天文ガイド 惑星の近況 2021年6月号 (No.255)

堀川邦昭、安達誠


火星はおうし座順行中で、日没後の南西天高く見えています。 木星と土星はやぎ座にあり、明け方の東南天に昇ってきます。 土星の方が先に昇るのですが、撮像条件は厳しいようで、国内の観測はまだありません。 木星は日の出時の高度は20°を越え、観測数も徐々に増えてきました。

ここでは4月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星は視直径が5秒台となって、倍率を上げないと眼視での模様の検出は難しくなってきましたが、画像での観測はまだ続いています。

3月は北半球の春分を少し過ぎた時期にあたり、南極冠はほぼ見えなくなりましたが、代わりに白雲の広がっている姿がよく記録されます。 シーイングが良いと南極に白く小さな光点が見えます。 永久南極冠かもしれませんが、はっきりしたことは分かりません。

北極冠はシーイングの良い時にかろうじて見えることがあります。 非常に細いイメージなので画像では記録されにくいです。 図1で部分的に明るくなっているところが北極冠です。 このような微妙な見え方は、画像ではなかなかとらえられないと思います。 北極冠の周りは、まだフードに隠れていることが多いのですが、ところどころで見えています。

北極冠が形成され、大気中の水蒸気が減り、火星の周囲に見えていた雲は非常に少なくなりました。 また、山岳雲もほとんど見えなくなりました。 南緯50〜60°付近には白雲が帯状に見え、極を中心にリング状に広がっています。 南極冠が縮小してから、この傾向は今も続いています。 HellasやArgyreの盆地は、盆地内に霧が広がり、白く見えるようになりました。 3月11日になって、Noachisの南部に顕著な白雲が見られました。

オリンパスモンスなどの成層火山は、山岳雲が見える季節に入りましたが、今のところまだのようです。 カラー画像ならターミネータター付近に来た時がチャンスです。 可能なら火星の夕方側に山が来た時に青画像で狙えば写るかもしれません。

[図1] 火星の北極冠
矢印の先の丸く明るいところが北極冠。撮像:栗栖茂氏(香川県、35cm)
[図2] Noachisの白雲
青画像。矢印で示した明るいところが白雲。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)

木星

合から2ヵ月以上経過し、木星面の全容が明らかになってきました。 大赤斑(GRS)は赤みが強く明瞭で、暗部の発生にもかかわらず、色も形状も変わっていません。 経度はII=356°で、後端はすでにII=0°を越えました。 前方に伸びるストリーク(dark streak)は、濃く太い南熱帯紐(STr. Band)となってII=220°にある永続白斑BAの北を通り過ぎ、先端は淡い南温帯縞(STB)北組織と融合しています。

大赤斑後部の準循環気流の暗部と大赤斑にかかるアーチは、先月よりもやや弱まりました。 衰えてきたのかもしれません。 STr. Bandは灰色で赤みはないので、合の間に大規模なフレーク活動はなかったようです。 また、大赤斑後方の南赤道縞(SEB)は南縁が凹んで細く見えます。 準循環気流形成時の特徴的な様相です。

それ以外のSEBは概ね変わりなく、南縁には多数の暗斑が見られ、II=120°から後方では濃い中央組織が伸びています。 そのため、大赤斑の前方では南南温帯縞(SSTB)からSEB北縁まで5本の縞が並んでにぎやかです。

昨年拡幅した北赤道縞(NEB)は、早くも北縁が淡化を始めていて、II=100°台と300°台ではやや細く見えます。 ベルトの赤茶色が強く、北部に白斑やバージ(暗斑)が多数出現しているのは、拡幅イベント後の特徴です。 隣の赤道帯(EZ)北部の色調が昨年よりも濃くなったのは、NEBに起因するのかもしれません。 II=140°のNEB北縁にある大きな白斑は、行方不明だった白斑WSZの予想位置にあります。 復活したと思われます。

永続白斑BAは、周囲を暗部に囲まれた明るい白斑です。 後方に続く南温帯縞(STB)の断片は細くて淡く、その後方には南温帯(STZ)の暗条がII=60°まで伸びています。 南南温帯縞(SSTB)の高気圧的白斑(AWO)は7個で変わりありません。 現在、A3がBAの南を通過中です。 A1とA2はBAを通過する際に合体が懸念されましたが、逆に少し離れたようです。

[図3] 大赤斑と前方に伸びるSTr. Band
大赤斑周囲の暗部はやや淡くなったが、STr. Bandは明瞭。大赤斑後方のSEBがやせて細い。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図4] 永続白斑BA周辺の状況
BAは明るく、北側をSTr. Bandが東西に伸び、南側のSSTBにはA1〜A4のAWOが並んでいる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

土星

土星面では3月14日にクライド・フォスター氏(南アフリカ)が、赤画像で北赤道縞(NEB)内部に微小な白斑を捉えているものの、 大きな変化はありません。 赤茶色の北赤道縞(NEB)南部と北温帯縞(NTB)が目立っています。 環の南側に見える南極地方は、昨年よりは少し明るい色調になったようです。

[図5] 今月の土星
土星面は静かで落ち着いている。NEB北部とNTBが濃い。撮像:トレバー・バリー氏(オーストラリア、41cm)

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