Prof. Ingersoll's Lecture
特別講演:木星大気の力学
Andrew P. Ingersoll
日本語訳 田部 一志


美しい国にお招きいただきありがとうございます。またこのように素晴しい聴衆の前でお話しできることを光栄に思います。

私の話しには2つの問題があります。1つは私が日本語を話せないことです。これは佐藤博士が通訳してくれます。もう1つはアマチュアの人は南を上に絵を見ることです。私はちょっと混乱するかも知れませんがベストを尽くしてみたいと思います。

(最初のスライド)
これはボイジャーの撮った木星の写真です。1枚は可視でもう1枚は赤外によるものです。(訳注:これは実はパロマーの5mの写真です。)赤外は5ミクロンのもので大気を突き抜けてくるスペクトルものです。ここに見られるように5ミクロンは雲全てには見られません。不幸にもガリレオプローブはここに落ちてしまいました。アンテナが開いていないので1/1000のデータしか得られません。

(ガリレオによるSL-9衝突のスライド)
これはガリレオが撮った唯一の木星全面の写真です。SL-9の衝突の時のものです。左から右に時間順に並んでおり時間間隔は2/3分です。火球の前から始まり,明るい点に見える火球が明るくなります。ここではSL-9の衝突についての話しはしませんがガリレオの観測はとても興味深いものでした。ガリレオのスライドを見ながらいくつかの項目について話したいと思います。

1つはガリレオのカメラが捕えた地球の雷雲のような雲についてです。短い1時間位の変化についてです。この大きさの力学的活動が捕えられています。もう1つはプローブの結果,大気組成と風についていい絵を見ながらお話ししたいと思います。

そして最後に木星の渦についての流体力学的モデルについてです。私は気象力学的モデリングをずっと続けてきています。私にとって木星大気で最も面白かったのは,木星の風が非常に安定であるということです。ここ10年に私が発見した中ではこれが一番興味深いものです。アマチュアはこの法則の発見に重要な役割を果たしてきました。もっともガリレオはアマチュアではありませんが。

(大赤斑カラースライド)
これは南が上です。ガリレオによる2色で作られた大赤斑です。1つは756nmでもう1つは410nmです。2つのフィルターによって疑似的にカラー化したものです。アンテナトラブルで多くの映像は得られませんが最良のものです。

(赤外の大赤斑)
また,このスライドの下の絵は大赤斑で3つの赤外フィルターによっています。強いメタンの吸収を赤,弱いメタンの吸収を緑,隣接する連続光を青で表わしています。メタンは木星大気ではガスで,光を反射することはありません。メタンの赤い色は雲が高いことを示しています。大気中の高い高度にあるということです。700〜800nmのイメージに近いものです。それゆえこれはカラー写真というわけではなく雲の色はその高さなのです。

小さい白い雲は非常に高い雲で,大赤斑の中心は非常に高い薄い雲に覆われています。しかしそれを通してその下の大赤斑の雲を見ることができます。大赤斑は薄いヘイズ(霞)に覆われているのです。大赤斑の回りの暗い部分は雲の無いクリアーなエリアで内部から5ミクロンのエミッションがやってきます。

もう1つの面白いことが下の白い四角内にあります。上の2つのイメージは75分の間隔を置いて撮られたものです。小さい雲は250kmの大きさです。近くによれば75分の変化が見られるでしょう。われわれはこれらは雷雲に近いものであると考えています。

雷光について話しますと,1月の内にガリレオは木星の暗い側の写真を撮りました。木星が半分明るく,半分暗く見える位置からです。この部分が2h後暗い側に回った時,雷による発光が見られました。


(大赤斑周辺のスライド)
小さいが興味深い模様が左下に見られます。見せましょう。
これらは木星大気の波動です。波の大きさは250kmです。上の写真はその10時間後のものですが波はどこかへ行ってしまいました。来年ガリレオは波のスピードを測るために20分間隔という短い間隔の連続写真を撮る予定です。波のスピードの測定は木星大気の構造について何かを語ってくれるでしょう。

(永続白斑)
これらは,3つの永続白斑のうちの2つです。確か1938年に形成され。。。これについてはアマチュアの人の方が良く知っているでしょう。
循環はこうです。ガリレオの時3つの白斑はお互いに近くにありました。1つ,2つ,(画面にはないが)3つ。これは高気圧的な循環で,これは低気圧的です。2つによって圧縮されています。

われわれは45分おきのタイムシーケンスを持っており,これはこのように,これはこのように回転しています。この写真は明らかに色を強調したもので,本物に近いのは下のカラー写真です。

