天文ガイド 惑星の近況 2006年8月号 (No.77)
伊賀祐一
2006年5月の惑星観測です。今年は全国的に天候不順で、晴れ間にも良いシーイングにもなかなか恵まれません。5月5日に衝をむかえた木星は、45人から31日間で672観測(そのうち海外から25人で298観測)の報告がありました。視直径が4秒台となった火星は、7人から9日間で57観測(そのうち海外から1人で13観測)、8月8日に合をむかえる土星の観測は、10人から10日間で55観測(そのうち海外から3人で13観測)でした。
木星

@まだ活発なmid-SEB outbreak

mid-SEB outbreakの発生源はII=280°から270°までゆっくりと前進していますが、活動の前端部は大赤斑のすぐ後方に達し、150°の経度に渡って白斑が活発に出現しています。outbreakの発生から5ヶ月を経過し、最も広がった様子を見せています(画像1)。大赤斑後方の定常的な擾乱領域も、後方からのoutbreakの圧力で、ほとんど見えなくなりました。


画像1 大赤斑後方に達したmid-SEB outbreak(拡大)

さて、今月は大赤斑前方のSEB北部にも、小さな白斑と暗柱がびっしりと並ぶ様子が観測されました。mid-SEB outbreakの前端部の白斑が大赤斑直後に達したのが4月10日頃で、大赤斑前方のSEB北部に白斑が見られるようになったのが4月末です。大赤斑前方の白斑群の前進速度はmid-SEB outbreakのものと同じです。過去には見たことがないもので、どのようにしてできたのでしょうか。

(1)大赤斑後方擾乱領域が大赤斑前方に波及した、
(2)mid-SEB outbreakが大赤斑を超えて前方へ波及した、
(3)大赤斑孔(GRS Hollow)内部の白雲が大赤斑前方へ噴出した、
などの可能性が考えられますが、まだ良く分かっていません。

ASTB白斑"BA"が大赤斑に接近中

1月初めごろから、赤味が増しているSTB白斑"BA"は、"Red Spot Jr."というニックネームが付いて、注目されています。今月もオレンジ色のドーナツ状のコアは健在です。このBAが大赤斑に接近していて(画像2)、7月10日頃に真南を通過します。5月下旬にはすでにBAの黒い縁取りの形に変化が見られます。直接にBAと大赤斑が衝突することはありませんが、大赤斑の南を通過することで渦の勢力が弱まり、逆にBAの赤味が消えるかもしれません。

画像2 大赤斑に接近する赤いSTB白斑"BA"


ところでCCD画像では条件が悪くても赤く写るものの、眼視ではBAは赤く見えないようで、それだけコントラストが淡いのか、または眼視とCCDとの分光感度の差が出ているようです。

STBはBAから後方60度の経度でベルトとして見えていますが、その後方には60度の経度に渡って暗斑が連なっています。また、II=270°にはSTBの緯度に小さな暗斑がありますが、この暗斑は2002年に出現したもので、このタイプとしては比較的長命な暗斑です。

B大赤斑

大赤斑はII=112°に位置し、大赤斑の南半分は暗く縁取られています。全体はオレンジ色で、内部には大赤斑コアが見られます。大赤斑から前方のSTrZ(南熱帯)には、3月下旬から細いdark streakが30度ほど伸びており、II=80°には白斑があり、ゆっくりと後退しています。

CSSTB白斑

SSTBには全周で7個の小白斑が観測されていますが、BAAはこれらの白斑にA0からA6の名前を付けて追跡を行っています(画像3)。これらは高気圧性白斑ですが、A2-A3およびA4-A5の間には細長い白斑があります。これらは緯度もやや北に位置する低気圧性の循環気流の白斑です。同様の低気圧性白斑はA0の後方と、A5の後方でBAを通過した際に形成された白斑があります。

D黄濁したEZsと大きなfestoon

3月下旬頃から、SEBに隣接するEZs(赤道帯南組織)が黄色く濁ってきました。そのために条件が悪いと、SEBと一体となって幅広く見えたり、逆にSEBnが淡化している経度ではSEBが狭く見えたりします。

NEB南縁のEZnには、いつも青暗いfestoon(フェストーン)が見られますが、3月からfestoonが大きく成長しています。全周を約30度間隔で12本のfestoonが並び、大きな弧を描いて、EB(赤道紐)を形成しています。

ENEBとその北縁の白斑

NEB(北赤道縞)は比較的安定した幅の広いベルトです。NEB北縁には9個の白斑(ノッチ)がありますが、このうちのII=220°の白斑は'Z'と命名されている、1997年から継続している長寿命なものです。白斑'Z'は、この緯度の他の白斑よりも速く前進するために、ノッチやバージを追い越していきます。白斑'Z'が追い越すと、ノッチがいつの間にか消えていることが観測されていますが、その瞬間をとらえる機会はありませんでした。今回は、白斑'Z'の前方40度の範囲に2個のノッチがあり、もしかすると白斑がマージする現象が見られるかもしれません。


画像3 2006年4月5/7/8日の木星展開図(拡大)

土星:北極地方が青い
今シーズンの土星は、リングの傾きが小さくなり、土星本体の内側に見られます。カッシーニの空隙を通して、あるいはAリングを通して本体が見えることには気が付いていましたが、土星の北極地方が見えることを意識したのは最近でした。

柚木健吉氏(堺市)が各波長で撮影した画像で、B光とUV光では北極地方が異常に明るく写っていました(画像4上)。その後の土星探査機カッシーニがリング面から撮影したニュース(画像4下)によると、北極地方が青くなっているのは土星の季節変化であると紹介されていました。あまり大きな変化の起こらない土星ですが、南極地方は赤くなったりと、極地方はカラーの変化が見られるようです。

画像4 北極地方が青くなった土星

撮影/ 柚木健吉(堺市、20cm反射)、画像提供/NASA

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