天文ガイド 惑星サロン2008年11月号 (No.75)三品利郎

太白哭星第二星を犯す

吾妻鏡には天文記録が208例もある(*1)といいます。その中に、建保3年11月20- 21日(1215年12月12-13日)に、金星がやぎ座γとδに接近した記録(*2)がありま す。20日にやぎ座γ、21日にはδに接近し、「廿日、乙亥、晴、戌刻、太白迥に 哭星第一星を犯す(七寸の所)と云々」、そして、「廿一日、丙子、亥刻、太白哭 星第二星を犯す(七寸の所)由、陰陽の少允親職御所に参じて申すの間、将軍家南 面に於て之を御覧ず」(*3)と記録されています。興味深いのは、21日の記録です。 源実朝が御所の南面からやぎ座δに接近する金星を観望しています。「幕府のハ レの場である寝殿の南面」(*4)から見たことも重要です。当時、このような天変 は凶兆であり、見ないようにするのですが、実朝は、重要な場所である南面から 見たのです。もしかすると、実朝は天文ファンだったのかもしれません。

今年の暮れ、12月27日に金星がやぎ座γ、28日には、δに接近します。源実朝が 観望した「太白哭星第二星を犯す」(注)と似た光景です。金星と地球の会合周期 の5倍が、ほぼ8年に相当するので、短期的には8年周期で、暮れに、夕方、金星 がやぎ座γδに接近するのを見ることが出来ます。次回は、2016年12月27-28日 になります。

注) 両星が0.7度以内に接近する場合は「犯」、それより離れている場合は「合」 と呼びました。

参考文献: (*1)(*2)斉藤国治 著「古天文学の道」、原書房1990年5月24日第1刷、P50、P59 (*3)龍粛 訳註、岩波文庫「吾妻鏡(四)」、岩波書店1997年3月14日第6刷、P125 (*4)五味文彦 講演「実朝の文化空間」 鎌倉近代史資料 第十一集 実朝の風景、 鎌倉市教育委員会、p44


[図1] 金星とやぎ座γ、δ (Cartes du Ciel V3.0で作成)
左下 1215年12月12日、13日 17h30m、上 2008年12月27日、28日 17h30m
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