天文ガイド 惑星の近況 2010年9月号 (No.126)
堀川邦昭、安達誠

木星は6月23日に西矩となり、夜半過ぎの東空に昇るようになりました。一方、 土星は20日に東矩となり、観測条件はどんどん厳しくなっています。火星は地球 から遠く離れてしまいました。2012年の接近まで、観測はしばらくお休みとなり ます。

ここでは6月後半から7月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※BAと小白斑の合体

合体が予想されていた、永続白斑BAと南温帯(STZ)の小白斑が、ついに合体しま した。STZの白斑は2004年末からBAの後方で観測されていて、小さく目立たない 存在ながら、その形や運動で話題となってきました。特に、2008年には白斑の周 囲に暗い取り巻きが発達し、まるで大きな目玉のような暗斑となって注目されま した。昨年からBAとの合体が噂されるようになりましたが、両者の間には、南温 帯縞(STB)の暗斑(BA後方に伸びていたSTBの一部が短縮したもの)が障害物となっ て、暗斑を挟んで左にBA、右に白斑という様相が続いていました。

[図1] BAと小白斑の合体
上) 合体前:BA後方に白斑が見える。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)
中央) 合体直後:赤いBAが白いリングで囲まれている。後方には白斑が出現。撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、35cm)
下) 合体後:BA後方にSTB remnantが濃化している。撮像:ファビオ・カルバロ氏(ブラジル、35cm)


今回の合体現象については、英国天文協会(BAA)のロジャース(John Rogers)氏が 詳細なレポートにまとめています。それによると、障害物となっていたSTBの暗 斑が5月に消失した後、小白斑は後方から追いついてきた、STBレムナント(STB remnant)と呼ばれる青みを帯びた低気圧性の領域に押されて急速に前進、6月17 日にBAに到達して、変形しながらBAの南縁に沿って回り始めました。合体は極め て素早く進んだようで、2日後の19日には、赤いBAを白いリングが縁取っている 様子が捉えられています。合体の過程について、ロジャース氏は2008年に観測さ れた大赤斑と小赤斑(LRS)合体と、よく似ていると述べています。

白斑が合体した19日、BA後方のSTB remnant中に白斑が出現して、今回の現象は 思わぬ方向に進んでいきます。この白斑は極めて明るく、メタンバンドでも顕著 で、対流性のプルームではないかと考えられています。白斑の後方には暗斑や白 斑がいくつも現れ、STB南縁(STBs)のジェットストリームに乗って後退するのが 観測されました。そのためこの現象は、白斑を発生源とする一種の攪乱現象と考 えられます。元は青いフィラメント領域だったSTB remnantは、この活動によっ て暗いベルトの断片へと変化しています。合体に伴ってこのような現象が観測さ れるのは、前代未聞です。

小白斑と合体した結果、BAは輪郭がやや不明瞭になる一方、前述の攪乱活動で濃 化したSTB remnantが後方に接するようになったため、相対的にBAのコントラス トが低くなって、見辛くなっています。

※その他の木星面

SEBは淡化状態が続き、SEB攪乱(SEB Disturbance)の兆候は今のところ見られま せん。青灰色のラインとして残っているSEB北組織(SEBn)も、月を追うごとに淡 くなっているようです。南組織(SEBs)は著しく淡化していますが、淡いオレンジ 色を帯びているので識別可能です。

大赤斑はオレンジ色、もしくは薄めのレンガ色で、濃度もしだいに増してきまし た。縁に沿って濃くなっているので、卵形の輪郭が明瞭です。経度はついにII= 150°に到達しました。II=100°を越えたのは2005年1月頃でしたので、わずか5 年半で50°も後退してしまったことになります。また、大赤斑北側の赤斑湾(RS bay)内部が、7月初めから白雲の活動によって明るくなっています。

[図2] 大赤斑前方の木星面
撮像:山崎明宏氏(東京都、28cm)


STBは前述のSTB remnantから変化したBA後方の暗部に加えて、II=350〜80°の範 囲でも暗斑が連なった暗部が見られます。また、北組織(STBn)に沿ってジェット ストリーム暗斑が多数存在しています。その南のSSTBは南半球で唯一の連続した ベルトで、高気圧性の白斑(AWO)が9個あります。

幅広い北赤道縞(NEB)では、広い範囲でリフト(rit)の活動が見られ、ベルトが二 条になっています。NEB北部(NEBn)では、II=105°付近に長命な白斑WSZがあり、 目だっています。NEB南縁(NEBs)から赤道帯(EZ)へ伸びるフェストゥーン (festoon)はほとんどありません。北温帯縞(NTB)は明瞭で、北北温帯縞(NNTB)も 概ね連続したベルトになってきましたが、II=250〜20°に範囲は乱れて混沌とし ています。

土星

梅雨時に加え、観測条件が厳しくなったこともあり、当観測期間における土星の 報告はわずかでした。南熱帯(STrZ)の白雲活動が気になりますが、24日のウェズ レー氏(Anthony Wesley)の画像で確認できました。STrZがIII=35〜70°の範囲で 明るくなっており、活動域は依然として東西に伸びた明部となっているようです。 この活動がいつまで続くか追跡したいところですが、観測条件はさらに悪くなる ことが予想されます。

[図3] 土星の白斑
撮像:アンソニー・ウェズレー氏 (オーストラリア、33cm)


火星

火星の観測シーズンも事実上、終了に近づきました。今年の梅雨は晴れ間がほと んどなく、海外からの報告もほとんどで、さびしい状態でした。火星面では目立 った変化は見られず、穏やかな様子が続いています。

この1年間、精力的に観測されていた方々から、火星図が報告されています。図4 は、熊森氏(大阪府)が作成したものです。今シーズンは、いつ見ても雲が火星面 に見られる状態が続き、報告された展開図にも雲がたくさん入っていました。

暗色模様では、北極付近は見やすかったものの、反対側の南極方向は地球からは 見えない位置にあり、展開図は南極方面が欠けたものになっています。また、北 半球の北極を取り巻くバンドが著しかったことと、前シーズンに淡くなっていた パンドラエ・フレータムやシヌス・マルガリティファーが復活したことが目立ち ました。

[図4] 火星面の展開図
撮像・作成:熊森輝明氏(大阪府、20cm)


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