(EZ)
これも南が上です。このあたりが北緯6.5°にあたります。この部分はガリレオが落ちたのと同じホットスポットの1つで上のイメージを見ると雲の無い深いところであることが分かります。プローブはまさにここに落ちてしまいました。このあたりは高い雲ですが,このあたりをプローブで見て見たかったものです。

ここで話題を変えて,木星大気の鉛直構造についてお話ししましょう。

木星と土星の深さ(高さ)と温度の関係を表わしたグラフです。高さは100mbのところを基準としたkmで表わされています。100mb,1b,10bの間に3つの雲の層があります。プローブはアンモニアの雲を見,NH4SHは,Sは地上の観測では全く見られませんが、少量の水の雲を見ました。

木星大気の標準モデルは太陽の組成です。それは太陽をちょっとつまんできたなら,水素,炭素,酸素,窒素,硫黄,ナトリウムの原子の数が太陽と木星では同じ割合で混ざっています。それを冷やすと酸素と水素が水となりNH3ができ,木星と同じものとなります。これは,木星の組成が太陽と同じようであるかどうかの良いテストとなります。


(アレンデ隕石の組成)
これは木星ではありません。アレンデ隕石と太陽組成を比べたものです。これはNew Solar Systemからのものです。良い本ですのでお奨めします。

多くの物質が10-5を超えるまでほぼ直線に乗っています。これは何を意味するのでしょうか?それは太陽組成モデルはアレンデ隕石に対して良く合っているということです。アレンデ隕石ではC,H,Nなどくつかがズレていますが、巨大惑星ではこれらも直線の上にあると思われます。

Cool a piece of the Sun to Planetary temperature

     H2    1,000,000
     He      150,000
    H2O       1,500
     CH4       1,000
     Ne          600
     NH3         150
     N2S          30

モデルではこうなります。

実際の結果はCH4は3Solar,H2Sも約3Solar,NH3は4Solarでした。これは未出版のガリレオの電波シグナルの解析によるものです。これを公開するのは始めてです。

S,N,Cは3〜4Solar を示しています。これは水に対しても3〜4Solar が期待できる数値です。しかし、ガリレオのプローブはわずか5%の水しか見つけられませんでした。水はどこへ行ってしまったのでしょう?

ある宇宙化学者(cosmchemist)は、私は気象学者ですが、気象的なプロセスによって水が無いのだろうといい、気象学者は多分宇宙化学的木星の組成に原因があるのだろうといいました。私は、宇宙化学者が正しくガリレオが乾いたスポットに落ちてしまったと考えています。NIMS(近赤外線スペクトロメータ)の観測がそれを示しています。これがガリレオプローブの水の謎です。

さて、また話題を変えて木星の風について話しましょう。

気象学者は木星の風は驚くべきものと考えています。これは緯度と磁場の自転を元にした。系に対する風の分布です。こちらは1979年のボイジャーの観測、こちらは15年後、1994年のHSTの観測です。もっとも大きく違っているのはこの部分です。

これはReta Beebeによるもので、Retaはここにスポットがあって測定されこうなったと考えています。でも全体ではほとんど変わっていません。

何故風はこうなるのでしょう?プローブは正しくこの点に落ちました。ホットスポットのようなところですが、このあたりはこの高度では100m/sの風で移動しています。Hot Soptも103m/sで移動しています。これらは雲頂の動きです。

プローブが下るにつれてシグナルは20bまでの動きを知ることが出来ました。木星の興味深い風についてのスライドです。木星は他の巨大惑星と比べると最も弱い風しか吹いていません。土星は500m/s、海王星は400m/s、天王星は200m/sでしかも西向きです。海王星の受ける太陽光は木星の数%です。海王星の内部熱源も木星の数%です。風の駆動力において海王星は50倍も劣っているのです。でも風は強いのです。これは妙です。

これに対する答えはありませんが、太陽光と内部熱は大気の外側に小さいスケールの運動を誘起します。小さいスケールの運動は大気の乱流に代表されます。木星は非常に乱流的ですが、海王星はそれほど乱流的ではありません。乱流は消散して大規模な大気の運動を抑えるように働きます。木星には乱流が大きく、海王星は乱流が小さいので海王星の方が運動は大きいのです。木星は粘性が大きく、海王星は粘性が小さいともいえます。実際に見ても木星は海王星よりずっと乱れています。

