天文ガイド 惑星の近況 2014年2月号 (No.167)
堀川邦昭、安達誠

木星は新年早々の1月5日の衝を控えて、観測の好機を迎えています。シーイングには恵ま れない時期ですが、南中時には天頂近くに達しますので、気流の影響は最小限ですみます。 火星はおとめ座を順行中で、明け方の東天に見られます。土星も太陽との合を過ぎ、明け 方の南東天に姿を現しました。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星


[WSZの赤化]

北熱帯(NTrZ)の長命な白斑WSZが、最近赤みを帯びてきたと、フィリピンのゴー氏 (Christpher Go)が指摘しています。今シーズンのWSZはメタンバンドの画像では大きく明 るいものの、可視光では灰色のしみのようで、白斑として見えない状態が続いていました。 11月後半以降に報告された画像を調べると、確かにいくつかの画像で、灰色のしみがわず かながら赤みを帯びているのがわかります。図1は10月中旬と12月初めの青画像と赤外画 像を比較したものです。10月は青画像でも赤外画像でも同程度に明るく見えていますが、 12月の画像では青画像がやや薄暗くなっていて、WSZが赤みを帯びていることが明らかで す。WSZは大赤斑や永続白斑BAと同じ高気圧的な渦で、1997年に誕生して以来、他の白斑 との合体を繰り返して大きく成長してきました。そのため、昨年5月号で他の大型の高気 圧的渦と同じように赤くなるのではないかという予想をしたのですが、早くも現実になっ たようです。ただし、BAの例のように、眼視でも赤みが明瞭になるまでにはかなり紆余曲 折があると思われますので、長い目で変化を追いかけたいものです。

[図1] WSZの赤化
10月と12月の青画像と赤外画像でWSZ(▲)を比較した。12月のWSZは青画像で薄暗く、赤外画像で明るく見えるので、赤みがあることがわかる。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

[その他の状況]

南赤道縞(SEB)のナゾの明部と大赤斑の会合は、あまり進展が見られません。SEBから赤斑 孔(RS Hollow)への開口部は完全に閉じてしまいましたが、明部本体が少しずつ痩せて来 たようで、大赤斑後方のSEB活動域(post-GRS disturbance)の白雲が再び大赤斑前方に通 って見えるようになっています。

大赤斑は相変わらずオレンジ色が鮮やかですが、周囲を薄暗い模様で取り囲まれつつある 印象です。南部のアーチはやや弱まってブリッジ状に変化していますが、前方のSTrZにス トリーク(dark streak)が伸びて薄暗くなっています。大赤斑の南側では、南温帯縞(STB) の薄青い暗部が通過中ですが、特に異常はありません。そのさらに南には、南南温帯縞 (SSTB)の小白斑(AWO)4個が進んで来ています。これら4個のクラスターは、昨シーズン大 赤斑通過後に急接近して合体が警戒されたのですが、再び大赤斑通過に合わせて、中央の 2個(A0とA1)の間隔が狭まっています。

[図2] 12月の大赤斑周辺
今シーズンの主要の現象は大赤斑周辺に集中している。顕著な大赤斑と周囲の暗化、SEBの明部、赤化したWSZ、SSTBのAWOの接近などが見られる。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

大赤斑前方のSEB南縁には灰色のストリークが形成されて、ベルトが幅広く見えています。 ストリークの内部にはジェットストリームに乗って後退する暗斑が多数含まれていて、大 赤斑周囲の暗部形成に深く関わっていると思われます。ベルトの北部は青灰色で、米粒の ような小白斑が無数に見られます。このような見え方は、近年SEBが濃く活動的な時期の 典型的なパターンとなっています。

赤道帯(EZ)は、昨年前半に観測された北半球の大変動の影響が残っているらしく、北赤道 縞(NEB)南縁に沿って青黒い暗部が各所にあり、そこからEZに向かって明瞭なフェストゥ ーン(festoon)が多数伸びています。このため、EZ北部はやや薄暗く感じられます。NEBは 全周で細くなり、部分的にかなり細くなっている経度もありますので、2009〜2010年のよ うな異常に細いNEBが再現する可能性もあるのですが、当時と異なり、EZが活動的である こと、NEB内部に小規模ながらリフト活動がいくつも見られることから、筆者は否定的な 見方に傾いています。

火星

火星は視直径が5秒を越え、眼視でも大きくなってきたことを実感できるようになって来 ました。報告されてくる画像は、処理に無理のないものが次第に増え、安心して考えるこ とができるようになりました。Lsは60°近くになり、北半球の夏至に近づいています。

[図3] 低緯度特有の氷晶雲
中央左の東西に伸びる白帯が氷晶雲。クリセからクサンテは毎シーズン顕著に見られる。青画像。撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)

北極冠は少しずつ縮小し、エリシウム、オリンピア山などの山岳部には白雲の見える季節 になっています。また、低緯度地方を中心とする氷晶雲の帯もクサンテ(52W, +13)のあた りなどで、いつもの姿が見えるようになりました(図3)。

暗色模様は、安定した画像をまだ全面に渡って見ることができていませんが、今のところ 大きな変化は見られません。図4の観測地域は、前回リング状の明るい模様が記録された 地域です。あの模様の正体は、暗斑の周りが画像処理によってリング状になったものらし いと判明しました。強度の画像処理は禁物だということの例かと思われます。また、北極 冠の中にはリング状の暗部ができますが、この画像ではその様子が捉えられています。図 4の画像からは、午前半球の北極冠の縁に、霧の出ている様子が記録されています(北極冠 のエッジが不明瞭になっている)。

北極冠の縮小時期は、北極冠から冷気の噴き出しや、北極地域を通過する砂嵐の発生など、 目が離せません。観測画像は、こういった北極付近に焦点を当てた観測が望まれます。

[図4] 大シルチスからボレオシルチス付近
北極冠の内部の様子が良くわかる。撮像:レオ・アーツ氏(ベルギー、35cm)

土星

今シーズンの最初の観測が、フィリピンの阿久津富夫氏から報告されました。画像では、 環が大きく開いて土星本体を包み込むような見え方になっています。北極の六角形パター ンは判別できませんが、北極周辺は先シーズン末と変わっていないので、六角形もまだ残 っていると思われます。

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