天文ガイド 惑星の近況 2006年6月号 (No.75)
伊賀祐一
2006年3月の惑星観測です。今月は少し観測条件が良くなってはきたものの、思うようには長続きしませんでした。視直径が7秒を切った火星は、14人から23日間で168観測(そのうち海外から7人で77観測)、白斑で話題になった土星の観測は、29人から26日間で332観測(そのうち海外から28人で159観測)でした。木星は5月5日に衝をむかえますが、29人から29日間で342観測(そのうち海外から17人で156観測)の報告がありました。

木星

@ 最盛期のmid-SEB outbreak

mid-SEB outbreakは、2005年12月18日の発生から3ヶ月が経ち、その活動の最盛期にあります。画像1に3月の活動をまとめてありますが、白斑の連鎖である活動の主要部の長さは、月初にはII=220-325°の105°、月末にはII=190-315°の125°に拡がっています。この活動領域の後端部がoutbreakの発生源で、-9°/月のドリフトで前進をしていて、3月2日にはII=325°でした。ところが、3月8日から17日にかけて、後端部の活動はII=295°まで一気に30°の領域が縮小し、再び3月29日にはII=315°に白斑が出現しました。発生源の位置は、このように周期的な脈動を繰り返すようです。

outbreakの白斑群は、白斑が青黒い暗柱に区切られた特徴的な様相を示します。発生源の前方では、SEB内をやや南側へ膨らむように白斑が前方に拡がっていきます。海外からの気流に恵まれた高分解能画像(3月8日)を見ると、SEB中央のやや南よりの位置に明るく小さな白斑がいくつも観測されました。どうやら、この一つ一つの小白斑がoutbreakの白斑に成長しているようです。これまでは、白斑は発生源だけで出現し、それがそのまま前進していると考えていましたが、どうやら誤っていたようです。outbreakの本質は、白斑が発生する領域が前方に拡がり、あちらこちらで白斑が出現しているのかもしれません。

一方、outbreakの前端部は、大赤斑後方撹乱(post-GRS disturbance)の領域に到達し、その活動が抑えられてきています。それは、活動がSEB内の北寄りにシフトして、狭いSEBnの範囲に限定されることを意味します。白斑や暗柱の大きさがより小さくなり、次第に活動が消失します。そういう意味では、今回のoutbreakの活動はこれ以上前方には波及しない時期にありますから、今がもっとも活動が盛んであると言えるかもしれません。

画像1の下段に、1998年のmid-SEB outbreakの様子を示します。この年は3月末にoutbreakがII=350°付近で発生しており、発生後4ヶ月の様子です。今年と非常に似た大規模スケールのoutbreakでした。1998年は発生後5ヶ月経った9月頃から、後端部から活動領域が段階的に縮小していく様子がとらえられています。


画像1 mid-SEB outbreakの発達と1998年の現象
撮影/ 2006年:月惑星研究会、1998年:浅田秀人氏(拡大)

A 赤みの強いSTB白斑BA

大赤斑の右上に近づいているSTB(南温帯縞)の白斑BAが赤くなっていることで注目されています(画像2)。BAが赤くなった最初の観測は、国内では1月8日の永長英夫氏の画像ですが、BAAからの情報では12月18日からと伝えています。これまでの国内の観測ではBA全体が赤くなっていると考えられていましたが、これも今月の海外からの高分解能画像で詳細が分かってきました。拡大図に示すように、五角形をしたBAの暗い縁取りの内部にオレンジ色の楕円体があり、これがBAを形成する渦そのものだと考えられます。しかし、渦の中心部は白く見え、オレンジ色のリングと言えます。NASAはハッブル宇宙望遠鏡を4月8日、16/17日と木星に向けて、BAの現象解明に動くスケジュールを発表しました。

画像2 STB白斑'BA'の詳細

撮影/ Christopher Go氏(フィリピン、28cmSCT)


画像3 2006年3月6/9/10日の木星展開図
撮影/ R.Heffner(名古屋市、28cmSCT)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)、B.Turner(オーストラリア、25cm反射)(拡大)

土星:STB北縁の白斑
1月23日にSTB北縁に出現した白斑は、カッシーニ探査機では雷雲として観測されていましたが、3月に入ると活動が弱まってきました。3月2日には柚木健吉氏、瀧本郁夫氏、R.Vandebergh氏、B.Turner氏、D.Peach氏がIII=200°にとらえ、位置がやや北よりのSTrZに入り込んで、形が横長になっていました。さらに、3月15日にはPeach氏、Pellier氏は2個の白斑に分裂した姿をとらえました。その後はVandebergh氏が精力的に観測をしており、3月23日まで追跡していますが、かなりの強調処理を行わないと検出は難しくなりました。

3月にはSEBにも小白斑が観測されています。観測は、3月2日瀧本氏(III=250)、15日Peach氏(III=150)、18日Pellier(III=120)、21日柚木氏(III=105)、22日Peach氏(III=90)でした。2個の白斑が並んで見える様相から、これらの5個の観測は同じ白斑をとらえている可能性があり、1日のドリフトを-7.9°とすると直線上に乗ります。

画像4に、STB北縁とSEBZに出現した両方の白斑をとらえた、3月15日のD.Peach氏の画像を紹介します。1月からの一連の白斑の観測は、観測条件が少しでも悪いと検出することができないもので、国内の観測者には難物だったかもしれません。また、これらの淡い模様の検出は1フレームでは気が付きにくいもので、アニメーションGIFにして自転に伴っての移動を見やすくした報告が多くなっています。

画像4 土星の白斑

撮影/ D.Peach(イギリス、35cmSCT)、左下の画像はコントラスト強調したもの。

火星 (安達 誠)
3月になり、肉眼での観測は非常に困難になってきました。表面の模様を確認するには400倍は欲しいところです。しかし、今年は気流のよい日がほとんどなく、情報量の多い観測は、ほとんど海外からの報告になりました。

3月はダストスト−ムの発生はなく、穏やかな姿を見せています。注目される北極冠ですが、視直径が小さいため、極雲か北極冠かの判定は非常に難しい状況です。2月に見えていた可能性も否定できませんが、3月になって、大きさ・輝き共にそれらしい姿で見えるようになりました。

画像5 2006年3月の火星

撮影/ 熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)

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