天文ガイド 惑星の近況 2015年12月号 (No.189)
堀川邦昭

夜明け前の東天では、しし座のレグルスをはさんで金星、木星、火星の3惑星が並ぶ、大 変にぎやかです。金星が西方最大離角となる10月26日には木星が追いついて、見事な眺め になることでしょう。一方、土星は日没時でも高度は20°程度となり、観測には適さなく なってしまいました。

ここでは9月後半から10月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

日の出時の高度が高くなるにつれて、木星面の詳細がわかるようになってきました。先月 のレポートでも書いたように、現在の木星面はおおむね昨シーズン末の状況をそのまま維 持しています。

今シーズンも木星面で一番目につくのは、大赤斑(GRS)の鮮やかさです。オレンジ色が目 立つだけでなく、以前よりもひと回り大きくなったようで、長径は15°と2012年頃のサイ ズに戻ったようです。経度はII=234°で、ゆっくりとした後退運動は変わっていません。 昨年の今頃は大赤斑の後端に大きな暗部が形成され、循環気流の活動によって大赤斑前方 の南熱帯(STrZ)にストリーク(dark streak)の出現が、4ヵ月に渡って繰り返し見られまし た。現在は周囲のSTrZや南温帯縞(STB)に暗色模様は見られませんが、10月15日の永長氏 の画像を見ると、赤斑湾(RS bay)の後端に小さな突起が現れ、大赤斑後端と淡いブリッジ で結ばれているように見えます。先シーズンと同じような活動が起こるかもしれませんの で、注意したいものです。

[図1] 大赤斑とWSZ
大赤斑は以前より大きく見える。後方のSEBは活動弱い。▲の位置にWSZがある。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

永続白斑BAはII=45°にありますが、薄暗く周囲に暗い縁取りもないため不明瞭です。後 方には長さ30°のSTBの断片が伸びていて、その後方にはSTB南組織(STBs)の緯度に淡い暗 斑が2つ見られます。他のSTBは全周で淡く、条件が悪いとほとんど見えません。大赤斑前 方のII=200°にSTB Ghostと呼ばれる薄暗い暗部と、BA前方のII=0°に小暗斑(STB6)が見 られるのみで、STB北縁(STBn)を流れるジェットストリーム暗斑の活動もありません。

[図2] 不明瞭なBAとSTBの小暗斑
STBの小暗斑(STB6)が濃く目立つ。右側のBAは不明瞭。この経度のNEBはかなり幅広い。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

南南温帯縞(SSTB)は、木星面で3番目に濃く太い縞で、内部には高気圧性の小白斑(AWO)が 9個確認できます。昨シーズン観測された11個のうち、A7aとA7bが未確認です。これらの 白斑はA7とA8の間のII=240°付近にあると思われますが、この区間のSSTBは暗く白斑のよ うな模様は認められません。2つの白斑は他のAWOと比べて小さく目立たなかったので、消 失してしまったのかもしれません。昨シーズンは、いくつかのAWOが集まって3つのグルー プを形成していましたが、A6/A7のグループが減速したことで後続の白斑が接近し、現在 はA5除く8個のAWOが木星面の片半球に集まっていしまっています。そのため、A5とA6の間 は140°も開いています。

今シーズンの南赤道縞(SEB)は、ベルトの中央南側に細長い明帯が発達して、かなりの経 度で二条になっています。この明帯は南赤道縞帯(SEBZ)と呼ばれます。ベルト南縁は起伏 に富んでいてSEB南縁(SEBs)に沿って流れるジェットストリームが活動的であることが示 唆されます。また、大赤斑後方のSEBは淡く、白斑などの模様は昨シーズン同様、ほとん ど見られません。

北半球では北赤道縞(NEB)の拡幅が進行中ですが、今月の画像を見ると幅広くなっている のはII=340〜60°の範囲だけで、その他の経度はベルト北縁に起伏はあるものの太くはあ りません。ベルトの拡幅は進展しておらず、むしろ後退しているような印象を受けます。 北熱帯(NTrZ)の長命な白斑WSZはII=300°にあります。NEBへの湾入は浅く、大部分が明る いNTrZに露出した状態ですが、周囲よりも一段明るいので、容易に確認できます。今月の NEB北縁では、II=145°にある大きな暗斑が目を引きます。NTrZに大きく突き出したベル トの膨らみの中にあり、中央がやや明るいリング状をしています(NEBn d. oval)。周囲の NEBよりも赤みが強いのが特徴です。この領域は今年3月に大きな突起が出現して、ベルト の拡幅活動が始まった場所であり、シーズン末の7月には高速で前進する暗斑も観測され ていますので、拡幅活動と何らかの関連があるのか、注意深く見守りたいと思います。

[図3] 今シーズンの木星面
10月13〜15日の観測から作成。撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

土星

土星はあとひと月足らずで太陽との合を迎えます。すでに南西天低く、国内の観測は9月 22日の吉田氏(栃木県)の画像が最後となっていますが、海外では南半球の観測者が地の利 を生かして粘り強く観測を続けています。

北緯64°の赤外暗斑は、オーストラリアのバリー氏によって3回捉えられています。10月 14日の経度はIII=302°で、9月後半以降、少し加速したようです。

土星が明け方の東天に姿を見せるのは、来年初めになりそうです。次の観測シーズンも多 くの話題を提供してくれることを期待したいものです。

[図4] 9月の土星面
今シーズン国内最後の画像。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)

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