天文ガイド 惑星の近況 2016年3月号 (No.192)
堀川邦昭、安達誠

木星は12月16日に西矩、1月8日に留となり、しし座からおとめ座へ入る直前で逆行に移り ました。火星はひと足先におとめ座を順行中です。夜が長いので観測時間は長いのですが、 シーイングの悪い日が多かったようです。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

年末年始の木星面では、南赤道縞(SEB)北部が白雲の活動によって大きく乱れているのが 目につきます。明化したベルト北部が中央組織から垂れ下がる暗部によって5〜6個の不規 則な形をしたセルに分割されています。この領域のベルト北縁は淡く不明瞭で、条件が悪 いとSEBの幅が通常の3分の2になってしまったように見えます。暗部はこの緯度の風速分 布にしたがって中央組織から前方北側に傾斜したものが多く、まるで北赤道縞(NEB)南縁 から赤道帯(EZ)に向かってフェストゥーン(festoon)が並ぶ様子を南北逆さまにしたよう です。明化域全体は体系IIに対して1日当たり-3.5°とかなりのスピードで前進している ため、変化が激しい印象を受けますが、図1のようにセル相互の配置や距離はそれほど変 わっていません。1月半ばの時点では、II=0〜90°に位置しています。

[図1] 大赤斑と拡幅が進むNEB
大赤斑は非常に顕著。NEBは右から左に拡幅が進んでいる。イオの影が経過中。
撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

この領域が最初に現れた12月初めは、大赤斑(GRS)前方のSEB北縁に沿って伸びる細長い明 帯でしたが、12月下旬になると上記のセル構造が発達し、目立つようになりました。風速 シアーの大きな緯度なので、流れの不安定現象によるものと思われますが、メタンバンド の画像で濃淡が見られるので、何らかの対流活動もあるようです。SEB北部は昨シーズン 末の2015年3〜5月にも広範囲で明化しています。以前からSEB北部には不規則な細かい白 斑や青黒い暗部が出現してベルト北縁を淡く見せることがしばしばありましたが、このよ うな規模の大きな活動はあまり例がないようです。

[図2] SEB北部の明化域の発達
体系IIに対して1日当たり-3.5°前進する特殊経度で作成した(1月15日に体系IIと一致)。乱れているように見えるが、▼で示した各明部の数や相対位置は変化していない。

NEBはII=280°にある長命な白斑WSZから大赤斑の北にあたるII=240°付近の間で拡幅が進 行しており、北緯21°に新しいベルト北縁が形成されつつあります。後端はII=50°付近 にあるので、拡幅域全体は150°以上に成長しています。その後方でもNEB北縁が大きく波 打っていて、拡幅の及んでいない細いNEBはII=200°前後のわずかな区間だけとなってし まいました。

NEBの拡幅に伴ってWSZは明るい北熱帯(NTrZ)中の拡散した大きな白斑から、ベルト北部に 埋もれた輪郭のはっきりした白斑に変わったのですが、それと同時にドリフトも変化した ことは注目されます。WSZは昨シーズンから1日当たり-0.27°と、同じ緯度にある他の模 様よりも大きな前進速度を持っていたのですが、昨年11月に拡幅域に取り込まれて周囲が 暗化すると急に減速して、1日当たり-0.13°とそれまでの半分になってしまいました。木 星の雲のアルベドと風速に何か関係があるかどうかはよくわかっていませんが、今回の現 象は貴重な一例になるかもしれません。

[図3] NEBの拡幅によるWSZのドリフトの変化
右の▲で示した白斑がWSZ。NTrZの白斑(左の白丸)からNEB内部の白斑(灰色の丸)になった時にドリフトも変化している。

11月末に合体したSEB中の赤茶色の暗斑は今も健在です。II=67°で後退運動を続けており、 先月号に書いたII=60°の壁はあっさり破られてしまいました。低気圧的な渦と考えられ る2つの暗斑が合体したことで、勢力が増したのかもしれません。

火星

火星の視直径は6秒を超え、昨年末と比べると大きくなったことを感じるようになってい ます。小さい時は4秒でしたから1.5倍になったわけです。夜明け前には南中近くに昇り、 観測条件はだんだん良くなってきました。5月31日の最接近に向かってこれから急速に視 直径が大きくなっていきます。

1月13日現在、Lsは94°になって、北半球は夏至をわずかにすぎました。北極冠は非常に 小さくなり、気流が良くならないと見えません。また、しばしばダストのベールに覆われ て、黄色く輝度がなくなり、見えづらくなることが多くなりました。

[図4] 氷晶雲の帯
撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)

Lsが90°近くになると赤道付近には氷晶雲ができ、大気の上層で東西に帯状に広がります (図4)。青画像では、赤道に沿って「はちまき」のように帯状に広がった姿が写ります。 撮像は、青画像でないと記録は難しいです。

大気に水蒸気量が増え、成層火山には白雲ができています(図5)。海外からは非常に鮮明 にとらえた画像が報告されています。赤道付近の山は、明るい雲を伴いますが、南半球の ものはまだ目立ちません。一方、南半球のHellas盆地やArgyre盆地には白雲が現れて、い よいよ南極地方に白雲が期待される頃となっています。

[図5] 雲の出た成層火山
撮像:アレクサンダー・オブホフ氏(ロシア、28cm)

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