天文ガイド 惑星の近況 2006年4月号 (No.73)
伊賀祐一
2006年1月の惑星観測です。冬場の観測は寒さと悪シーイングとの戦いですが、少しでも良い気流に恵まれろ、と念じたくなります。火星の観測は、28人から28日間で415観測(そのうち海外から17人で192観測)、1月28日に衝をむかえた土星の観測は、34人から24日間で270観測(そのうち海外から21人で65観測)でした。朝方の東空に高度を上げている木星は、14人から17日間で157観測(そのうち海外から5人で42観測)、1月13日に内合をむかえた金星は10人から14日間で50観測(そのうち海外から3人で13観測)の報告がありました。

木星:mid-SEB outbreak
先月号でお伝えしたSEB(南赤道縞)の活発な白斑の活動は、やはりmid-SEB outbreakという現象でした。12月18日に最初の白斑の発生をII=350°に記録した永長英夫氏(兵庫県)を中心に、悪シーイングと低空の中を続けられた観測から、1月8日になって長さが30°ほどに発達したoutbreakの姿がとらえられました(画像1)。そして、その活動はますます活発になり、1月28日には白斑群の長さは70°までに拡張しています(画像3)。

画像1 2006年1月の木星

撮影/ 永長英夫(兵庫県、25cm反射)、柚木健吉(堺市、20cm反射)

mid-SEB outbreakは『SEB中央の白斑突発現象』と呼ばれ、SEBに発生した1個の明る い白斑をきっかけに、最初の発生位置(発生源)から次々と生まれる新しい白斑が前方のSEBに広がる現象です(画像2)。最も活発になると、白斑と白斑の間は青黒い暗柱に埋め尽くされます。そしてSEBを前進した白斑は大赤斑(GRS)の後方に達すると消失します。mid-SEB outbreakの活動規模は、発生源と大赤斑までの距離が離れているほど活発です。2000年以降はほぼ毎年のように発生していますが、発生源が大赤斑の後方100°以内なので、小規模の活動でした。経度差が200°以上の過去の発生は、1966年,1986年,1998年の3回しかありません。今回の発生源はII=350°、大赤斑はII=110°で、経度差は240°あり、1998年と同じような大規模な活動が期待できそうです。

outbreakの白斑は、前進を続け、大赤斑の後方まで達すると思われます。現在、大赤斑の後方にも別なoutbreakの活動があり、この活動の後端部であるII=200°に達するのは、3月10日ごろと予想されます。どのように2つの活動がぶつかり合うのか、大きな興味です。


画像2 mid-SEB outbreakのモデル
1998年の現象を基に(拡大)


画像3 mid-SEB outbreakの発達
右側(2)のoutbreakが大きく発達しつつある。(拡大)

火星:小規模なダストストーム発生(安達 誠)
2006年の最初に小規模なダストストームが発生し、幸いにも日本から観測できました。視直径は月末には8秒台までさがり、しだいに観測は厳しくなってきました。ただ、火星の地平高度は高く、気流さえ良ければまだまだ観測は十分にできます。

@ ダストストームの発生

1月7日、2ヶ所でダストストームが確認されました(画像4)。前日の1月6日に、安達が眼視観測でリムが明るくなっている様子を見ていますが、確実な姿をとらえたのは1月7日のことで、米山誠一氏(横浜市)が最も早い記録でした。クリセ(35W,+10)が黄色に明るく輝いている姿をとらえており、かなり大きな広がりであるため、おそらく1-2日前に発生したものと考えられます。また、同日には、熊森照明氏(堺市)がソリス(90W,-25)の北側に帯状にたなびくダストストームを記録しています。熊森氏の画像ではソリスのダストストームの方が目立っていました。

画像4 2006年1月の火星

撮影/米山誠一氏(横浜市、20cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)

クリセで見つかったダストストームは一気に淡くなり、翌8日には明るさが落ちてしまいました。一方、ソリスの北側で見つかったダストストームは大きな変化をせず、数日この状態を保っていました。おそらく、ダストストームによって、表面の模様が変化したのでしょう。

1月11日にはマルガリティファー(20W,-10)からノアキス(0W,-40)にかけて、広範囲の模様のコントラストが低くなり、広い地域にダストストームがベール状に拡散しました。その後、このダストベールはしだいに落ち着き、約1週間で元の姿に戻っていきました。大きな変化には至りませんでしたが、まだまだダストストームの発生には注意が必要です。

A 北極雲と南半球の白雲

火星の大気の水蒸気は、現在北に集まり、北極冠が形成されています。極をおおう雲がしだいに晴れてくると、その下から白い北極冠が姿を現わします。DEの値がまだ低く、条件は良くありませんが、気流の良い時には特に注意を払って監視したいものです。

南半球は残った水蒸気が目立った変化を見せるようになっています。夜明け後の南緯45°付近はここしばらくいつも霧が出て、火星面の正午頃まで見えていましたが、この傾向が顕著になり、とうとう日中ずっと見えるようになりました。時を同じくし、南半球にある大規模構造盆地のアルギレ(30W,-50)や ヘラス(290W,-50)に目立った霧が見えるようになりました。

土星:衝効果
土星は1月28日に衝をむかえました。今シーズンも衝効果によって、リングが明るくなる現象が確認されました(画像5)。リングは氷を含む岩石の粒子から構成されていて、衝のときは正面から太陽光を受けます。そのために、粒子が作る影が地球から見ると最小になり、リングが土星本体よりも相対的に明るくなります。衝効果が見られるのは、衝の前後の10日ぐらいの期間です。

また、1月23日には久しぶりに南温帯縞(STB)に白斑が観測されました。経度はIII=160°、緯度は南緯38°で、やや大きめの白斑です。

画像5 2006年1月の土星(衝効果とSTB白斑)

撮影/ 柚木健吉(堺市、20cm反射)

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