天文ガイド 惑星サロン2011年11月号 (No.110)堀川邦昭

北熱帯の謎めいた白斑WSZ

本文中でも登場した白斑WSZは、木星の北赤道縞(NEB)から北熱帯(NTrZ)にかけて よく目にする小白斑のひとつです。NEBの太さによってベルト北部に埋もれたり NTrZに出たりしますが、今年は明るいNTrZ中の大きな白斑として見られます。こ の緯度にある模様は1〜数年の寿命ですが、唯一の例外がWSZで、1997年に形成さ れて以来14年も存続しており、この種の模様としては異例の長寿を誇っています。

WSZは1996年に起きたNEB拡幅現象の余波として生成された、NEB北縁のバージや 白斑のひとつに過ぎないのですが、不思議なことに、当初から他の白斑よりも明 瞭で、自転周期が短いという特徴を持っていました。図2はWSZのドリフトチャー トで、体系IIに対して1日当たり-0.3°前進する特殊経度でプロットしてありま す。動きは一様でなく、大きなふらつきが見られ、他の模様と接近や衝突を繰り 返していますが、WSZはその都度、バージを壊したり他の白斑と合体して生き延 びてきました。それどころか、合体の度に少しずつ大きく成長しています。

この様な特徴を持った要因は何なのでしょうか?形成時に他よりも条件が良かっ たことで先に成長し、アドバンテージを得たという見方もできますが、よくわか っていません。本当に不思議な白斑だと思います。

今後、WSZはいつまで存続するのでしょうか?これからも合体によって成長する ことが予想されますので、大赤斑や永続白斑のように赤化する可能性もあります。 ひょっとすると、北半球の大赤斑になる時がやって来るかもしれませんね。


[図1] NEBの太さによるWSZの見え方の違い
2010年はNEB内部の白斑であったが、NEBが細くなった今年はNTrZにはみ出してしまっている。
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[図2] WSZのドリフトチャート
大きな丸がWSZ、小さな点はNEBの他の模様(月惑星研究会の観測)。
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