天文ガイド 惑星の近況 2018年11月号 (No.224)

安達誠、堀川邦昭


日没後の東南〜南西天には、火星、土星、木星、金星の4惑星が並んで輝いています。 金星は8月17日に東方最大離角を迎え、火星と土星はそれぞれ8月28日と9月6日に留となりました。

ここでは8月半ばから9月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星は、やぎ座といて座の境界付近で明るく輝いています。 Lsは240°台まで進み、南半球は夏至に近づいています。

南極冠はどんどん小さくなり、最大の頃と比べると1/3程度の大きさになりました。 今シーズンは大規模なダストストームの影響を受け、どのような経過で縮小していくのかを調べるのは困難となってしまいました。

ダストストームは、発生から3か月を超え、次第に沈静化して来ており、ダストを通して下の模様がどんどん見えるようになってきています。 報告画像を見ると、もう晴れたのかと思うような画像がありますが、実際には少し見えるようになってきたというところでしょう。 全球的には沈静化していますが、局部的にはまだ厚いところもあって、慣れた人でもどこを見ているのか分からない時がしばしばあります。

今シーズンは新しく暗く大きな模様ができています。 一つはSolisの西にあるDaedariaに南北方向に伸びる大きな模様ができました。 この暗部は、過去のダストストームの後にしばしば現れており、近いところでは1973年のダストストームの後に一時期見られました。 海老沢地図でも、この部分には1877〜1878年や1908年に暗部が見えたことが破線で記録されています(図1)。 また、Meridianiの北西にあるOxiaは、今までMargaritiferにつながっていましたが、今回はAcidariumにつながってしまいました。

明るい部分としては、Syrtisの東にあるHesperiaが大きく明るい姿に見えています。 特筆することとしては、ダストストームが入り込んだMarineris谷には、ダストストームの堆積物がたまったように見えていましたが、最新の観測報告を見ると、明るく筋になって見えていた部分はすっかり元に戻っています。 このことから見えていたものは谷の中に浮遊していた塵だったようです。 しかし、Hellas周辺は今までとは明るさが大きく違った姿を示しています(図2)。 ダストストームが晴れ渡って、どのような様子になっているか、興味は尽きません。

[図1] 新たに出現したDaedariaの暗斑
矢印の部分が、Daedariaの暗斑。よく見ると周囲の模様も以前とは違った姿を見せている。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)
[図2] Hellas盆地周辺の変化
明るい円形の地域がHellas盆地。西(左)側が外に広がっている。小さなものは北側にも見られる。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

木星

木星面は概ね落ち着いた状況にあり、大きな変化は起きていません。 南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)の名残である攪乱後端の息子(Son of f-STropD)は、徐々に大赤斑(GRS)から離れてII=225°付近まで進んでいますが、かなり淡くなってしまいました。 南赤道縞(SEB)南縁を後退する暗斑群が通り過ぎて行くのですが、大規模な相互作用を起こすパワーはもうないようで、このまま消失してしまいそうです。

大赤斑は周囲に暗色模様がないため、とてもよく目立ちます。 以前よりも赤みが増した上に、長径は15°と、ここ数年で最も大きくなっています。 経度はII=292°で、ほとんど動いていません。 南熱帯攪乱との会合によって長年の後退運動がストップしたのですが、攪乱が消失した現在でも、その影響が残っているのかもしれません。

大赤斑後方の白雲活動(post-GRS disturbance)はすっかり衰えてしまいました。 SEB南縁の乱れも徐々に収まり、SEBは再び静かになっています。 SEBは昨年の大規模なmid-SEB outbreakで力を使い果たしてしまい、余力が残っていないのかもしれません。

大赤斑の南方では、南極地方(SPR)の2つの白斑が接近して注目されています。 S4-LRS-1と呼ばれる赤色白斑に、後方からS4-AWO-2という高速で前進する白斑が近づいています。 両者の速度の違いは、S4-AWO-2の方が少し緯度が高いためで、南緯60°付近を流れるS5ジェットストリームの影響を受けていると思われます。 両者はもうすぐ衝突し、合体すると予想されています。

[図3] 合体間近なSPRの白斑
▽印の位置に接近した白斑がある。右上は拡大画像。赤外画像なので大赤斑は明るく写っている。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

土星

Polar Stormの2つの明部は、8月中旬に再び会合しました。 8月16日のシルバ・コレア氏の画像には、III=150°付近に大きな白雲の塊が捉えられています。 白雲のどこが明部AとBに相当するのかは判断できません。 渾然一体となって融合してしまったかのように見えます。 しかし、その後、2つの明部は再び分離して、それぞれのスピードで前進を続けているようです。 8月末〜9月初めにはIII=320°と130°付近に明るい白斑が見られ、それぞれ明部AとBの予想位置に対応します。

最近は、これら2つの明部の他にも、III=280°や30°付近で白斑が捉えられていますが、前述の2つの明部が前進しながら東西に大きく引き伸ばされて拡散してしまっているため、その切れ端が白斑として凝集したのか、それとも新たに出現した白斑なのかよくわかりません。

[図4] 活発なPolar Storm
明部A、Bが会合し、ひとつの大きな白雲の塊として見えている。撮像:フェルナンド・シルバ・コレア氏(チリ、35cm)

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