2008/05/20

ALERT "Conjunction of STrD-2 with the GRS"
(Yuichi Iga)

注目、STrD-2(小赤斑)が大赤斑に接近




ドリフトチャート(原寸イメージはこちら
南熱帯のII=160度に位置する小赤斑(Little Red Spot)STrD-2が、II=123度に位置する大赤斑の後方に接近しています。

この小赤斑は、2007年のシーズンに同時に発生した南熱帯攪乱の1つであるSTrD-2が変化したものと考えられています。また、小赤斑はメタンバンドで明るく写ることから、木星大気の高層まで吹き上げている渦であり、大赤斑やSTB白斑と同様な高気圧性斑点(anticyclonic oval)です。

昨年の2個の南熱帯攪乱のなごりと思われる高気圧性白斑はゆっくりと前進を続けています。ドリフトチャートから、STrD-2は-0.28度/日(-8.34度/月)、STrD-1は-0.40度/日(-11.9度/月)のドリフトを示しています。このままのドリフトを続けると、STrD-2は6月下旬には大赤斑後方に達すると予想されます。


ObjectLongitude(II)Length(deg.)
STB Oval BA151.410.6
GRS123.616.2
STrD-2 LRS159.45.5

興味ある模様の5月5日の経度と長さ(C.Go氏画像から計測)

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最新情報

The Little Red Spot accelerates now, and may approach to the GRS on late May.
小赤斑が加速し、5月下旬にも大赤斑直後に迫る!
(5/19)

堀川邦昭氏から送られてきた最新のドリフトチャートを見ると、減速傾向にあった小赤斑が再び加速を始めたようです。

4月初めに、後方からSTB白斑"BA"が接近すると、小赤斑は減速し、停滞するかのように思われました。しかしながら、STB白斑"BA"が南方を通過し終えた5月10日ごろから、小赤斑は再び加速して、元のドリフトを取り戻したようです。さらに、5月中旬にはさらに加速している可能性も見られます。

小赤斑が大赤斑の影響を受け始めるのは、経度がII=140度の大赤斑孔後端に差し掛かるタイミングと予想されます。小赤斑が最も加速したと想定すると5月27日ごろに、"BA"と同じ速度で前進したと想定しても6月10日ごろに、小赤斑は大赤斑の影響を受ける領域に達するものと思われます。

小赤斑が大赤斑孔に達すると、さらに加速することが予想されます。2つの赤斑の会合現象は、早ければ6月上旬に見られる可能性が出てきました。


This original chart was created by K.Horikawa (2008/05/19)
red: GRS, blue: LRS, green: STB oval "BA"

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今後の予想

小赤斑(STrD-2)が6月下旬ごろに大赤斑に接近すると、どのような現象が見られるでしょうか?このような大型の渦が大赤斑の後方から接近する過去の観測はありません。予想される現象を書き並べてみました。


(A) STrD-2は大赤斑後方で停止し、消滅する。

南熱帯攪乱の循環気流から生まれた小赤斑は、過去には1986年に観測されています。1985年に発生した南熱帯攪乱の位置に、翌1986年には今回と同じ形状の小赤斑が観測されました。ただし、この小赤斑は1987年1月に大赤斑に達する前に消滅しました。

2006年5月に大赤斑後方で南赤道縞南縁の暗部が南赤道縞から離れ、南熱帯の暗斑が形成されました。この暗斑は南熱帯を前進しましたが、大赤斑に到達する前に消滅しました。

今シーズンのドリフトチャートを見ると、小赤斑は5月5日にわずかに前進速度が減速しています。

(B) STrD-2は無事に大赤斑を通過する。

小赤斑はこのまま南熱帯を前進し、大赤斑の後方に達すると、大赤斑を南に迂回するように移動します。小赤斑は大赤斑と南温帯縞との間の狭い領域を通過し、大赤斑の前方に移動します。この時、小赤斑は細く引き伸ばされるでしょう。大赤斑通過後も、同じ程度の大きさの小赤斑として南熱帯の中央を前進し続けます。

