天文ガイド 惑星の近況 2013年2月号 (No.155)
堀川邦昭
冬本番となりました。強い季節風が吹く日は、ピントさえ結ばないことも多く、 惑星観測には辛い季節となっています。木星は12月3日にヒヤデス星団のすぐそ ばで衝を迎えました。南中時は天頂近くまで昇りますので、悪気流の影響は比較 的小さいはずですが、地平線に近い明け方の土星は厳しいものがあります。

ここでは11月後半から12月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

10月末にWSCと合体した北赤道縞(NEB)北縁の白斑WSAは、続いてWSBと衝突合体し、 11月17日にはひとつの白斑となりました。当初、この合体白斑は北熱帯(NTrZ)に 大きく広がって、後方にある長命なWSZの倍ほどもある大きな白斑でしたが、そ の後しだいに凝集し、11月末にはWSZと同じくらいのサイズと明るさになってい ます。同じ緯度にありながら前進速度の異なる3つの白斑が衝突したのですが、 面白いことに合体白斑WSA+WSB+WSCは、WSAの前進速度を継承しており、1日当た り-1°の割合で前進を続けています(図2)。WSZもほぼ同じスピードで前進してい るため、期待されたさらなる衝突現象は、しばらくおあずけとなっています。

[図2] NEB北縁の白斑のドリフトチャート
WSA、WSB、WSCが合体した白斑は、WSAの動きを引き継いでいる。後方のWSZも同じようなスピードで前進している。

シーズン初めの6月〜7月にピークを迎えた北半球の大変動によって、NEBは大き く拡幅したのですが、11月以降、北縁が不明瞭な区間が見られるようになってい ます。特に上記の合体白斑から大赤斑(GRS)があるII=180°までの範囲では、ベ ルトの北半分にかなり濃淡があり、北縁が淡く不明瞭になっています。ベルトの 太さが周期的に変化するNEBの活動サイクルは、周期が4〜5年の長さなのですが、 今回は早くも北縁が後退してベルトが細くなる時期に入ったようです。

[図1] 大赤斑と永続白斑BA
どちらも赤みが強く顕著。BAはリング構造が明瞭。NEB北縁は淡化が始まり、不規則な濃淡が見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

大赤斑はII=187°にあり、ゆっくりと後退を続けています。オレンジ色が鮮やか で、輪郭もはっきりしており、大変よく目立ちます(図1)。9月末と10月末に一時 的ではあるものの、長径が約13°まで小さくなりましたが、現在は概ね14〜15° と安定しているようです。しかし、2000年代に比べるとひと回り小さくなった感 じは否めません。永続白斑BAと後続の模様は大赤斑から離れ、現在は南温帯縞 (STB)の濃化部(dark section)の先端が南側を通過し始めています。BAは大変顕 著で、大赤斑よりも赤みが強く感じられます。中心が明るいリング状をしていま すが、シーイングがよければ眼視でもリングになっているのがわかります。

[図3] 12月13日の木星面
SEB南縁に細かい凹凸が増えた。NEBはII=50〜200°で北縁が淡化を始めている。撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、筆者改編

図3は永長氏による全面展開図です。8時間の間に撮像した9枚の画像から作成し たもので、大変な労作です。木星は自転が速いので、夜の長い冬場はシーイング に恵まれない代わりに、このような離れ業が可能になります。展開図では、南赤 道縞(SEB)南縁には暗斑や突起模様(projection)が多くなって来たのが目につき ます。目立つ暗斑について調べたところ、+2°/dayで後退していることがわかり ました。SEB南縁には-50m/s(+4°/day相当)という強いジェットストリームが流 れています。暗斑は完全ではないものの、ジェットストリームの影響を強く受け ているようです。今後、ジェットストリームがさらに活動的になると、SEBが長 期間に渡って安定なベルトになり、mid-SEB outbreakなどの現象が再発すること も考えられますので、注意が必要です。

土星

合からひと月半ほど経過し、明け方の東南天に昇るようになりましたが、高度が 低いため、気流の影響を大きく受けてしまいます。国内では数名の観測者が観測 に成功していますが、土星面の詳細を捉えるには至っていません。図4は観測拠 点をフィリピンのセブ島に置く阿久津氏の画像ですが、土星面のひと通りの状況 を確認することができ、地の利を感じさせられます。

画像では、環が大きく開いて、カシニの空隙が土星面の手前でも潰れずに、ぐる りと取り巻いているのが目につきます。まだ環の向こう側に南極地方が青っぽく 見えていますが、環の傾きは今後もどんどん大きくなりますので、いずれほとん ど見えなくなってしまうでしょう。

土星本体では、北熱帯(NTrZ)が緑色のベルトとして見えており、2年前に始まっ た白雲活動の影響がまだ強く残っていることがわかります。北赤道縞(NEB)とは かなり色調が異なっているため、昨シーズンに比べると分離が容易になったよう に感じられます。北半球で唯一明るい北温帯(MTZ)とNTrZと同化して分離できな い北温帯縞(NTB)との境界は、不規則に波打っており、III=200°前後には白斑と 暗斑がひとつずつ見られます。

[図4] 環が大きく開いた土星
NTrZ周辺にはまだ濃淡があり、白雲活動の影響が続いていることがわかる。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

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