OK。それではプローブに戻って、プローブは雲頂で100m/sの風の吹くこのあたりに落ちました。これは今の図と同じですが横軸をずっと縮めたようになっています。これも未出版ですが、Natureの今週号に載ってるでしょう。ここが雲頂です。0.5barです。

驚いたことに風は内部ほど強くなります。ここが5barで水の雲の底になります。さっきのスライドで3つの雲の層があったのは覚えてますね。NH3,NH4SH,H2Oの3つです。水の雲以下では風ははぼコンスタントのように思われます。

太陽光はこのあたり(5bar)までしか届きません。これ以下は内部熱が上がってきます。ここでの風は内部熱によって駆動されているのです。それはずっと奥深くまで続いているのでしょう。

これは、木星と土星の内部フラックスに関する2つのモデルです。右は全ての運動は薄い数100kmの層の中で起こっているとするものです。下の方は小さいスケールの乱流でよくかき混ぜられています。

もう1つは、風は雲の頂きから非常に深いところまで続いておる、シリンダー状に回転しています。ガリレオプローブはこのあたり(2000km)のところまで測りました。こちらのモデルの方が好ましいことが判りました。

(ボイジャーによる大赤斑と小さな渦の合体)
渦についても興味深いことが判りました。南が上です。時間は左下から右上へ流れます。これは1979年のScienceに出ています。ここの小さなスポットが大赤斑の回りを回っています。最後は大赤斑の中に混ざってしまいました。ボイジャーは多くのイメージをとっていますのでこのような事がわかりました。ボイジャーは多くの斑点同士の合体例を観測しています。わたしはこの様子のシミュレーションをずっと行なってきました。

地衝モデル(geostrophic model)、浅水モデル(shallow water model)、傾圧変形モデル(baroclinic modulate model)等を用いてきました。コンピュータシミュレーションを始めた頃は安定な渦を作るのはとても難しく、ある仮定のもとでは渦は安定ですが、別の仮定の下では渦はすぐに壊れてしまいました。しかしながら、雲の下の運動、雲の下の温度構造についての仮定について話しましょう。仮定であって、こうでなければならないというものではありません。

シアー流中の渦は常に安定です。いくつかのグループ、例えばG.P.Williams,私の学生Tim Dowlingや同じくP.G.Cuong,Phil Maercus等は異なる条件の下でも安定な渦を作っています。疑問は、何故木星の渦は安定なのか?ではなくて不安定な渦が何故あるか?に変わります。例をお見せしましょう。

(シミュレーション結果)
時間は下から上へ6つのタイムステップです。Cuongと私の1981年の仕事です。2つの安定な渦がシアーの中にあり、合体して1つの切っぱしを吐き出します。これは安定な渦の例です。

(Dowling and Ingersoll 1988の図)
これはTim Dowlingの仕事です。時間は左下から右上に流れます。ここが赤道でここが-40度です。ここに観測された風のプロファイルをいれて始めると、始めは安定ですが大赤斑の緯度に多くの不安定が現われ、お互い合体して最後は1つの大きな渦になります。

この渦は大赤斑の緯度にあります。これはShallow Water modelです。私の感じでは風はずっと深くまで続いていますが、渦は雲層に限られていると思います。ガリレオは追加観測を数ヵ月行ないますが、木星の夜側のものです。

(オーロラの写真)
最初の話し(パタのオーロラの発表)と比べると面白いでしょう。これは木星のオーロラです。これは可視で捕えた木星オーロラの始めてのものです。 HSTのは赤外のものでしたがこれは可視です。ここはまさにストリーマが集中して明るくなっている点です。緑の部分は散乱光です。木星が半分明るく、半分暗い状態で撮影していますので、これは暗い部分のものですが、太陽光がカメラの光学系に入り込んで緑のバックとなるのです。オーロラのムービーを撮れば、このあたりのイオのホットチューブの動きが判るでしょう。この部分はジオメトリーが難しいのでしょうが、バックに星が写れば改善されるでしょう。

(雷)
これは暗い面での雷光です。ボイジャーのものです。興味深いのですが、問題は木星の暗い面でしか撮れないことです。そしてガリレオが木星に対して暗い面を見る位置にいるときは木星から遠いので光が弱くなってしまうのです。ガリレオが明暗半々の場所で撮影できる場合には2時間も待てば明るいエリアに(該当する雲が)回ってきますので、どの嵐から雷光が出ているか見ることができるでしょう。エキサイティングです。

わたしはコンピューターモデルを作り、P.J.Gieraschは雲の構造について調べ、わたしの学生A.Seiffは風を測り、Journal of Geophysical Reserchに発表されでしょう。

ありがとうございました。