(C) STrD-2は大赤斑を循環する気流に乗って、大赤斑の周りを回ってマージする。

同じ緯度にある南熱帯の暗斑でも、大赤斑の前方にあるものは、南赤道縞南縁を後退します。そして、大赤斑前端に達すると、大赤斑孔に沿って大赤斑の北側を回り込み、大赤斑の後方に移動します。この時点で大赤斑を循環する気流に乗っているために、暗斑はそのまま大赤斑の南側を回り込みます。暗斑は大赤斑孔に入り込むと、細く引き伸ばされます。

今回の小赤斑が、大赤斑後方に達した際に、大赤斑孔に入り込んでしまうと、大赤斑を循環する気流にとらわれてしまいます。暗斑が大赤斑の周りを回転していると、そのうちに大赤斑の巨大な渦に取り込まれてしまい(マージ)、暗斑は見えなくなってしまうでしょう。

(D) STrD-2はすぐに停止して、その後ゆっくりと後退を始める。

小赤斑は、大赤斑に到達する前に前進運動をすぐに停止するかもしれません。そして、小赤斑は今度はゆっくりと後退を始めるでしょう。この場合は小赤斑と大赤斑の会合は起こりません。また、小赤斑はその後も生き残ります。

これはBAAのJohn Rogers氏から提案された予想の1つです。


以下のケースは可能性は低いかもしれませんが、予想される全ての現象を網羅するために掲載します。

(E) STrD-2が大赤斑を通過すると、南熱帯攪乱が復活する。

この予想は(B)と似ていますが、小赤斑が大赤斑の南を通過した後に、南熱帯攪乱が復活するかもしれない点でユニークです。過去の観測によれば、STB白斑が大赤斑の南を通過した直後に、南熱帯攪乱が発生している例が何回かあります。

今回は、6月下旬にはSTB白斑"BA"がちょうど大赤斑の真南に位置しており、そこに後方から小赤斑が追いつくことがトリガーとなって、大赤斑の前方に再び南熱帯攪乱の暗部が出現するかもしれません。この場合、南熱帯攪乱の循環気流から生まれた小赤斑が、大赤斑通過によって、再び循環気流に戻ることになります。

これは堀川邦昭氏から提案された予想の1つです。以下は堀川氏による予想の解説です。

LRSは大赤斑後端に近づくにつれて、緯度が高くなり、スピードもアップするでしょう。そして形が崩れて東西に引き伸ばされながら、大赤斑とBAの間の狭いチャネルに入り、そこで消失すると思われます。
その代わりに、大赤斑南側のアーチが顕著になり、大赤斑前端にはdark streakが出現します。dark streakはBA前方のSTBnと一体となって、濃く太いベルトがSTrZに形成されます。南熱帯攪乱というよりは、Rogersの言うディスロケーションに近いと思われます。dark streakは9h53m台のスピードで前方に伸張し、1〜2ヶ月程度で淡化消失するでしょう。
(F) STrD-2はSTB白斑"BA"と相互作用して、2つの白斑はマージする。

6月下旬にはSTB白斑"BA"が大赤斑の真南に位置しています。通常であれば、南熱帯の暗斑などは大赤斑とSTBとの間の狭い領域を通り越して前方に進むと考えられます。しかしながら、今回の南熱帯の小赤斑は規模が大きく、まさに待ち受けているかのようなSTB白斑"BA"と相互作用を起こすかもしれません。そして、STB白斑"BA"と小赤斑"LRS"はお互いの周りを反時計方向に回りながら、最終的にマージし、新しいSTB白斑"BAL"ができるかもしれません。


さて、実際にはどうなるでしょうか?



These are added because all events are covered though the possibility may be poor.

