天文ガイド 惑星の近況 2007年12月号 (No.93)
堀川邦昭、安達 誠

12月に接近を控えた火星は9月16日に西矩を過ぎ、いよいよ観測の好機に入ってきました。月惑星研究会への報告画像も火星が主役となっています。木星は日没後の西南天低くなり、観測シーズン終盤を迎えています。

火星

9月に入って視直径は8秒台となり、肉眼でもようやく模様が見やすくなってきました。Lsは300度台に入り、北半球は冬至と春分の中間に位置しているため、そろそろ北極冠が姿を現すころとなっています。観測の中心はなんと言ってもダストストームですが、北極冠がいつから見えてくるかも重要な観測テーマの一つとなります。

全休的に淡いダストストームのベールに覆われていた火星面ですが、次第にベールは薄くなり、下の表面模様が見えるようになってきました。月初はオリンピア山が赤黒いはっきりした点に見えていました。先月と変わらない姿で、まだまだダストストームの影響を大きく受けているようです。ダストストームは、9月には発生しませんでした。

火星面の中で最も目立つのはヘラスの明るさです。この時期ヘラスは白っぽく見え、明るく見えるのが常です。今回はダストストームの影響を受けて、どのような見え方になるか気をもみましたが、明るさは低いもののいつもと同じような見え方になっています。青画像で撮像すると白く写り、ヘラス盆地は霧か霜に覆われた姿を見せています。

ダストストームに覆われていた表面の模様も、月末にはベールの下に見えてきました。大きな違いの現れている部分は、マルガリティファー(23W、-10)付近とソリス(90W、-25)付近です。池村俊彦氏の作成した2005年の表面模様を基にしたシミュレーション画像と比較すると、違いがよく分かります。

(図1)のようにマルガリティファーは、8月に濃いダストストームに覆われた部分で、非常に淡くなっている様子が分かってきています。また、ソリスの東側のタウマシア(80W、-35)付近は非常に暗くなり、ソリスの形や位置がつかみにくくなりました。画像では何とか分離して記録できるますが、肉眼では気流悪いと分離して見えず、観測は困難を極めています。

[図1] ダストストーム後の火星とシミュレーション画像

右:2007年9月14日 18:57UT LS=314° CM=354.8° 撮像:池村俊彦(愛知県、38cm) 左はシミュレーション画像。

北極冠が見えてくるまでの北極は、濃い白雲(北極フードと呼ぶ)が地域全体を覆っているのが常です。9月の北極点は一日中夜になって日が当たりません。そのため気温はかなり低くなっています。また、フードができている部分は日が当たるものの、太陽の地平高度は非常に低く、気温の上昇はかなり難しい地域となります。

[図2] 明るくなった北極フード

2007年9月21日 19:38UT LS=318° CM=297.8° 撮像:池村俊彦(愛知県、38cm)

月初の北極フードの明るさは低かったのですが、月末には非常に明るくなってきた西の端は北極冠が見えてくる位置にあたっています(図2)。フードが、いつから見えてきたか、日にちの特定はできませんが、9月25日にイギリスのPeteLawrenceが興味深い画像を送ってきています(図3)。フードはドーナツ状に明るい部分が点々と並んでいます。この画像は北極冠の形成に重大な示唆を与えるものかもしれません。というのは、北極冠の形成過程は、まだ誰も見たことがないからです。

10月はいよいよ北極冠が見えてくると思われます。また、新たなダストストームの発生も期待されます。夜半前に観測ができるようになって、絶好の観測条件になってきました。たくさんの観測を期待します。

[図3] 北極フードの詳細

2007年9月25日 04:44UT LS=320° CM=42.4° 撮像:P.Lawrence(イギリス、25cm)

木星

SEB攪乱の活動は依然として続いており、SEBsには現在でも南分枝の暗斑群が多数観測されています。STrD-1も顕著で、前方のSTrZに薄暗い暗柱がいくつも見られるので、循環気流によるUターン運動が続いていると思われますが、観測条件が悪化して観測数が減ってしまい、個々の暗斑を追跡することはできなくなってしまいました。8月下旬から9月上旬にかけて起こったSTrZの変化は一段落しましたが、代わって前方のSTBが著しく太くなっています。これは本来のSTBではなく、循環気流の暗斑から供給された暗物質によりSTB北組織が北側へ厚みを増したもので、拡幅部分ではSTrZがかなり狭くなっています。拡幅部分は前方へと広がっていて、前端は大赤斑に迫りつつあります。

大赤斑に向かってSEBsを後退していた暗斑は、9月27日を最後に観測されなくなってしまいました。+3.8°/dayのスピードで後退していたので、10月4日頃には大赤斑前端に到達したはずですが、10月2日の柚木氏の画像では、9月27日とほぼ同じ体系II=96.7°に小さな突起が見られるのみです。暗斑は消失してしまったのでしょうか?そのため、大赤斑は現在でも体系II=123.5°で赤く顕著な状態を保ったままです。

[図4] 肥厚したSTBnとBA

2007年9月21日 09:04UT I=176.5°II=237.2°撮像:福井英人(静岡県、35cm)

BAは体系II=261.8°(23日、Carvalho氏)に位置しています。今シーズンは、赤みの強いドーナツ斑点の周りにRS Hollowを思わせるような白い縁取りが発達して、一時は長径(縁取りを含む)が12〜14°まで大きくなりました。しかし、最近は白い部分がなくなり、小さく丸くなっています。Carvalho氏の画像で測った長径はわずか7.5°しかありませんでした。シーズン初めのEZは薄暗く、特にEZsはまるでベルトのように暗くなっていました。その後は徐々に明るさを取り戻してきたようで、現在のEZsは長命な攪乱領域(SED)の周辺で青いフィラメント模様が目立っていますが、概ねゾーンとしての明るさを持っていますし、EZnでも目立つfestoonがやや少なくなっているようです。NEB北縁の長命な白斑WSZは、NTBsのoutbreakの影響によって灰色の雲の塊に変化し、一時不明瞭になっていましたが、outbreakが収まると共に再び明るい白斑に戻っています。ただし、以前のような前進運動は見られなくなり、体系II=50°付近で停滞しています。

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