天文ガイド 惑星の近況 2019年1月号 (No.226)

安達誠、堀川邦昭


夕方の南天では火星がやぎ座を順行中です。 大接近から3ヶ月が過ぎ、地球からだいぶ遠ざかってしまいました。 南西天には土星が見えていますが、高度は下がる一方で、観測は困難になっています。 木星は11月26日の合を待つばかりとなりました。

ここでは10月半ばから11月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星の視直径はおよそ12秒台になって、最接近と比べると半分の大きさになってしまいました。 しかし、ダストストームの沈静化に伴って、模様は見やすくなってきていますから、倍率さえ確保できれば、模様の見やすさには大きな変化を感じません。

10月1日に発生したMare Sirenum南方のダストストームは極付近の気流で西へ流されていきました。 ダストストームとしては中規模の比較的大きなものとなり、Noachis南方まで吹き流され、影響は10月中頃まで続きました。

その後、10月24日なって新たなダストストームが発生し、Argyreが明るくなっている様子が報告されました。 このダストストームは小規模だったため、数日で収束しました。

一方、マーズ・エクスプレスからArsia山から東に細長く伸びる雲の画像が公開されました(図1)。 周囲の氷晶雲が少ない中に突如目立った雲が目立ちました。 ちょうど日本は見易い位置にあり、国内でもたくさんの観測者によって記録されました。 熊森氏(大阪府)が雲の影の記録に成功しています(図2)。 雲の成因についてはよく分かっていません。

南極冠は非常に小さくなりました。 10月初旬と11月初旬の大きさを比べると、図のようになります(図3)。 火星はこれからも南に傾いた姿を続けますので、極冠がどのようになっていくかをつぶさに見ることができるでしょう。

今シーズンの暗い模様の変化は随所に見られますが、ダストストームがベールになって覆っているため、完全な姿はとらえられていません。 しかし、赤外で撮像された画像の中には、非常に精緻な表面模様を記録したものがあり、全体の様子が分かってきました。 最も大きな変化はDaedariaに巨大な暗斑が出現したことで、OxiaがMargaritiferではなくNiliacusにつながったことなどもありますが、次回に紹介したいと思います。

この記事を執筆している11月3日に、筆者はSolis南方の南極冠の脇に明るい雲状の光斑が見えている様子を観測しました。 同じ様子を岡村修氏(兵庫県)が遅い時刻に観測しています。 火星はまだまだ活動的で、眼が離せません。

[図1] アルシア山から伸びる雲
マーズ・エクスプレスによる10月10日の画像。周囲に目立つ氷晶雲がないにもかかわらず、長くたなびく雲が出現している。
[図2] 地球から捉えたアルシアの白雲
この日の白雲は2条になっていて、火星面に投影された影も写っている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35p)
[図3] 南極冠の縮小
経度は若干違うが、1ヵ月で南極冠が縮小する様子がよくわかる。(A) 10月1日。撮像:熊森照明氏(大阪府、35p)。(B) 11月3日。撮像:荒川毅氏(奈良県、30p)

木星

南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)で明け暮れた2018シーズンも終わりを迎えました。 条件が悪く細部はつかめなくなりましたが、鮮やかなオレンジ色の大赤斑(GRS)がとても目立ちます。 大赤斑の後方では南赤道縞(SEB)の北部が淡化して、ベルトの幅が半分になっています。 白雲の湧出活動(post-GRS disturbance)であれば、南部が淡化し北部は濃く残るので、異なる現象と思われます。 SEB北部の淡化は、木星面を半分近く回ったII=100°付近まで及んでいるようです。

大赤斑の20°後方には永続白斑BAが迫っています。 BA後方の南温帯縞(STB)は100°を超える長さがありますが、最近は中央部分が少し淡くなり、前後に分離し始めたようです。

赤道帯(EZ)北部は以前にも増して薄黄色が目立つようになっています。 EZの着色は2012年にも短期間見られましたが、これほど明瞭なのは1980年代まで戻らないと例がありません。 内部には太い赤道紐(EB)と多数のフェストゥーン(festoon)が見られます。

[図4] 大赤斑とSEB北部の淡化>
大赤斑の前後でSEBの幅が大きく異なる。大赤斑後方には永続白斑BAが接近中。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

土星

土星のPolar Stormの活動が続いています。 2つの明部はどちらも東西に拡散し、不規則な形状に見えることが多くなりました。 そのため、正確な位置の測定は困難になっています。 明部Aと明部Bは10月下旬に5度目の会合をしたはずですが、詳しい状況はつかめていません。 27日のフォスター氏(C. Foster、南アフリカ)の画像では、III=0〜80°に長く伸びた明帯が見られます。 おそらく、前端部分がA、後端部分がBに相当すると思われます。

[図5] 東西に伸びたPolar Storm
2つの明部、AとBが会合し、結合した状態と思われる。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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