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Drift chart


Created by K.Horikawa (2008/05/19)
red: GRS, blue: LRS, green: STB oval "BA"

Created by Y.Iga (2008/05/12)

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議論

伊賀祐一 (2008/05/12)
私は(B)だと考えていますが、皆さんの考えはいかがでしょうか?
あるいは別な現象を予想される人や、現象の説明の誤りや補足することがあれば、教えてください。
米山誠一 (2008/05/12)
大赤斑と小赤斑がマージするという選択肢は無いのでしょうか。

正に、訂正された(C) STrD-2は大赤斑を循環する気流に乗って、大赤斑の周りを回ってマージする。 のイメージを抱いていました。
どちらにしろ結果が楽しみです。
平林 勇 (2008/05/13)
大変興味深い現象ですね。
あの巨大な壁のようなSTrDが、どの様にしてこのはっきりした高気圧性の小白斑に変身したのかを推測するのも面白いと思います。

過去(20世紀前半)の事例としてSTrDが大赤斑に追いつき、RSの前方に現れたことは何回もありました。そのなかでRSを短時間(抽象的な表現ですが)のうちに追い越した事例がわかっています。(惑星ガイドブックU、P80@以降記述)。場合によりRSとSTrDが重なって見えたこともあるようです。またこの衝突の繰り返しでRSの自転周期も影響を受け、RS後退速度が鈍ったことも記録されています。

そこから類推すると、この白斑は伊賀さんが言われるように速度を上げてRSの南をすり抜け、RS前方へ抜けるような予想をしたくなります。
それにしてもはっきりしているRS南縁とSTBの間は狭く、ここを通過するとき白斑はどの様な形に変形するのでしょうか。RSの自転周期はどのように変化するのでしょうか。  さてどうなるか楽しみですね。注目しましょう。
堀川邦昭 (2008/05/14)
小赤斑が到達する頃は、ちょうどBAが大赤斑を通過中だと思いますので、ただでさえ狭い大赤斑南側のチャネルが、さらに狭くなって、そう簡単には通れないのでは?
通過中に潰れて消失するか、大赤斑の右上に挟まって動けなくなるか・・・これだと、(A)となりますね。

このサイズの暗斑が大赤斑に後方からぶつかるというのは、過去に例がないと思いますので、予想外の展開になるかもしれませんね。小赤斑は壊れて南熱帯攪乱が蘇るとか・・・
最後の部分は根拠ありません。話を面白くするために書いてます。
瀧本郁夫 (2008/05/14)
私は、伊賀さんの意見の中で、上記の(C)が個人的には見てみたいのですが、惑星ガイドブックにも例があったように、GRSの縁をグルグル回る様子を見てみたいのです。
でも、天候が・・・良い条件の下で観測したいものです。
とにかく、STrD-2の様子に注目です。
John Rogers (2008/05/14)
Regarding the LRS, I think (A) is most likely; or
(D) it may stop moving soon and begin to increase longitude slowly.
But you may be right with (B), or (C).

[Japanese]
『私は(A)が最もであるように思う。あるいは、
(D) STrD-2はすぐに停止して、その後ゆっくりと後退を始める。
でも、(B)あるいは(C)が正しいかもしれない。』
堀川邦昭 (2008/05/15)
>(D) STrD-2はすぐに停止して、その後ゆっくりと後退を始める。

Rogersはさすがですねえ。私も最初はそのように考えたのですが、選択肢になかったので(A)にしました。

STrZの模様の動きはSEBsとSTBnのジェットストリームの速度勾配に完全に支配されています。LRSが前進しているのは、緯度が-24°と他よりやや高めに位置しているからで、ちょっとした不安定要因で緯度が-23°に下がれば、間違いなく後退運動に転じます。

Rogers説(D)にも1票入れさせていただきます。
中村淳一 (2008/05/16)
STrD-2の大赤班接近への、皆さんの予測をとても、興味を持って、拝読しておりました。
私の見たい現象としては、(C)の「大赤斑を循環する気流に乗って、大赤斑の周りを回転する。」ですが、Rogers氏の説(D)に、なりそうな気がします。
伊賀祐一 (2008/05/18)
3月15日の観測画像をながめていると、STB白斑"BA"がずいぶんと大赤斑に近づいたことが分かります。6月下旬にはSTB白斑"BA"が大赤斑の真南に位置しています。そうすると、南熱帯の小赤斑が大赤斑に接近する際に、STB白斑"BA"の影響が無視できないのではないかと思うようになりました。

