天文ガイド 惑星の近況 2016年8月号 (No.197)
安達誠、堀川邦昭

5月22日にさそり座とてんびん座の境界で衝となった火星は、30日には地球に7528万kmま で近づく最接近を迎えました。少し遅れて6月3日には土星がへびつかい座で衝となり、両 星は観測の好機となっています。一方、木星は6月7日が東矩で、西に傾くのが早くなりま した。

ここでは5月半ばから6月初めにかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

火星

最接近を迎えた火星は、さそり座の頭で-2等級の明るさに輝き、南天でひときわ目立って 輝いています。最接近時は、観望会の時間に目立つ大きな暗色模様が見えるという恵まれ た状況で、たくさんの人が観望されたようです。視直径は18.6秒になり、木星の半分くら いの大きさになりました。Lsは160°になり北半球は秋分に近くなってきています。一方、 南半球は春分に近づきつつあり、南極冠の形成時期になっています。

南極にはフード状の白雲が一面に広がりました(図1)。その下には雪雲と思われる、濃い 雲の帯が多くの観測者によって撮影されました。また、この様子は眼視でも見ることがで き、Hellasの南方などにしばしば観測され次第にその範囲は広がっています。火星はこれ までは雲に注目した観測が中心となり、低緯度地方の氷晶雲や山にできる山岳雲など、特 徴的な雲がたくさん見られました。

[図1] 複雑な様子を示す南極フード
撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

Syrtis Majorが日没となるころは、比較的小さいけれど非常に明るい雲がよく見られまし た。変化が激しく数十分の間にどんどん姿が変わり、興味深い姿が見られました。また、 この雲は毎日ほぼ同じような姿と変化をしており、地形と大きく関係しているように見え ました。この様子はHSTの画像でも公開されています。

[図2] 南極地方の雪雲>/th>
火星像の南の縁にできた白いベルトが雪雲の端。撮像:ミリカ−ニコラス氏(オーストラリア、35cm)

大気中の水蒸気量の下降とともに、氷晶雲は次第に薄れてきています。今シーズンの観測 では、継続的な追跡は困難でした。しかし、報告の中には氷晶雲の精細な様子を記録した ものもあり、貴重なデータとなりました(図3)。

[図3] 火星面に広がる氷晶雲
表面を東西に覆う白いベルトが氷晶雲の一部。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)

5月の初めは、Tharsis付近の山やOlympus Monsの山岳雲は北西方向に吹き流されることは なくなり、雲は山の上に同心円状に広がり、この付近の風がほとんどなくなってきたこと を示していました。山岳雲も出方が鈍り、日没近い時間になるまで雲の見られない状態に なっています。一方、火星のディスク周辺部には霧のような雲がたくさん見られるように なっています。

最接近までは雲のシーズンでしたが、Lsが大きくなっていくこれからの火星観測はダスト ストームに注意しなければならないときに移っていきます。

木星

3月に大赤斑(GRS)後方で始まった南赤道縞(SEB)の白雲活動は、5月になって徐々に衰えて きました。大型の明るい白斑は少なくなり、活動域の長さも短くなっています。今シーズ ン末までには、今回の活動が始まる以前の状態に戻ってしまうと思われます。ただし、大 赤斑後方の白雲領域は間欠的に活動を繰り返す傾向があるので、今後も突発的な白斑の発 生には注意したいものです。また、大赤斑の前方や離れた場所で独立に起こるmid-SEB outbreakと呼ばれる白雲活動の発生にも引き続き警戒する必要があります。

[図4] SEBとNEBの変化
NEBは拡幅が終わってベルトが細くなり、SEBは白雲活動による乱れが小さくなっている。撮像:(左) 永長英夫氏(兵庫県、30cm)、(右) 堀井恵策氏(兵庫県、31cm)

北赤道縞(NEB)の拡幅現象も終わりを迎えているようです。3月に拡幅領域の後端部が40° ほど淡化したのに続いて、4月からは拡幅域中央部分も明るくなり始め、今月の画像を見 ると、拡幅域全体が消失してNEBは通常の太さに戻ってしまっています。まだ拡幅時の北 縁が薄茶色に残っていますが、消失するのは時間の問題と思われます。今回の拡幅は、長 命な白斑WSZに行く手をはばまれて全周に波及することなく終わってしまいました。1988 年に始まったNEBの拡幅サイクルで初めての出来事です。3〜5年後に再び起こると予想さ れる次の拡幅が、どのような現象になるか楽しみです。

土星

土星面は相変わらず静かで、大きな変化は見られません。北温帯縞(NTB)が大きく二条に 分かれています。北組織が紫〜茶色で、土星面で最も濃いベルトとして見られます。一方、 南組織は淡く、いずれ薄暗い北熱帯(NTrZ)に同化してしまうと思われます。

薄茶色で幅広い北赤道縞(NEB)の内部には淡い小白斑がいくつもあるようです。非常にコ ントラストの低い模様なので、残念ながら高解像度の画像でないと捉えることは難しいよ うです。

5月末から環(特にB環)が明るく見えるようになっています。太陽−地球−土星が一直線に 並び、環を構成する粒子の影が見えなくなる衝の時期特有の現象で、衝効果(またはハイ リゲンシャイン現象)と呼ばれています。

[図5] 6月の土星
NTB北組織が最も濃く見える。環が衝効果のため明るい。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

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