(2)木星観測
●STrZの白斑と大赤斑との衝突
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STrZの白斑(SEBsに湾入)が大赤斑に接近していましたが、いよいよ衝突したらどうなるのか、東京本部と共同で観測キャンペーンを行ってきました。安達氏はかつてSEBsの暗斑が大赤斑の上を通過した観測もあり、いろいろな予想が立てられました。
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1.大赤斑をそのまま通り越す。
2.大赤斑の北側をう回して通り越す。
3.大赤斑の回りをぐるりと回り、大赤斑に取り込まれる。
4.大赤斑の直前で反発して止まってしまう。
これまでに観測された支部のスケッチや、Webで公開されている画像から、今朝(6月13日UT)までのSTrZの白斑と大赤斑の衝突現象をまとめてみました。日付は全てUTです。
4月上旬(Pic du Midi)-
大赤斑の前方のSEBsに湾入している白斑が捉えられている。
4月(HST画像)-
紫外域での画像に大赤斑の直前に迫った白斑の詳細構造が写っている。1996年10月の同じ波長の画像よりも暗くなっている。
5月上旬(HST画像)-
大赤斑直前の白斑が撮影されていて、白斑の渦は大赤斑の大きさの半分程度もあることがわかる。
5月 5日(伊賀スケッチ)-
STrZの白斑は大赤斑の直前にいて、SEBsの肩が凹んでいる。会合はまだ始まっていない。
5月10日(浅田氏CCD画像、伊賀スケッチ)-
浅田氏の画像ではSEBsの肩が明確に凹んでいて、大赤斑との会合はまだである。伊賀の観測ではRS Bayの左に白斑が描かれているが、これは誤りであろう。
5月12日(宮崎氏CCD画像)-
白斑は大赤斑と接触しているように見え、いよいよ衝突の始まりを思わせる。まだSEBsの肩は凹んでいる。
5月15日(Parker氏CCD画像)-
白斑はSEBsの肩にいて、SEBsの肩は凹んでいる。
5月17日(浅田氏CCD画像、安達氏スケッチ、伊賀スケッチ)-
浅田氏、安達氏の観測では白斑はまだ大赤斑の直前に位置している。SEBsはわずかに凹んでいる。伊賀は大赤斑の左下が明るく、ここにいるのではないかと報告。
5月20日(宮崎氏CCD画像)-
大赤斑の左下が明るく、白斑がRS Bay内に侵入し、北にう回している様子が捉えられている。
5月22日(Parker氏CCD画像、浅田氏CCD画像、伊賀スケッチ)-
Parker氏、浅田氏の画像には白斑は明確に捉えられていない。大赤斑の南側が明るく、ここに白斑が存在している様子だ。伊賀の観測では、大赤斑の南側の明部が17日よりもさらに後方まで伸びていると報告。
5月24日(宮崎氏CCD画像)-
大赤斑の北のSEBs Bayが凹んでいて、白斑は大赤斑を北にう回して進んでいる様子が捉えられている。また、大赤斑の直前のSEBsと大赤斑直後のSEBsの両方に、白斑らしきものが存在している。白斑の本体はRS Bayの大赤斑の北に位置しているが、この渦が分かれたものが涙型に気流に引き伸ばされているように思われる。
5月27日(伊賀スケッチ、堀川氏・繭山氏報告)-
大赤斑の左下が明るく、涙型に引っ張られた白斑のように思われる。大赤斑の前後の白斑は認められない。
5月29日(宮崎氏CCD画像)-
大赤斑の北半分が全体として明るく、白斑はこの中に埋もれている様子である。24日に認められた大赤斑の前後の白斑は見えない。
6月 2日(Pic du Midi)-
大赤斑の直後のSTrZに明確な白斑が見える。白斑は無事に大赤斑を通過したようだ。大赤斑の北側も明るく見える。
6月 3日(Parker氏CCD画像)-
2日のPic du Midiの画像と同様に、大赤斑直後のSTrZに白斑が見える。大赤斑の北や前方には白斑は認められない。
6月 5日(Murrell氏CCD画像)-
大赤斑直後のSTrZに白斑が認められる。また大赤斑の北にも白斑らしきものが写っている。
6月 6日(伊賀スケッチ、堀川氏報告)-
2人とも大赤斑の北側は明るいが白斑は認めていない。伊賀の観測では大赤斑直後のSTrZにも白斑はいないが、STrZが明るく見えている。
6月 9日(Pic du Midi)-
大赤斑直後のSTrZの白斑はどこにいるのか不明。大赤斑直後のSTrZからSTBを超えてSTZにかけて淡い白雲が見えるが、詳細は分からない。
6月11日(Pic du Midi)-
大赤斑直前のSTrZに淡い白斑が見えるが、注目している白斑かどうかは不明。大赤斑の南を取り巻くアーチがI-Bnadで顕著。
6月12日(Pic du Midi)-
大赤斑直前のSTrZが明るいが、白斑かどうかは不明。大赤斑の左上がいびつに膨らんでいて、白斑かもしれない。大赤斑後方には白斑は写っていない。
6月13日(浅田氏CCD画像、安達氏スケッチ、伊賀スケッチ、繭山氏報告)-
大赤斑付近はノーマルな状態に見える。大赤斑の前後にも、北側にも白斑らしきものは認められない。
STrの白斑は5月22日まで大赤斑直前のSEBsに位置し、大赤斑との衝突はこの頃に起こったものと思われます。白斑は大赤斑の北側をRS Bayに沿って進み、5月29日には大赤斑の真北に位置しました。この時、大赤斑直前と直後のSTrZにも白斑が認められており、白斑の渦が大赤斑の回りの強力な渦に取り込まれて伸び切った様子が見られます。
6月2日には白斑は大赤斑直後のSTrZに再び白斑として姿を現しました。この状態は6月5日まで続いたようですが、6月6日以降は行方が分からなくなってしまいました。Pic du Midiの画像では6月9日から12日にかけて、白斑が大赤斑の南側をさらにぐるりと回っているかのように見えますが、6月13日の日本での観測では白斑はどこにも認められませんでした。
大赤斑の強力な渦は、相当後方のSTrZにまで影響する可能性もあり、白斑は無事に大赤斑をすり抜けたのか、再び大赤斑に取り込まれたのかは分かりません。今後の観測で明らかになることを期待したいと思います。
●永続白斑の接近
