天文ガイド 惑星の近況 2018年9月号 (No.222)

安達誠、堀川邦昭


前代未聞の早さで梅雨が明けました。 夜空では木星、土星、火星の3大惑星が輝いています。 木星は衝を過ぎていますが、まだ観測の好機にあり、土星は6月27日に衝を迎えました。 火星は28日に留となり、15年ぶりの大接近が間近となっています。

ここでは6月半ばから7月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星はダストストームが発生して、見え方が一変してしまいました。 現在、火星は近日点に向かっています。 太陽からの輻射熱もそれに伴って大きくなるので、火星の大気中に入る熱量もしばらくは増加傾向です。 ダストストームが衰えるのは難しいかもしれません。

月惑星研究会に報告されてくる火星像は報告者によって、かなりの違いが出るようになりました。 今までの画像は火星表面の黒い模様を頼りに処理されていましたが、ダストに覆われると判断基準がなくなり、かなりわかりにくいものが送られてきます。 表面模様を撮影するならIR(赤外)が適しています。 淡いダストなら結構模様が写ります。 現在のダストに覆われた火星は、暗い模様に合わせて画像処理するか、ダストストームの明暗に焦点を当てるかによって、仕上がりが大きく変わります。 荒川氏はダストストームの明るさに着目した画像処理をしていて(図1)、ダストストームの活発な部分が非常によくわかります。 こういった活発な部分が続けば、ダストストームの終息はきっと遅れるはずですし、収まってくれば模様が見えるようになってくるでしょう。 模様が見えるようになれば、模様の変化など、新たな発見が出てくるものと思います。 当面は、ダストストームの活動に焦点を当てた処理が重要となります。

7月に入り、見えにくくなっていた南極冠が、ダストの下に見えるようになっています。 これからの変化が注目される状態です。 また、Olympus Monsが黒い斑点として見えています。 2001年とよく似た状況です。 この斑点が黒くなって分かりやすくなるか、ダストに埋もれてしまうかによって、大気の状態がわかりますから、見えてきたら是非ねらってみてください。

[図1] Solis Lacus周辺の状況
ダストストームに合わせて処理されているため、。暗色模様が濃くなり過ぎていない。撮像:荒川毅氏(奈良県、30cm)
[図2] Meridiani周辺の状況
南極の周辺以外はダストストームにおおわれてしまった。撮像:熊森照明氏(大阪府:35p)

木星

6月初めに南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)は消失してしまいましたが、その後、大赤斑(GRS)前方の南熱帯紐(STrB)に、北へ突き出した「くびれ」のような部分が現れました。 攪乱の名残の高気圧性の渦ではないかと思われます。 6月下旬になると、前方からSEB南縁に沿って後退する暗斑群(一部はリング状)が接近、24日に先頭の暗斑が北側を通過すると、くびれが南熱帯(STrZ)を横切る暗柱に変化しました。 暗柱は淡く循環気流も確認されていないので、攪乱と呼ぶには程遠いのですが、7月上旬になっても消えずに残っています。 後続の暗斑との相互作用により、攪乱として復活するか、注意深く見守りたいものです。

大赤斑はオレンジ色〜朱色が鮮やかで、以前よりも濃くなりました。 経度はII=291°で再び後退を始めています。

大赤斑後方の南赤道縞(SEB)が5月後半から活発になり、約40°の範囲で乱れた白雲が見られます。 それに伴ってSEB南縁にはジェットストリームに乗って後退する突起や暗斑が増えています。 このような活動はベルトを濃化させる傾向があります。 一方、SEB全体としては淡化が進んでいます。 これまで濃く見えていたベルト南部も濃度が落ちて、赤茶色のバージ(barge)が取り残されるように目立ってきました。 過去にSEBが淡化した時の状況とよく似ています。 現在のSEBは濃化と淡化の両方の兆候が同時に見られます。 SEBがこれからどう変化するか、予測がとても難しい状況です。

赤道帯(EZ)は北部が薄茶色に見える部分が多く、中央には濃く太い赤道紐(EB)が目立つようになっています。 EZが暗化・着色するのは2012年以来です。 EZの特徴的なひげ状の模様であるフェストゥーン(festoon)は全周で12本あり、どれも長く伸びて目立ちます。 いくつかは北赤道縞(NEB)南縁に青黒い大きな暗部を伴っています。

NEBは北縁が淡化してひと回り細くなりました。 しかし、淡化は進んでおらず、以前のベルトが薄茶色に残っています。 北縁は起伏が大きく、バージや白斑などがありますが、顕著なものは徐々に減少しています。 ベルト内部では、リフト(rift)活動があちこちで見られます。 小規模なものばかりですが、ベルトが活動的になっています。

[図3] 大赤斑前方に現れた暗柱
▲の位置に淡い暗柱が見られる。左下の黒点はイオの影。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)
[図4] 永続白斑BAと淡化が進むSEB
淡いSEBの中央に細長いバージが残る。起伏に富んだNEB北縁にはWSZが見られる。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)

土星

土星面では3月末に出現した北緯68°の白斑が「Polar Storm」として注目を集めています。 当初は高速で前進する白斑ひとつだけでしたが、6月になると別の白斑が出現して乱れた明帯に発達するなど、活動は激しさを増しています。

最初の白斑(以下、白斑A)は現在も1日当たり-11.6°という高速で前進を続けています。 新しい白斑(以下、白斑B)は5月下旬に発生したようで、白斑Aよりも少し緯度が高い(北緯70°前後)ため、1日当たりの前進速度は-3.5°程度とゆっくりです。 6月中旬以降、白斑Bは急速に東西に広がり、前方南−後方北に傾いた明帯になっています。

白斑Aと白斑Bの会合現象が、6月末〜7月初にかけてIII=300°付近で見られました。 白斑Aの方が緯度が低いので衝突はしませんでしたが、白斑Aも東西に広がって細長い明帯に変化しています。 土星の北半球高緯度は、本当に「嵐」の様相を呈してきました。

[図5] 土星のPolarStorm
白斑Bが東西に広がると同時に、左から白斑Aが接近して、両者が会合する様子。

前号へ INDEXへ 次号へ