そこで、可能性は低いかもしれませんが、次の2つの考えを追加することにしました。

(E) STrD-2が大赤斑を通過すると、南熱帯攪乱が復活する。
これは堀川氏の提案(5/14)ですが、STB白斑が大赤斑の南を通過した直後に、南熱帯攪乱が発生している例が過去には何回かあります。6月下旬にはSTB白斑"BA"がちょうど大赤斑の真南に位置しており、そこに後方から小赤斑が追いつくことがトリガーとなって、大赤斑の前方に再び南熱帯攪乱の暗部が出現するかもしれません。
(F) STrD-2はSTB白斑"BA"と相互作用して、2つの白斑はマージする。
今回の南熱帯の小赤斑は規模が大きく、まさに待ち受けているかのようなSTB白斑"BA"と相互作用を起こすかもしれません。そして、STB白斑"BA"と小赤斑"LRS"はお互いの周りを反時計方向に回りながら、最終的にマージし、新しいSTB白斑"BAL"ができるかもしれません。
堀川邦昭 (2008/05/19)

ドリフトチャート(原寸イメージはこちら
この暗斑、動きが非常に不安定です。
一時、止まりそうになったのですが、また加速しているようです。
予断を許しませんね。
天文ガイドの原稿を書いていますが、何と書くか思案中です。


ドリフトチャートを添付します。
米山誠一 (2008/05/19)
暗斑の動きは、確かに不安定ですが、BAとの関連性がある様に感じました。BAに追い越される時に、前進速度が低下し、BAが追い越したら、また加速しています。

昨年のSTrDで発生した循環気流に乗った暗斑も、BAの影響を受けた様に感じていました。
伊賀祐一 (2008/05/19)
堀川さんのドリフトチャートは、4月10日ごろに始まった小赤斑の減速と、5月10日ごろからの小赤斑の再加速を見事に表現していると思います。小赤斑の前進速度がSTB白斑"BA"の南方通過に完全に依存している証拠ですね。

詳しく見ると、5月中旬には小赤斑がさらに加速しているようにも見えます。小赤斑が大赤斑孔後端(II=140度)に達すると、何らかの相互作用が始まるような気がします。もっとも速い加速を考えると小赤斑は5月27日ごろに、"BA"と同じ速度を想定しても小赤斑は6月10日ごろに、大赤斑孔後端に達することが予想されます。

当初予想していた6月下旬の小赤斑と大赤斑との会合は、早ければ6月初めにも観測できる可能性が出てきました。
堀川邦昭 (2008/05/20)
LRSの再加速は昨日、ドリフトチャートを作成して初めて気がつきました。

速度変化は緯度の変化と連携していると確信していますが、今のところ、測定数が少なくてよくわかりません。

> (E) STrD-2が大赤斑を通過すると、南熱帯攪乱が復活する。

これは半ば冗談で書いたのですが、「堀川説」になってしまったので、少しまじめに考えてみました。

LRSは大赤斑後端に近づくにつれて、緯度が高くなり、スピードもアップするでしょう。そして形が崩れて東西に引き伸ばされながら、大赤斑とBAの間の狭いチャネルに入り、そこで消失すると思われます。

その代わりに、大赤斑南側のアーチが顕著になり、大赤斑前端にはdark streakが出現します。dark streakはBA前方のSTBnと一体となって、濃く太いベルトがSTrZに形成されます。南熱帯攪乱というよりは、Rogersの言うディスロケーションに近いと思われます。dark streakは9h53m台のスピードで前方に伸張し、1〜2ヶ月程度で淡化消失するでしょう。

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