天文ガイド 惑星の近況 2018年6月号 (No.219)

堀川邦昭、安達誠


木星はてんびん座を逆行中で、観測の好機を迎えています。 いて座では火星が土星に追いつき、4月2日に最接近となりました。 それぞれ3月26日(火星)と31日(土星)に西矩となり、いよいよ観測シーズン本番となります。

ここでは3月半ばから4月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)の前端が、大赤斑(GRS)後端に到達してからすでに2ヵ月経過しましたが、未だに大赤斑を越えることができません。 しかし、3月末になって新たな兆候が現れました。 すじ状の白雲が大赤斑の南を回り込むように伸びて、3月30日には大赤斑の左上(前方南)で大きな白斑となりました。 その後、白斑はモヤモヤとした薄暗い雲に変化しながら、じわじわと北へ移動しています。 攪乱との関係はよくわからないのですが、南赤道縞(SEB)南縁のジェットストリームと接触すれば、循環気流が再生する可能性がある模様として大きな注目を集めています。

攪乱全体は長さが25°で、前端が停滞している間に後端が近づいて少し短くなりました。 内部はSEB南縁が大きく乱れ、大きな暗斑が南熱帯(STrZ)をふらふらと漂っています。 攪乱後端は後方から南熱帯紐(STr. Band)がカーブしてSEBと連結しており、STrZに明瞭な明暗境界を作っています。

大赤斑はオレンジ色が鮮やかです。 経度はII=288°で、少し後退しました。 想定された変化ですが、後退量が予想より小さいのは攪乱の影響かもしれません。

2月に始まったSTB Ghost outbreakは、複雑な変化を経て長さ50°の濃いベルトとなりました。 II=50°にある永続白斑BAは、周囲に暗い縁取りができて、見やすくなっています。 BAとSTBの北側に伸びるラインは南熱帯紐で、大赤斑前方から南熱帯攪乱の後端まで、ほぼ全周を取り巻いています。 STB北組織(STBn)ではないので、注意して下さい。

南赤道縞(SEB)はmid-SEB outbreakが1月で完全に終息し、全周で活動が弱まっています。 北部で明部の活動が残るものの、概ね一様で単調なベルトで、北赤道縞(NEB)よりも明らかに淡く見えます。 静かなSEBでは、II=185°にある小さな明部と赤茶色のバージ(barge)のセットが目を引きます。 昨年、大赤斑前方に見られたのと同一で、2014年末から存続しています。

NEBでは北縁の後退が進行しています。 拡幅時の北縁がまだ淡く残っていますが、ほとんどの経度でベルトが細くなっています。 ベルト北部のバージと白斑は、目立つものだけで4〜5個ずつあり、さらに増えそうです。 長命な白斑WSZはII=25°にあります。 赤みはなく、大きく白い輪郭のぼやけた白斑です。 他の模様がほとんど動かないのに対し、WSZだけは1日当たり-0.2°の割合で前進しています。

北温帯縞(NTB)はオレンジ色のベルトとして見られます。 青黒い北組織(NTBn)は淡化してしまいましたが、代わってII=170°前後の北温帯(NTZ)に暗い領域が出現し、北北温帯縞(NNTB)が南へ膨らんだようになっています。 これは北温帯攪乱(NT disturbance)と呼ばれる現象で、数年に一度発生します。 前方では、NTBnの緯度に沿って多数の暗斑が見られます。 北温帯流-B(NT Current-B)に乗って高速で前進しています。

[図1] 大赤斑前方に出現した白斑
大赤斑の左上に白斑。攪乱前端がジャンプするのだろうか。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] 永続白斑BAと濃化したSTB
STB Ghostがベルト化し、BA+STBというおなじみの光景が復活した。撮像:堀内直氏(京都府、40cm)

火星

火星は、夜明け前の南天に高度30°くらいで土星と共に輝いています。 Lsは155°になり、南半球は春分に近づいてきました。 視直径もどんどん大きくなって、まもなく9秒台に入ります。 10秒になると眼視でも模様が見やすくなってきます。 報告では、ところどころで小さなダストストームの発生も捉えられており、面白くなってきました。

3月12日、Meridiani(子午線の湾)の北側に、ダストストームの光斑ができました(図3左)。 残念ながら、その後の追跡観測はできませんでした。 次いで20日はSyrtis Majorのすぐ東側にダストストームの光斑ができています。 このダストストームは大気中に拡散し、この付近をダスティーにしてしまいました。 28日にはMargaritifer Sinus付近で発生しました。 これは少し大きめで、この付近一帯の暗い模様を覆い隠し、眼視では模様が非常に見えづらくなりました(図3右)。

今月は南極冠がどのように見えてくるかも注目していました。 南極は広い範囲で白雲(南極フード)に覆われ、一見すると南極冠が見えているような錯覚に陥るくらいです。 ですが4月になり、南極フードは極点付近が暗くなり、いよいよドーナツ状に見えるようになってきました。 季節極冠はこうしたドーナツ状の雲の下に現れます。 すでにHellasの近くなど、南極冠の北限界の位置に濃い雲が出ており、南極冠が見えてくるのは時間の問題だと思われます。 撮像はIRや赤画像での観測が極冠の姿をとらえるのに有効です。

3月1日にフォスター氏(Clyde Foster、南アフリカ)が火星の南半球のよく晴れた状況でSolis Lacusを記録し、細い半月状の形を捉えています。 良い条件での観測が少なく、これでほぼ火星面の模様の状況がつかめました。

[図3] ダストストームの光斑
左) Meridiani北方に出た光斑。撮像:ファビオ・カルバロ氏(ブラジル、40cm)。右) 中央左、Margaritifer Sinus付近。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)。

土星

土星面では白斑が観測されています。 3月29日、ブラジルのスパレンベルガー氏(M.B. Sparrenberger)は、暗い北極地方の外縁に接する北緯68°、III=320°に明るい白斑を捉えました。 この白斑は4月1日と3日にも観測されていて、1日当たり-11°という高速で前進しています。

この緯度では、2015年と2016年にも高速で前進する暗斑が観測されています。 今回の白斑との関係は定かではありませんが、この緯度は土星面の活動的な領域のひとつであるようです。

[図4] 北極地方外縁の白斑
撮像:マシエル・スパレンベルガー氏(ブラジル、31cm)

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