天文ガイド 惑星の近況 2013年6月号 (No.159)
堀川邦昭

木星は夕暮れの西天で輝いています。太陽との合は6月ですので、観測できるの はあとひと月余りでしょうか。代わって、土星が4月末の衝を控えて、観測の好 機となっています。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

3月末、南温帯縞(STB)の暗部が、ついに永続白斑BAに追いつきました。赤いBAの 後方には、STBが尻尾のように長く伸び、ここ10年来、お馴染みの姿が復活して います(図1)。その後端は大赤斑(GRS)付近まで達していて、長さは70°に及びま す。BAのすぐ後ろにあった小暗斑は消失し、白斑になってしまいました。逆に青 白い白斑はSTBと同化して、コブのように見えており、その後方にはもうひとつ コブができています。BA本体は赤みが強く、特に影響は見られませんが、今後BA の前進速度が増すことが予想されます。加速の幅は0.1°/dayとわずかですが、 過去3回の衝突では必ず起こっています。現在のSTBの暗部は長く立派ですが、い ずれは前方へSTBnのジェットストリーム暗斑を、後方へはSTB南組織(STBs)を伝 わる暗斑群を放出しながら徐々に崩壊して行くことでしょう。そして、現在II= 330°にある薄暗い小さな暗部(図2中央)がいずれベルト化して、次の世代のSTB に成長するはずです。

[図1] BAと一体になったSTBの暗部
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

南赤道縞(SEB)は南縁が暗斑群で凸凹しているのが目につきます。一見、SEB南縁 (SEBs)を高速で後退するジェットストリーム暗斑のようですが、動きを精査する と後退速度は小さく、ほとんど動いていない暗斑もあります。昨年末からSEBsを 後退して大赤斑に衝突する暗斑が目につくようになりましたが、思ったほどジェ ットストリームは活動的ではないようです。そのせいか、大赤斑後方のSEBの活 動域(post-GRS disturbance)も激しい活動は見られません。

大赤斑は相変わらず赤みが強く、明瞭な楕円暗斑として見られます。2月以降、 SEBsの暗斑が次々と衝突して大赤斑に取り込まれたのですが、ほとんど影響ない のは意外な感じがします。経度はII=194°でゆっくりと後退を続けています。 II=200°を超えるのは時間の問題と思われます。長径は3月以降、14°台で安定 していて、小さめですが以前よりは少し持ち直しています。大赤斑は、近年著し く縮小が進んで注目されていますが、SEBsの暗斑群との会合がしばしば見られた 2000年代前半は17°台で、ほとんど変化しませんでした。現在の大赤斑は、当時 と似たような状況にあるのかもしれません。

[図3] 大赤斑付近
撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、30cm)

北赤道縞(NEB)北縁の淡化は、II=150〜200°で顕著ですが、その他の経度ではあ まり進んでいません。しかし、NEBの北部は全周で濃淡が目立ち変化に富んでい ます。2月にWSA+と衝突・合体して注目された北縁の白斑WSZは、II=330°に位置 しており、長径が11〜12°もある大きな白斑で輪郭も明瞭です(図2)。16年に及 ぶWSZの歴史の中で最大の規模に成長しています。昨年の秋頃と比べるとやや減 速しましたが、それでも-0.7°/dayという、この緯度としては異例のスピードで 前進しています。NEBの北部ではバージ(barge)と呼ばれる小暗斑が増えています が、大きさも緯度もバラバラで変化が激しく、大きく安定なものはII=220°に見 られる横長のバージくらいです。バージや小白斑は、NEB北縁の後退期に特徴的 な模様なので、今後も数が増えると思われます。

[図2] 大きく顕著になったWSZ
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

北北温帯縞(NNTB)の南縁で2月以降観測されている、ジェットストリームに乗っ て前進する暗斑群は、木星面の半周以上に広がっています(図2と図3)。これまで に8〜9個が同定され、-2.6°/dayで前進を続けています。これによってNNTBが徐 々に濃化を始めているようです。今シーズンの北温帯縞(NTB)北縁は、のこぎり 状の突起模様に覆われていましたが、暗斑群の出現以降、ギザギザが消失しつつ あります。

土星

春先、不安定だった気流も4月に入ると改善し、シーイングの良い日が徐々に増 えてきました。苦戦続きだった国内の画像も、かなり質が向上しています。

土星の北熱帯(NTrZ)は現在も大変暗く、北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)までが 幅広い一本のベルトとして見えています。NEBの南半分は赤みがありますが、NEB の北部からNTBまでは緑灰色をしています。阿久津氏やGo氏らの高解像度の画像 では、緑灰色の領域の北部に不規則な淡い明部をいくつも認めることができます。 また、この領域と北側の北温帯(NTZ)との境界にも小さな白斑が多数存在し、NTB 北縁がギザギザしているのがわかります。大規模な白雲活動が収まってからすで に1年以上経過していますが、まだ名残の活動が続いているようです。

[図4] 現在も続く北熱帯の活動
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

北北温帯縞(NNTB)の赤みは、まだどの画像でもはっきりと見ることができます。 その北側は濃度の異なる暗緑色の領域となっていますが、ベルトなのかゾーンな のか判然としません。以前、カッシーニ探査機が土星の極地方に六角形のパター ンを発見して話題になりましたが、最近の画像を見ると、北極を取り巻く濃緑色 の領域の輪郭が六角形をしており、特にバリー氏(Trevor Barry)の極展開図を見 ると一目瞭然です。

毎年この時期の恒例となっていますが、衝の前後に環がひときわ明るくなる、ハ イリゲンシャイン現象(衝効果)が今年も観測されています。どの画像も4月10日 を過ぎる頃から、B環が著しく明るく写っています。今年は環が大きく開いたた め、一段と鮮やかに見られます。

[図5] 土星の北極地方の六角形パターン
撮像した画像を北極方向から見た展開図にしたもの。中央の暗い領域の輪郭が六角形になっている。撮像・作成:トレバー・バリー氏(オーストラリア、40cm)

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