天文ガイド 惑星の近況 2013年4月号 (No.157)
堀川邦昭
ヒヤデス星団のすぐそばにある木星は、1月30日に留となりました。西に傾くの が早くなり、観測に適した時間帯は宵のうちに移っています。土星は1月26日に 西矩となり、木星に代わって夜半過ぎの空に昇ってきますが、条件はまだまだ厳 しく、観測数は多くありません。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星


★白斑の衝突現象

昨年の10月末〜11月前半に白斑の多重衝突が観測された北赤道縞(NEB)北縁で、 再び白斑同士の衝突現象が始まっています。今回の衝突は、昨年の多重衝突の結 果、3つの白斑が合体したWSA+と、1997年に形成されて以来、この緯度帯を代表 する模様となっているWSZによるものです。WSA+は北半球の大変動後に形成され た若い白斑で、多重衝突を経てこの緯度で最も明るく大きな白斑に急成長しまし た。一方、WSZは16年存続する間に、多くの白斑と衝突合体を繰り返して成長し た、この緯度帯の主とも言える存在です。両者の衝突・合体は、今シーズン最も 注目に値する現象です。

[図2] WSA+とWSZの衝突・合体
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、アラン・コッフェルト氏(米国、28cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)、米山誠一氏(神奈川県、25cm)、パスカル・ルメール氏(フランス、28cm)

WSZの前進速度は過去最高(-1.5°/日)を記録していたため、WSA+にすぐに追いつ くと予想されましたが、WSA+も-1.0°/日で前進したため、当初はなかなか接近 しませんでした。しかし、今年に入ってWSA+が-0.7°に減速したため、1月末に はWSZがWSA+のすぐ後ろに追いついてしまいました。2月4日になると、WSZが少し 北へシフトしているのが捉えられました。北半球の高気圧的渦である白斑は、衝 突の際、互いに時計回りに回りながら合体します。北へのシフトは白斑が合体す る兆候です。11月にWSAとWSBが合体した時は、WSAの緯度が変化し始めてから数 日で合体したのですが、今回は予想に反して、両者の位置関係はその後一週間近 く変化が見られませんでした。前回より白斑の相対速度が近かったためかもしれ ません。

その後、10日になってようやくWSZがWSA+の北へ回り込み始め、衝突・合体が始 まりました。14日の小澤徳仁郎氏(東京都)の画像で見ると、WSA+とWSZの位置が 逆転しており、互いに回りあっているのがわかります。翌日の15日になると、2 つの白斑を識別できなくなっていて、合体の最中と思われます。

[図3] 合体白斑のドリフトチャート
月惑星研究会の画像から筆者測定

★その他の状況

当観測期間の木星面は、全体としては大きな変化は見られませんでした。NEBは、 白斑の合体が起こっているII=20°から後方で、木星面の半周以上に渡ってベル ト北部の淡化が進んでいます。通常、拡幅したNEBは1年程度太い状態にあります ので、今回はだいぶ早く細くなり始めたようです。2011年のように異常に細くな る可能性もあると思われます。

[図1] 永続白斑BAに迫るSTB
NEBでは北縁の淡化が進んでいる。撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)

大赤斑(GRS)の南を南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。9月に大赤斑を通過した 永続白斑BAより前進速度が速いため、急速に追いついて、後方30°に迫っていま す。いずれBAに連結すると思われますが、その前にBA後方にある小暗斑や青みの ある白斑との衝突が起こるはずです。青い白斑は、2010年にSTB暗部と衝突した 際、攪乱活動を起こしたフィラメント領域(FFR)の一種と思われますので、注意 が必要です。

I=80°付近の赤道帯南部(EZs)に軽い乱れが見られます。これは、SED(South Equatorial Disturbance)と呼ばれる、南赤道縞北組織(SEBn)を分断するリフト と、EZsの青黒い暗部や白斑などの模様から成る領域です。普段は目立たないの ですが、時々急激に発達することがあります。

昨年の大変動で濃化復活した北温帯縞(NTB)とは対照的に、北側の北北温帯縞 (NNTB)は淡化消失した状態が続いています。2月にII=300°前後のNTB北側で小暗 斑が一列に並んでいるのが捉えられています。これらはNNTB南縁のジェットスト リーム暗斑で、1日に-3°前後で前進しています。これをきっかけにNNTBが復活 するかもしれません。

土星

土星の環の傾きは+21.3°に達し、今シーズンの極大となりました。土星本体の 大部分が環に囲まれ、南極地方は環の縁からわずかに見えるだけです。

白雲活動の影響が残る北熱帯(NTrZ)から北温帯縞(NTB)は、相変わらず緑色のベ ルトとして見えていますが、内部の濃淡や縁の乱れは見られなくなり、静かにな ったという印象を受けます。クリーム色の明るい赤道帯(EZ)と赤みのある北赤道 縞(SEB)は、特に変化ありませんが、最近は北北温帯縞(NNTB)の赤みが目立つよ うになりました。また、その北側は以前よりも少し明るくなったようで、北極部 分の暗さが非常に際立っています。

これから春に向かってシーイングが改善すると共に、観測の好機に入りますので、 土星面の詳しい状況もわかるようになると期待されます。

[図4] 最近の土星面
撮像:トレバー・バリー氏(オーストラリア、40cm)

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