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STBの南に湾入している3個の永続白斑(BC,DE,FA)は、1940年に初めて観測されて以来、次第に経度方向の長さが減少しています。それと共に、永続白斑の間隔が縮まっています。1996年には接近する永続白斑の間に、いくつかの白斑が観測されました。この白斑群は以下のように1996年の木星会議で命名されました。
11月3日、6日、8日(Pic du Midi)-
O--O--o--O----- 木星会議の通りです。
---O-----O------- 左から -BC-WS1-DE-WS2-WS3-FA-
その後、さらに永続白斑の距離は短くなっており、今年に入っての観測では中間の白斑が見えなくなっています。Pic du Midi天文台の公開画像を中心に、これらの永続白斑の様子を追ってみました。
12月16日、19日(Pic du Midi)-
O--O--*--O----- WS2がみにくくなっています。
---O-----O-------
2月20日(Pic du Midi)-
OoO-----O----- WS1が南に移動し、BC-DEの距離が短い
--------*-------- WS2とWS3が一体として淡い。FAも近く
なった。
4月2日、3日、5日(Pic du Midi)-
O-O-----O------ WS1が元の緯度に戻る。
---o---*---------- WS2+WS3は淡くて見にくい。
4月10日、12日、14日(Pic du Midi)-
OoO-----O------ WS1が南に移動し、BCとくっついている。
------------------- WS1とDEの境界ははっきりしている。
WS2,WS3は消失して、STB全体がshade状態。
5月2日(Pic du Midi)-
OoO-----O------ WS1はより小さく、今度はDEとくっついて
------------------- いる。BCとWS1の境界ははっきりしている。
5月15日、22日(Parker氏CCD画像)-
OoO-----O------ WS1はより小さくながら、BCとくっついて
------------------- いる。
5月29日、6月2日(Pic du Midi)-
O*O-----O------ WS1は非常に淡くなってきたが、まだ存在
------------------- している。WS1はBCとDEの両方と相互作用
している様子。6月2日のメタンバンドでは
BC,DEは独立している。
残念ながら眼視による観測では永続白斑ははっきりと見えるのですが、その間のWS1は検出されていません。今後さらにBCとDEは接近すると予想されますが、その間のWS1はどのようになるでしょうか。
また、永続白斑は前進しており、大赤斑を追い越すのは7月頃と予想されます。永続白斑が大赤斑を追い越す際に、どのような変化を見せてくれるでしょうか。大赤斑に後方から接近すると、緯度をやや北寄りに変え、大赤斑に引き寄せられるかのように加速し、その後再び元の緯度に戻り、平常の前進速度に戻ることが予想されます。どのような現象が見られるのか、いくつかの予想を立ててみました。
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(1)現在の距離を保ったまま通過する。
(2)BCとDEが通過する際に合体してしまう。
(3)BCとDEが通過する時間差のために現在よりも距離が離れてしまう。
さて、どのような現象が観測されるのか、注目したいと思います。
●NEBnの白斑(notch)
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今シーズンのNEBnにはいくつかのnotch(Rogers先生はportholeと呼んでいる)が観測されています。眼視でも比較的明確に見えています。浅田氏のCCD画像、Pic du Midi天文台の画像から、これらのnotchは第U系に対してほとんど動いていないことが分かりました。6月上旬には、7個のnotchが認められ、経度は以下のようになっています。
- 15°,30°,100°,150°,190°,220°,285°
また、このうち、285°にあるnotchには、前後にbarge(赤茶色の暗部)を伴ったtriplet構造が見られます。このtriplet構造は5月9日の浅田氏のCCD画像に最初に見つかり、その後は5月26日、31日、6月7日、12日と観測されています。2個のbargeの間はnotchではなく、北に開いた白斑であることが明らかになりました。
●NTBおよびNTZ
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今シーズンのこの領域には活発な活動が観測されています。いくつかの暗柱や暗斑、あるいは白斑が見つかっています。
5月10日のω2=50°付近のNTrZに出現した白斑は、その後22日、27日には経度方向の長さが増加し約30°程度に成長しています(浅田氏CCD、伊賀)。6月6日にはω2=150°付近に暗斑が出現し、その後方には長さ30°程度のほそ長い白斑を伴っています(浅田氏CCD)。
NTZには5月6日のω2=202°に暗斑が出現し、11日にも観測されました(伊賀)。この経度にはPic du Midiの4月上旬、5月上旬にも同様な暗斑が撮影されています。5月上旬のHSTの画像には、この経度に見事な長さ10°ほどのbargeが撮影されています。
●SEBZ
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5月26日のSEBZ内のω2=305°に白斑が観測されました(浅田CCD、伊賀スケッチ)。その後も6月7日にも観測されています(浅田CCD)。この付近のSEBはSEBnが二条に分かれ、SEBの中央組織が濃く見えている場所で、SEBsとの狭い領域に白斑が見られます。今後、SEBが淡化する可能性もあります。
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