天文ガイド 惑星の近況 2015年3月号 (No.180)
堀川邦昭

木星は、2月初めの衝に向けてしし座の東端付近を逆行中です。観測の好機となっていま すが、真冬のシーイングの悪さに苦しめられてばかりです。それでも、高度が高くなる南 中前は少し気流が落ち着くこともあるので、逃さないようにしたいものです。他の惑星は 太陽近くに、観測はお休みとなっています。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

先月号で取り上げた赤斑湾(RS bay)後端部に形成された循環気流(Circulating Current) は、当観測期間も活動を続けていますが、12月後半に一時的な衰えが見られました。大き なカギ爪模様が、20日頃から徐々にやせて小さくなり、濃度も落ちて目立たなくなってし まいました。最も衰えたのは29日で、大赤斑南縁のアーチがほぼ消失し、前方に伸びるス トリーク(dark streak)も大赤斑の直前で途切れそうでした。12月半ばから、大赤斑北側 の南赤道縞(SEB)が淡くなり、赤斑湾が途切れているように見えることもあったので、SEB 南縁(SEBs)を流れる後退ジェットストリームからの暗物質の供給が弱まったのかもしれま せん。しかし、新年に入ると、赤斑湾後端のカギ爪模様が復活し、アーチやストリークも 再び明瞭になっています。全盛期ほどの厚みはありませんが、濃度もかなりありますので、 一時的な変化だったと思われます。

[図1] 循環気流とストリークの変化
循環気流が一時的に弱まり、前方のストリークに波及する様子がわかる。撮像:阿久津富夫氏(栃木県、35cm)、フラビオ・フォルトゥナート氏(ブラジル、25cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、アラン・コッフェルト氏(米国、28cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、岩政隆一氏(神奈川県、35cm)、ミシェル・ジャクソン氏(フランス、20cm)、堀内直氏(京都府、30cm)

循環気流の衰退に合わせるように、大赤斑後方のSEBでは白雲の活動領域(post-GRS disturbance)が活発になりました。今シーズンはほとんど活動が見られず、1〜2個の白斑 があるだけでしたが、12月半ば以降は、乱れた白雲が約50°に渡って広がっています。以 前、不活発の原因は循環気流によるSEB南縁のジェットストリームの異常によるのではな いかと書きましたが、今回の循環気流の一時的な衰退とpost-GRS disturbanceの活発化は、 それによく符合していると言えます。

大赤斑前方ではストリークが太く明瞭になっています。ストリークはII=170°にある永続 白斑BA付近で最も太く、先端はII=140°付近まで伸びています。ストリークの北側の南熱 帯(STrZ)はかなり薄暗く、南側はBA後方に伸びる南温帯縞(STB)の暗部があるため、かな り込み入った領域になっています。BAの前方では、STB北組織(STBn)とストリークが並ん で伸び、II=0°にあるSTB Ghostと呼ばれる青いフィラメント領域付近で一体になってい るようです。両者は色調が異なっていて、南のSTBnは青黒く、北のストリークは茶色に見 えます。

SEBはベルトの北部が広範囲に明るくなっています。大赤斑前方のSEBの明部は、まだII= 140〜170°に見られますが、徐々に目立たなくなってきました。一方、明部の前後のSEB 南部が少しずつ明るくなっているように思われます。前述のpost-GRS disturbanceの活発 化の影響で、II=300°前後のSEB南縁には暗斑が並んで凸凹していますが、その他の領域 は意外なほど静かです。

南南温帯縞(SSTB)では、BAからRSの南を5個(A7a/A8/A0/A1/A2)の高気圧的白斑(AWO)が通 過中です。A7aとA8の間にあった大きな低気圧的白斑(CWO)は、BAを通過した際に衰えて目 立たなくなっています。II=300°にあるA4とII=70°にあるA6の間では、SSTBが大きく二 条に分離しています。A5は淡化したベルトの中に埋もれていますが、白斑が大きい上に暗 い縁取りがあるため、とても良く目立ちます。A6とA7は、AWOの中では小さくマイナーな 存在でしたが、最近はII=100°のA7が大きく明るく見えるようになり、それと反対にA6は さらに小さく不明瞭になっています。

[図2] ガリレオ衛星の多重経過
今シーズンはDeがゼロに近いため、衛星が頻繁にEZを横切ります。左) イオとガニメデの影、そのすぐ右下にイオの本体が経過中。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)。右) 木星面の左側にイオの本体と影、右側にエウロパの本体と影が経過中。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

北赤道縞(NEB)は、II=350〜80°でベルト北縁が北に大きく膨らんで幅広くなっています。 この中のII=20°には長命な白斑WSZがあり、ベルト北縁に大きな凹みを作っています。 WSZのドリフトは、2012年の北半球の大変動の際に急激に加速して1日当たり-1°に達しま したが、徐々に減速して今シーズンは-0.25°/日とこの緯度の通常の値に戻ってしまいま した。ベルト北縁はII=300°前後でも乱れて凹凸が多く見られます。また、ベルト内部に は活動的なリフト領域がいくつか存在しています。

北温帯(NTZ)はII=190°付近にある顕著なバージ(barge)の後方で暗化し、木星面の4分の3 周で北温帯縞北組織(NTBn)から北北温帯縞(NNTB)が一本のベルトのようになっていました が、12月はバージからII=300°付近までのNTZが明化して、NTBnとNNTBが分離できるよう になりました。そのため、NTZの暗化領域は約150°に短縮しています。なお、この暗化領 域と前述のバージは、+0.5°/日で後退しています。

[図3] WSZのドリフトチャート
2012年以降のWSZの動き。木星面を2周近く回りながら徐々に減速しているのがわかる。

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