として、再び白斑の発生が繰り返されています。その他のSEBは、ベルトの真ん中にSEBcの細いベルトが目立ちます。

SEBsにはSEBsジェット気流に乗って高速で後退している暗斑やプロジェクションが見られます。II=180°付近から後方で盛んに暗斑群が活動し、大赤斑の前方まで達するものがあります。その中で、12月末にSTrZ(南熱帯)のII=40°に位置していたドーナツ状のリング暗斑が、10日間で20°ほど後退しました。しかし、その後はII=60°で停滞し、新たにII=40°の元の位置に別なリング暗斑が出現しました。どうも、大赤斑の40°ほど前方の経度は特異的な位置なのかもしれません。さらに、この特異なリング暗斑を越えて、別な暗斑が急速に後退しています(画像1)。1月末に大赤斑孔の前端に達し、このまま大赤斑の巨大な渦に巻き込まれるでしょう。

B大赤斑

大赤斑(GRS)の位置がついにII=100°を超えました。1974年にはII=12°付近にあり、ゆっくりと後退していたが、近年では1年に+5°ずつ後退していました。古くからの観測者にとっては、大赤斑の経度が100°を超えるというのは、不思議な気がします。

1月中旬にSSTB(南南温帯縞)白斑がSTB(南温帯縞)白斑BAを追い越しました。この時に、BAの形状に変化があり、やや大きくなったような気がします。BAの1月末での位置はII=10でした。


画像3 2005年1月17/19日の木星展開図
撮影/永長英夫、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、C.Go(フィリピン、20cmSCT)、Z.Pujic(オーストラリア、31cm反射)(拡大)

土星の衝
1月14日に衝をむかえたこの日、ESA/NASAのホイヘンス探査機が、土星の衛星タイタンの表面に降り立ちました。一方、地上からも2つのトピックが観測されました。1つ目は柚木健吉氏の指摘で、衝効果でリングが明るく輝いて見えました(画像4上)。これは、リングを構成している粒子の影が衝では見えなくなり、そのためにリングの輝度が上がったためと考えられます。2つ目は池村俊彦氏の指摘で、南極の高緯度地方の赤みが強くなっています(画像4下)。これは1999年以来の現象となります。これらについては、次号で詳しくお伝えします。

画像4 2005年1月の土星:リングの衝効果と南極地方の変化

撮影/柚木健吉(堺市、20cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)

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