月惑星研究会関西支部トップページ > 出版物ページ >

天文ガイド 2006年1月号
 
火星にダストストームが発生した!
共同執筆者:安達 誠
火星にダストストームが発生 (2005年10月) |  第1波ダストストーム (10月13日) | 
第2波ダストストーム (10月18日) |  第3波ダストストーム (10月27日) |  今後は

火星にダストストームが発生 (2005年10月)

ついに待望のダストストームが発生した。火星観測の醍醐味は何と言っても、このダストストーム(黄雲)の発生を見ることだ。今回は合計3回のダストストームが発生し、その結果、ダストストームは火星面のほぼ半分をおおう規模にまで拡がった。最初は小さなダストストームだったが、それが引き金になり、大規模なダストストームがほぼ同じ場所に発生した。

ページトップへ

第1波ダストストーム (10月13日)

最初の発見は2005年10月13日03時07分(世界時)、イタリアのP.R.Lazzarotti氏がクリセ北部に、その光点を認めた(画像1)。東西10°程の長さに東西に延びた姿に見えた。そして、その20時間後の23時07分には、はっきりした明るい模様となって、クリセ平原を南に移動し始めたのがフランスのC.Pellier氏によって確認された。


残念なことに、このダストストームは、日本からは全く見ることができない場所だった。しかし、月惑星研究会には海外からのたくさんの観測者が、インターネットを通して報告しているため、この事件の発生は日本にもすぐに知らされた。発生を心待ちにしていた日本の観測者は、それからしばらくの間、ダストストームの起こった場所が見えて来るまでじっと待つことになった。しかし、残念なことにこのダストストームは3日後には拡散して見えなくなってしまい、日本からはとうとう見えないこととなってしまった。

画像1 ダストストーム(第1波)

小規模の局地的黄雲。左/P.R.Lazzarotti(イタリア) 右/C.Pellier(フランス)

ページトップへ

第2波ダストストーム (10月18日)

ところが、その2日後の10月18日、再びダストストームが発生した(画像2)。今度はアメリカが観測の最適場所となり、P.C.Sherrod氏はアウロラエ・シヌス(オーロラ湾)北部にダストストームの鮮明な姿を報告してきた。アルファベットの「V」の形をした珍しい姿のダストストームだった。もっと初期の姿は残念ながら記録がなかったが、その後、急速に姿を変えながら南半球に拡がっていった。21日には、ソリス・ラクス(太陽湖)とアルギレにも、新たなダストストームの光点が発生し、南半球の中緯度地方の半周をおおうまでに発達した。この第2波のダストストームの様子は、22日になってようやく日本でも火星の東側に観測することができた(画像3、画像4)。ソリス・ラクスに発生した光点が、一度は南西に拡がって、その後は中緯度を東進する様子をとらえている。日本の観測はダストストームの西への発達をとらえたことで貴重である。

画像2 ダストストーム(第2波)

10月18日にアウロラエ・シヌスで発生し、南に急速に発達。撮影/P.C.Sherrod(アメリカ)

画像3 日本でとらえたダストストーム

ソリス・ラクスの南で発達中の第2波(左)。マルガリティファー・シヌスをおおう第3波(右)。撮影/池村俊彦(名古屋市)

画像4 10月27日のダストストーム

アウロラエ・シヌスから南方をダストが広くおおう。ソリス・ラクスにはまだダストが残る。撮影/熊森照明(堺市)

ページトップへ

第3波ダストストーム (10月27日)

また、10月27日には、第3波のダストストームが発生。P.C.Sherrod氏によって、マルガリティファー・シヌス(真珠の湾)北部に明るいダストストームの光点が確認された(画像5)。この様子は翌28日にはハッブル宇宙望遠鏡でもとらえられており、発達中のすばらしい画像が地球に送られてきた(画像6)。このダストストームは、その後は日本で追跡され、シヌス・サバエウス(サバ人の湾)の南のデューカリオニス・レジオまで進むが、大きくは発達しないまま11月4日ごろにはおさまっている。

画像5 ダストストーム(第3波)

10月27日にマルガリティファー・シヌスで発生。撮影/P.C.Sherrod(アメリカ)(画像を拡大)

画像6 ハッブルのとらえた10月28日の火星

砂嵐は、南に向かって、いかにも発達しているように見える。このダストストームの下では、アメリカのオポチュニティーが砂嵐にあえいでいる。巻き込まれた間はやはり太陽発電ができずに休止状態になった。現在は活動できるまでに、太陽の光が届くようになっている。画像提供/NASA(画像を拡大)

ページトップへ

今後は

火星は日没後、東の空に明るく見えるようになったが、それまでオレンジ色だった火星は、ダストストームのため見る見るうちに黄色くなり、星座の中に肉眼で見える火星は、今までになく黄色く見えるようになってしまった。実は、これと同じことは2001年にも起こり、たくさんの人が火星はオレンジ色に見える星ではなく、黄色だと思われてしまった。今回の現象は、火星特有の大規模な変化で、望遠鏡がなくても分かる変化だったのだ。火星面は、まだまだ大規模なダストストームが見える季節だ。目のはなせない状態が今後も続くことだろう。


画像7 ダストストーム(第2波)の発達

(画像を拡大)


●10月18日:Vの形をしたダストストームの姿が面白い。南に向かって2方向に発達しようとしている。
●10月19日:この部分は、地形図を見ると、マリネリス渓谷に入り込む谷が北側にぱっくり開いている部分にあたる。ダストストームの一部は、マリネリス渓谷に侵入し、数日間嵐を引き起こした。
●10月20日:さらに南に拡がっている。
●10月21日:ソリス・ラクスとアルギレに新たな光点が出現。
●10月22日:全体がつながり、大きな黄雲となる。
●10月23日:ソリス・ラクスの黄雲はやや南へ移動。
●10月24日:ソリス・ラクスの形が見えてきた。黄雲は全体として東進(左)している。

ダストストーム発達の動画 (10月17日〜11月4日)

(GIF動画) 996KB

(QuickTime動画) 180KB


ページトップへ