天文ガイド 惑星の近況 2005年6月号 (No.63)
伊賀祐一
2005年3月の惑星観測です。今年は全国的にずっとシーイングに恵まれず、3月には良くなることを期待していましたが、思ったような良い条件は少なかったようです。黄砂による透明度の劣化もダブルパンチでした。高解像度の画像を報告してくれる海外の観測者(特にオーストラリア・タイ・フィリピン・イタリア)に完全に圧倒されました。

夕方の西空にまわった土星の観測は、24人から26日間で292観測(そのうち海外は14人で92観測)でした。衝を4月4日にむかえる木星は、39人から31日間で637観測(そのうち海外は25人で298観測)でした。10月30日に準接近となる火星は、ようやく視直径が5秒を超えましたが、3人から9日間で10観測に終わりました。

木星:2005年3月
国内の観測者もがんばっていますが、気流の悪条件には勝てません。今月も海外からの観測者の画像に頼る結果となりました。

@ STrZのダークストリーク

II=101°にある大赤斑(GRS)の前方には、2004年12月末に出現したSTrZ(南熱帯)のドーナツ状暗斑が健在です。経度はII=60°でほぼ一定です。さらに2月中旬にはII=0°に新たなSTrZ暗斑が出現しました。また、SEB(南赤道縞)南縁を急速に後退するSEBs暗斑群があり、その大きな暗斑(これらもドーナツ状)が1月末と2月末に次々と大赤斑に接近しました。画像1に示すように、SEBs暗斑は、STrZ暗斑の狭い北側をすり抜け(2月20日)、大赤斑の前端に達しました(2月25日)。暗斑が大赤斑孔に入ると、反時計回転の大赤斑の渦に巻き込まれるように北側を回りこんで、大赤斑の後方に達すると形が分からなくなります。その後はSEBsをそのまま後方に移動するか、大赤斑の渦にしたがって南側に回りこむ流れがあります。

この大赤斑の南側を回る流れが、今度は大赤斑の前方に向けて噴出す現象、STrZダークストリーク(dark streak)が観測されました。3月5日には短い突起が大赤斑から飛び出しているようですが、17日以降には急速に前方にストリークが伸び始めました。そして、29日にはII=60°のSTrZ暗斑まで伸び、大赤斑とつながって見えます。このストリークはさらに前進を続けるものと考えられますが、STrZ暗斑との関係はどうなるでしょうか。ストリークの活動は2001年11月以来のことです。

画像1 木星:STrZダークストリークの発生

大赤斑の前端からストリークが前方に伸びていっている。

A STB〜SSTB

STB(南温帯縞)白斑"BA"は、3月31日にはII=336.2°(永長氏画像から)に位置しています。2月に比べ、周囲を取り囲む暗いエッジが淡くなり、BAそのものは分かりにくくなりました。SSTB(南南温帯縞)には、全部で8個の小白斑がありますが、そのうちの5個が画像1に見られます。経度方向には90°の領域に集中していますが、よく見ると白斑同士の間隔は一定ではなく、距離が広がったり狭まったりを繰り返しています。

B NEBの活発な活動

NEB(北赤道縞)は拡幅期にあり、北に広がったベルトの中央(これが本来のNEBn)に赤茶色の斑点バージ(barge)が5-8個見られます。バージはII=10,40,170,210,240,300,330,350°に出現しますが、数はかなり変動します。というのは、NEB内の活発なリフト(rift)の活動によって、バージは消失し、そして同じ経度に再度出現しています。リフトはNEB内に発生した小さな白斑が東西に引き伸ばされたもので、-65°/月のドリフトでNEB内をかなり速い速度で前進します。同じ発生源から何回も白斑が供給され、リフトの活動を維持しているようで、全部で3ヵ所の発生源が連なって、経度で200°ぐらいのリフト領域を形成しています。このリフトの通過によって、バージは一度は壊されますが、その後に復活するようです。

NEB北縁にはノッチ(notch)と呼ぶ白斑がNEBに湾入しています。全部で5-6個あり、II=20,45,130,195,320,(340)°に位置しています。II=45°のノッチは、1997年から追跡されているform 'Z'と名付けられた白斑です。


画像2 2005年3月13/14/15日の木星展開図
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

土星:南極地方が明るい
土星の南半球高緯度のSSTZ(南南温帯)が、2004年11月から次第に赤みが強くなっていますが、3月も観測されています。これは1999年以来のことです。柚木健吉氏(堺市)は、さらに南極地方が次第に明るくなっている現象を報告されました(画像3)。印刷では分かりにくいかもしれませんが、まさに南極点から周囲に向けて、次第に明るさが増してきています。


画像3 土星の南極の明るさの変化
撮影/柚木健吉(堺市、20cm反射)(拡大)

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