天文ガイド 惑星の近況 2017年10月号 (No.211)

堀川邦昭


土星はへびつかい座を逆行中です。 衝を過ぎたばかりで観測の好機ですが、南天の低い所を這うように進むため、厳しい観測条件が続きます。 木星は東矩を過ぎて夕暮れの南西天に見られます。 空が暗くなる頃には西へ傾いてしまうため、観測シーズン終盤という感じが漂っています。

ここでは7月の惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

7月下旬、大赤斑(GRS)直後の南赤道縞(SEB)南縁が大きく盛り上がって巨大な暗部が出現しました。 暗部は大赤斑を後方から包み込んでアーチとなり、さらに前方に流れ出て濃く太いストリーク(dark streak)を形成しました。 一時は幅が10°近くもある暗い塊が大赤斑とほぼ同じ高さまで盛り上がるという、まったく異様な光景が見られました。 7月末現在、暗部の幅は少し狭くなりましたが、大赤斑は周囲をぐるりと暗部に囲まれた姿になり、ストリークも大赤斑前方30°くらいの長さになっています。 このような場合、大赤斑は淡化して赤斑孔(RS Hollow)になるのですが、今のところ輪郭が少し不明瞭になった程度で、赤みの強い卵型の形状を保っています。

大赤斑の周囲では、5月から暗部の活動が続いていて、大赤斑後端とSEBの間のブリッジや前方に伸びるストリークが消長を繰り返していました。 7月に入ると、大赤斑後方のSEBとブリッジが厚みを増して三角形の暗部なり、赤斑孔内部もかなり暗くなっていましたので、今回の現象の予兆と言えるかもしれません。

大赤斑後部で大きな暗部が発達する現象は2014年にも起こり、半年ほど続きました。 今回もしばらくの間、このような状況が続くかもしれません。

mid-SEB outbreakは発生から半年が経過して、活動は徐々に衰えてきているように思われます。 現在の活動の中心は、II=50°付近にある第2発生源の周辺で、前方のSEB北部には暗柱で区切られた明部が並んでいます。 後方でもII=110°付近まで攪乱模様が続いていますが、これらはSEB中央から北部に偏在していて、以前よりも乱れ方は小さくなっているようです。 その後方はII=150°付近まで小さな白斑や乱れが続き、第1発生源の位置を特定することが難しくなっています。 27日にはII=138°のSEB中央部に明部が出現しましたが、すぐに衰えてしまいました。 第1発生源のバーストのような活動だったのでしょうか。

南温帯縞(STB)は全周で淡化していますが、II=160°付近には永続白斑BAとSTBの暗斑であるDS4が並んでいます。 BAは中心に白い核のある薄茶色のドーナツ型で、DS4は小さな暗斑の集合のように見えます。 DS4後方に続く薄黄色の領域で見られた後退暗斑群は姿を消してしまいました。 その後方には青いフィラメント領域であるSTB Ghostがあり、徐々にBAに接近しつつあります。 南南温帯縞(SSTB)北縁には高速で前進する暗斑が多数観測されていますが、STB Ghostの南で消失したり、減速や合体するものが多く見られます。 7月初めに減速して停滞した暗斑のひとつが北へ移動するとともにGhostの後端部を濃化させ、濃い暗斑のペアが出現しました。 他でも南温帯(STZ)の暗斑と関係して動きや緯度が変化するものがあり、この緯度帯の流れがとても複雑なことを暗示しています。

[図1] 大赤斑後部に出現した暗部
大赤斑の後ろから暗部が覆いかぶさるように盛り上がり、大赤斑前方にはストリークが見られる。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図2] 永続白斑BAとその周辺
中央左にBAとDS4が並ぶ。中央右にはSTB Ghostと後端付近に形成された暗斑のペアが見られる。撮像:大田聡氏 (沖縄県、30cm)
[図3] mid-SEB outbreakとpost-GRS disturbanceの活動
ひと月毎のSEBの展開図。番号付きの▼はmid-SEB outbreakの発生源の位置、左向きの矢印はoutbreakの先端、右向きの矢印はpost-GRS disturbanceの範囲をします。月惑星研究会への報告画像から作成。

土星

現在、土星の環はこの30年で最も北に開いた状態にあります。 土星本体は環の中にすっぽりと収まって、カシニの空隙が外側にはみ出しそうです。 環の詳細を観察するチャンスですが、スポークと呼ばれる放射状のすじ模様などの異常はまったく見られません。

土星本体では、これまで薄茶色だった北赤道縞(NEB)で、ベルトの北半分が青みを帯びるようになりました。 北極から中緯度にかけては、春頃にはベルト/ゾーン毎に色調が微妙に異なっていましたが、現在は薄緑を基調とした単調な色合いに変わっています。

北温帯縞(NTB)南組織の白斑は、今月もIII=100°(26日)に観測されています。 また、NEB北組織の白斑もIII=324°(20日)と126°(26日)に捉えられていて、先月号で書いたWS1とWS3にあたると思われます。

[図4] 今月の土星
環が大きく開いてカシニの空隙がはみ出しそうに見える。撮像:大杉忠夫氏(石川県、25cm)

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