天文ガイド 惑星の近況 2019年6月号 (No.231)

堀川邦昭、安達誠


明け方の空には木星と土星が並んで輝いています。 火星はおひつじ座を駆け抜けて行きました。 春めいた陽気になりましたが、シーイングはまだ真冬並みで、惑星観測には厳しい日が続いています。

ここでは3月から4月初めの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

大赤斑(GRS)から尻尾のような赤いすじが再び現れました。 3月末から4月初めにかけて、大赤斑後端から伸びる暗赤色の模様が捉えられています。 前回と同じメタンブライトで、高高度の模様であることを示しています。 3月24日頃に、南赤道縞(SEB)南縁を後退してきた大きなリング暗斑が赤斑湾(RS bay)の内部に入り込み始めたので、赤い尻尾はこのリング暗斑と大赤斑との相互作用によってできたと考えられます。 後で述べるように、SEB南縁には他にもたくさんの暗斑があるので、今後も同じような現象が起こる可能性があります。

大赤斑後方のSEB活動域(post-GRS disturbance)は、2月後半に活動的になったのですが、大きく発達することはなく、現在も長さは30°程度にとどまっています。 しかし、後方のSEB南組織(SEBs)は大きく乱れ、ジェットストリームに乗って後退する暗斑がずらりと並んでいます。 一方、SEBの北半分は静かな白雲が広がり、明るくなっています。 現在は、活動的な南部と静かな北部の勢力が拮抗している状況です。

永続白斑BAはII=237°にあり、暗いリングに囲まれた明るい白斑としてみられます。 赤みはまったくありません。 後方に南温帯縞(STB)の断片を引きずっていますが、「tail」と呼ばれた後半部分が分解・消失しつつあるので、長さは30°と短くなっています。 今年はSTB Spectreと呼ばれるSTBの青いフィラメント領域が見られません。 しかし、メタンバンドの画像では、II=350°から長さ70°もある暗いベルトとして健在です。 大赤斑に近づいていますので、南を通過する時に何か変化が起こるかもしれません。

北半球では北温帯縞(NTB)と北北温帯縞(NNTB)が淡化してしまい、目立つベルトは北赤道縞(NEB)だけになっています。 南北縁とも起伏が多く活動的です。 長命な白斑WSZは大赤斑の北、II=320°にあり、NEB北縁に大きな湾を作っています。 昨年目立っていたWSaとWSbも、それぞれII=145°と205°の大きな湾入として見られます。

[図1] 大赤斑から伸びる赤い尻尾
乱れたSEB南部と明るく静かな北部の違いにも注目。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、35cm)
[図2] メタン画像で見るSTB Spectre
STB Spectreが暗いベルトとして見える。下の可視光画像ではわからない。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

火星

火星は地平高度こそ高いものの、視直径は5秒を切って、観測条件はどんどん厳しくなっています。 3月上旬はSinus SabaeusやHesperiaなどがしっかりわかり、まだ模様を良く捉えることができましたが、中旬以降は、良い画像が集まりにくくなりました。

南極冠は見えなくなり、北極には白雲が見えて、北極冠が気になる時期となりました。 火星がまだ南に傾いているため、条件は厳しいのですが、今後は北極冠が捉えられるかどうかが観測の焦点になると思われます。

観測シーズンが終わりに近づき、まとめとしてMROの画像を調べてみると、面白いことがいくつか見つかりました。 昨年の大規模なダストストームは、5月に発生し6月には南半球に入って大きく広がったのですが、7月になると南極冠からの冷気によって中規模のダストストームが連続して発生し、全球を覆うほどの大規模なものに発達しました。 その後、8月に入ると次第に衰え、9月になると模様が透けて見えるようになりました。 今回の大規模ダストストームは過去の例のように、約3か月程度で収まっていったことがわかりました。

その後もローカルダストストームが時々起こりましたが、大規模に広がることはありませんでした。 7月に起こった南極の冷気によるダストストームは、発生後すぐには北に移動せず、1日間停滞してから一気に北に向かって拡散していく様子が見られます。

MROの観測は、途切れた部分が多くいのですが、地上からの観測がそれを補完し、切れ目の少ない観測ができています。 現在その様子を調べています。

[図3] 北極周辺の白雲
明るい白雲が広がり、まもなく北極冠として見えてくるだろう。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)

土星

昨年話題になったPolar Stormは、まだ活動を続けています。 3月の画像には、北緯65°前後に白斑や明暗模様を見ることができます。 ただし、これらの模様は極めてコントラストが低く、赤画像で何とか認められる程度です。 整理すると、体系IIIに対して1日当たり-7°で前進する領域があるようで、4月初めにはIII=100°前後に位置しているようです。 昨年観測された、1日当たり-11.7°で前進する明るい白斑はなくなったようで、活動は終末期を迎えているように思われます。

今月はクリーム色の赤道帯(EZ)にも、白斑が観測されています。 EZ中央の赤道付近は、少し薄暗い赤道紐(EB)となっていて、白斑はEBを分断しています。 24日はI=64°にあり、体系Iに対して1日に-4°前進しています。

[図4] 3月の土星面
子午線付近にPolar Stormの白雲が見える。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35p)

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