天文ガイド 惑星サロン
2017年10月号 (No.181)
三品利郎

「Canal」の誤訳を最初に指摘した人は?

「イタリアの天文学者スキアパレッリ(Schiaparelli)は、彼が見た火星の筋状模様を自然の溝としてイタリア語で"canali"(canalの複数形)と表記しました。 これが"canals(人工的な運河)"と英訳されたため誤解された」と言われています。 この誤訳説は、19世紀末から20世紀初頭の「火星の運河」にまつわるエピソードとしてよく紹介されます。

ところで、最初にこの誤訳を指摘したのは誰でしょうか? 英語の本、例えばシーハンのMars(William Sheehan & Stephen James O'Meara(著)、Mars: The Lure of the Red Planet, Prometheus Books, 2001)を調べてみたのですが、わかりませんでした。 そこで、インターネットを使って英米の昔の新聞や文献を調べてみました。 ニューヨーク・タイムズは、1851年の創刊号からの記事をインターネットで検索することができます。 キーワードを"Schiaparelli"にして、1899年末までの記事を検索したところ、見つけたものが1893年1月23日の記事です。 図はその該当する部分です。

記事を見ると、「cannels」と訳すべきで「canals」は誤りだと、ロッキャー(Lockyer)が論文に書いていることが紹介されています。 どうやら最初に誤訳を指摘したのはロッキャー(Natureの創刊者)だったようです。 ちなみにその論文は、「The Opposition of Mars」(Nature 46, P443-448, 1982年9月28日)でした。 Nature Vol.46は、インターネットのアーカイブ(URL https://archive.org/)で閲覧できます。

[図1] 1893年1月23日、ニューヨーク・タイムズの記事

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