天文ガイド 惑星の近況 2022年8月号 (No.269)

堀川邦昭、安達誠


明け方の東天では火星と木星がうお座で輝いています。 5月29日には赤緯差38分まで接近しました。 金星と土星は左右にかなり離れてしまい、やぎ座の土星は早くも5月20日に西矩、6月5日に留を迎えています。

ここでは6月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

4月30日にHellasの北東部とChryse(35W, +10)にダストストームが発生したことは、すでに前号で紹介しました。 Hellasのダストストームは、5月6日になると東に広がり、7日には60°進んでAusonia に入り、11日にはEridania(200〜230W, -35〜-55)に達しましたが、その後拡散していきました。 ダストストームが通った一帯はかなりダスティーな状態になりました。

一方、Chryseのダストストームは特異点で発生した後、東西に淡くなりながら南に広がり、5月3日にChryse北部に発生した新しいダストと合体して、広い範囲が明るくなりました。 ダストストームの活動はここから中期に入り、一気に東に進みました。 6日にはDeucalionis Regioの中央が明るくなりましたが、全体的に淡くなり、上空に広がって進んでいるようでした。

5月16日、Argyre(30W, -50)の南に今シーズン4回目のエッジダストストームが見つかりました。 発生は15日と思われ、18日にはかなり拡散しました。 23日には再びChryseにダストストームが発生しました。 今シーズン5回目で、3日間南に拡散しながら移動しました。

視直径は6秒とまだ小さいのですが、極冠が見えなくなる9月まで、ダストストームから目の離せない状態が続きます。 明け方の時間帯は他の惑星と競合していますが、火星の観測もぜひお願いします。

[図1] 火星のダストストーム
矢印の先に見える光斑がダストストーム。火星はまだ小さいが、撮像技術の向上で様々な現象が捉えられるようになった。撮像:左) アントニオ・シダダオ氏(ポルトガル、35cm)、中央) アンディー・ケーズリー氏(オーストラリア、35cm)、右) アントニオ・シダダオ氏(ポルトガル、35cm)

木星

オーストラリアのナイル・マクニール(Niall MacNeill)氏から、5月25日頃、北北温帯(NNTZ)で白斑同士が合体したとの報告がありました。 合体したのはNN-WS6と呼ばれる長命な白斑と、もうひとつの小白斑(N3WS)で、II=120°付近で、後方から接近したN3WSがNN-WS6の北側から回り込むように合体しました。 N3WSは元々北隣の北北北温帯縞(NNNTB)の白斑でしたが、昨年8〜9月に5°も南へ移動してNNTZの白斑になった変わり種で、11月にはNN-WS6に急接近しました。 その後は行方不明だったのですが、合の前後はNN-WS6の後方に留まっていたようです。 近年はNN-WS6と他の白斑との合体が相次いでいて、最近3年間で4回目となります。

今シーズンは「大赤斑(GRS)がまた小さくなったのでは?」というコメントが、複数の観測者から寄せられています。 実際に測ってみると平均で11.9°しかありません。 大赤斑は2019年の大規模なフレーク現象で急激に縮小した後、一旦は回復したのですが、その後はジリ貧となっています。 平均で12°を割るのは初めてのことで、最小記録を更新しました。

北赤道縞(NEB)はの状況は変わっていません。 南半分が濃く活動的な一方、北半分は淡いままです。 南部はI=240〜300°の区間が特に活動的で、赤道帯(EZ)側にテーブル状に張り出した暗部やリフト、白斑などの模様で乱れています。 EZ内にはフェストゥーン(festoon)も多く見られますが、顕著なものはまだ少ないようです。 NEB北部のバージ(barge)もベルトと共に淡くなっていますが、II=310°のバージだけは濃く残っています。

[図2] 6月4日〜7日の木星面展開図
大赤斑は少し小さくなった。北側にNEB南縁の活動的な領域が見える。北半球は暗色模様が少なくなり、ジェットストリーム暗斑群が目立つ。クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、ルカ・ビオラ氏(ブラジル、20cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、エリック・シューセンバッハ氏(キュラソー島、28cm)の画像から作成。
[図3] NNTZの白斑同士の合体
NN-WS6の合体は直近3年で4回目。N3WSはNNNTBから緯度変化した変わり種である。

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