天文ガイド 惑星の近況 2011年2月号 (No.131)
堀川邦昭

秋も深まり、惑星観測には厳しい時期となっていますが、木星では南赤道縞攪乱 が発生して、縞模様が復活しつつありますし、土星では顕著な白斑が出現するな ど、惑星面では注目すべき現象が相次いでいます。

ここでは11月後半から12月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※南赤道縞攪乱の発達

11月9日に発生した南赤道縞攪乱(SEB攪乱)は、順調に発達しており、淡化してい たSEBが部分的に濃化復活しつつあります。

II=290°の発生源では、白斑や暗柱が次々に現れては前方北側に移動しながら、 斜めに傾いた暗部となり、12月中旬には長さ約50°の乱れた領域に成長していま す。これが中央分枝と呼ばれる、攪乱主要部の活動です。最初に出現した白斑と 暗柱は、拡散した大きな明部と大きく傾いた暗柱として、11月下旬まで追跡され ましたが、現在では崩壊してしまったようです。中央分枝内部は混沌としており、 メタンブライトな白斑が多く、特に中央分枝の前端部と攪乱発生源である後端付 近で頻繁に見られます。最初、中央分枝は一様に青灰色でしたが、最近はSEB本 来の茶褐色をした領域が出現しつつあります。

今回のSEB攪乱は、SEB南組織(SEBs)を後方に伝播する南分枝が活動的です。発生 源の南では次々に暗班が出現し、SEBsを1日当たり+3.5°というスピードで経度 増加方向に移動していて、12月12日には先端がII=50°付近まで達しています。 南分枝の暗班は形も間隔も不揃いで、12月には数個の暗班が合体し、2ヵ所で大 きな暗塊が出現しています。丸い暗班が規則正しく整然と後退していた2007年の SEB攪乱とは、大きな違いです。南分枝の暗班群が大赤斑(GRS)に到達すると、大 赤斑は変形しながら淡化することが知られています。先端の暗班は1月上旬に大 赤斑に到達すると予想されますので注目です。

[図1] SEB攪乱の3つの分枝活動
矢印は3つの分枝の先端を示す(上向き:中央分枝、右向き:南分枝、左向き:北分枝)。29日、6日、8日の黒点は衛星の影。
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)


SEB北組織(SEBn)を前方へ伝わる北分枝の活動は、攪乱発生から20日近く、まっ たく観測されませんでした。しかし、11月末に中央分枝前端部北側のSEBnが突然 濃化し、ようやく北分枝の活動が始まりました。このように、攪乱発生後しばら く経過してから活動が始まるのは、過去のSEB攪乱でも何度か観測されている北 分枝の特徴です。北分枝はその後、急速に経度減少方向に伸張し、12月10日頃に は大赤斑の北側を通過して、さらに前方へ進んでいます。この間の前進速度は極 めて速く、体系1のスピードに匹敵します。暗班が並ぶ南分枝とは異なり、北分 枝はSEBnが単調に濃化するだけで、暗班などの模様はほとんど見られません。

[図2] SEB攪乱の発達
BAの前方で2つのAWOが接近している。NEBの白斑はWSZ。右端に大赤斑が見える。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)


SEB攪乱は今後も活動を続け、SEBの濃化部がしだいに広がって行くと予想されま すが、現在の活動領域とは別の経度で、新たに白斑や暗柱が出現し、別の攪乱領 域(第2攪乱)が形成される可能性があります。第2攪乱は、最初の攪乱から1〜2ヵ 月の間に発生しますので、しばらくは注意が必要です。

※その他の木星面の状況

木星面の他の領域では、大きな変化は見られません。大赤斑後方では、南温帯縞 北組織(STBn)を前進するジェットストリーム暗班が再び活発になり、11月下旬以 降、次々に大赤斑に押し寄せています。暗班は大赤斑南縁を通って前方へ進みま すが、大部分は崩壊してしまうようです。大赤斑前方南側に赤みの強い領域が出 現したのは、これが原因と思われます。大赤斑自身は、相変わらず赤みが強いも のの、輪郭が少し不明瞭になりました。上記の暗班群の影響かもしれません。経 度は、12月10日でII=161.3°と、後退を続けています。

北赤道縞(NEB)の北部では、2つの白斑が目立っています。ひとつはII=80°にあ る長命な白斑WSZで、もうひとつは8月に合体して注目された白斑で、II=255°に 位置します。ベルトの中央よりには、バージ(barge)と呼ばれる赤茶色の暗班が 見られますが、最近は少し数が減って、目立つものは4個だけとなっています。

土星

12月8日、土星の体系III=249°、北緯39°の北熱帯(NTrZ)に白斑が出現しました。 この日は小さく丸い輝斑でしたが、13日のクリストファー・ゴー氏(Christopher Go)の画像で見ると、NTrZの幅いっぱいに広がって、白斑の南部から前方に向か って白い条が30°ほど流れています。この白斑は極めて明るく眼視でも明瞭で、 同日、阿久津氏は「これまで見たことがないほど、明るく輝いている」とコメン トしています。白斑はかなり速いスピードで経度増加方向に移動しており、14日 の経度はIII=264°と、わずか6日間で15°(1日当たり+2.5°)も後退しています。

近年の土星面では、頻繁に白斑が観測されていますが、今回の白斑は、北半球を 地球から観測できるようになってから、初めての顕著な模様として注目されます。

昨シーズンは拡散して不明瞭だった北赤道縞(NEB)は、相変わらず幅広いながら、 北縁を認めることができるようになっています。北半分が昨シーズンと同しく、 緑がかっているのに対して、南半分はわずかに赤みを帯びています。前述の白斑 とあわせて、土星の季節が進んで、北半球の大気が活動的になっていることを示 しているのかもしれません。南赤道縞(SEB)は環の陰に隠れてしまい、南縁がわ ずかに見えられるだけです。

環が開いて、高解像度の画像では、カシニの空隙がほぼ全周で見られます。また、 B環の内側にはC環も確認できるようになりました。

[図3] 土星の北半球に出現した白斑
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)


前号へ INDEXへ 次号へ