天文ガイド 惑星の近況 2005年9月号 (No.66)
伊賀祐一
2005年6月の惑星観測です。日本列島は梅雨入りとなりましたが、6月は空梅雨で水不足が騒がれています。しかし、毎晩のように雲におおわれるか、薄雲におおわれるかで、国内の観測はかなり減少してしまいました。7月24日に合をむかえる土星の観測は、2人から2日間で2観測でした。夕方の観測となった木星の観測は、37人から30日間で324観測(そのうち海外は20人で137観測)でした。朝方の南東の空で高度を上げている火星の観測は、24人から24日間で157観測(そのうち海外から13人で60観測)の報告がありました。

木星:2005年6月

@ 大赤斑とSTB白斑'BA'

木星全体にわたり、大きな変化は観測されませんでした(画像3参照)。大赤斑(GRS)は、6月12日にII=103.5°(永長氏画像から、以降の経度も画像からの計測)と非常にゆっくりと後退していますが、オレンジ色の核がある様相に変化はありません。GRS前方のSTrZ(南熱帯)に3月にできたdark streakは、5月中旬には消失しました。また、12月末にII=40°に生じたドーナツ状暗斑は、dark streakの影響を受けずに残っており、II=78.8°(6/19、C.Go氏)までゆっくりと後退しています。今シーズンの内にはGRSの巨大な渦に飲み込まれるでしょう。STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、II=294.0°(6/28、P.Casquinha氏)で、顕著な白斑として観測されています。BAから後方のSTBの濃化部は長さが60°で、後端部がGRSを通過し終えた5月下旬から10°ほど短くなっています。SEB(南赤道縞)は、北半分のベルトがやや明るくなり、中央のSEBcベルトが濃く目立ちます。

A SSTB白斑

SSTB(南南温帯縞)にある5個の小白斑が、画像1に示すように順次BAを追い越しています。今月は白斑A2とA3の間にある横長の白斑WS1が、BAを追い越すときに、その形状に変化が記録されました。5月上旬まではWS1はA3寄りに位置していましたが、5月21日頃から北側のSTBまで広がった大きな白斑のように見えました。5月27日にはこのままBAに衝突するのかと思われるほどでしたが、6月2日以降は元の横長の白斑に戻り、そのままBAの南方を通過しています。詳しく見ると、BA通過時に南に持ち上がり、さらに横に引き伸ばされています。

画像1 木星:SSTB白斑がBAを通過

SSTB白斑A2-A3の間のSSTBn白斑WS1が、BAを通過中に形に変化が観測された。

B NEBの詳細と今後

NEB(北赤道縞)には、ベルト中央部に赤茶色の暗斑barge(バージ)と、北縁に白斑notch(ノッチ)が交互に並んでいる様子が目立ってきました(画像2)。bargeはII=160〜340°の領域に偏っていますが、これ以外の経度ではNEB南部で活動するrift(リフト)領域によってbargeが消失しているからです。NEBは拡幅期にありますが、これからNEB北部が次第に明化して、衰退期を経て、ノーマルなベルトに変わっていくでしょう。


画像2 木星:NEBの詳細と今後の変化
NEB中央にbarge(B)と北縁にnotch(N)が交互に並ぶ。今後はNEB北半分が淡化。(拡大)


画像3 2005年6月2/4日の木星展開図
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

6月の火星:安達 誠
6月末になり、火星はいよいよ10秒台に近付いてきました。明け方の東天高く昇るようになり観測の好機となりました。視直径は最接近の時のほぼ半分の大きさ(10秒)になり、模様も良く見えるようになっています。一般的に10秒を越えると、火星は観測の好機と言われます。6月では、火星の南半球は春の真っ盛りになっています。そのため、南極冠も急速に小さくなってきており、これからますます小さくなっていく姿が見られます。極冠の内部の観測はなかなか難しいですが、夏は良い気流が得られやすく、これからは永久南極冠の確認にも目を向けましょう。

南極冠が縮小を始めると、朝霧が南半球の朝のリム(火星像の端)に見られるようになります。6月までの時点ではまだそれほど目立ってはいないようですが、これからはリムに朝霧がしだいに目立つようになるでしょう。

オランダのR. Bosman氏が6月27日にアウロラエ(オーロラ湾)のすぐ北に明るい斑点を見つけました。ローカルダストストームという、局部的な砂嵐の発生でした。この明斑は6月28日、イギリスのM. Mobberley氏の画像によって拡がっている姿が記録されています。残念ながら、この様子を画像の中央付近でとらえた観測がなく、状況を正確につかむことはできませんでした。7月2日にアメリカのD. Parker氏の観測で、同じ部分を観測していますが、この時には既に跡形もなく、普段の姿に戻っていました。今回のダストストームの発生は、過去の記録から見て極めて普通の時期に当たり、これからこのようなダストストームの発生が期待されます。

画像4 2005年6月の火星

撮影/Z.Pujic(オーストラリア、31cm反射)、D.Kolovos(ギリシア、28cmSCT)、安達誠(大津市、31cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、R.Bosman(オランダ、28cmSCT)、M.Mobberley(イギリス、25cm反射)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)

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